何してんだ?

 部屋に入るとケントが机に向かっていたのでホレイショーは覗き込んだ。

次の舞台の台本を確認してるんだ

次の舞台?
もう他のを考えてるのか?
今のが人気なんだ、もう少し続けてみたらどうだ?

 あれからコーディリアの舞台ダブルスーサイドは順調で、連日ほぼ満員といった状況だ。
 予定では残り十公演で千秋楽を迎える。

いや。コーディリアに、今のティンクチャーの役が定着してしまう前にすぐに別の役をやらせたいんだ

ほぉー、なかなか熱心な先生っぷりだな

 ホレイショーはなぜか楽しげにそう言った後、ふと黙り込む。

……お前は?

え?

 ケントはようやく顔を上げた。

お前はもう演じ飽きたのか?

……いや、そうじゃないが、育てるのもおもしろいもんだって知ったのさ。
次のは出来たら出るつもりだ

そうか……。
よかったよ、あの大根舞台が最後だったらイヤだからな

大根舞台って言い方やめろ。
まるでオレが大根だったみたいじゃないか

 心底嫌そうな顔して言う。

 部屋のドアがノックされる。コーディリアがティーカップを載せたお盆を手に現れた。

ケントさん、お茶入りましたよー。
って、あれ、ホレイショーさんいつの間に!?

お邪魔してるよ

またこいつは呼び鈴も鳴らさずに入ってきたのか!

 驚くコーディリアに対し、飄々とした態度のホレイショーにケントはしかめっ面をする。

……ホレイショーさんのも淹れてきますね

 一瞬考えて、淹れてきたお茶をそのまま持って戻ろうとするコーディリア。

コーディリア、こいつのは構わないよ

そんなわけにもいきません

 ケントが呼び止めたので、半開きとなったドアが自然に閉まろうとする。
 ケントもホレイショーもあっと気付いて手を伸ばすが遅く。

わ!

 コーディリアはドアに背中を押されて前によろめいてしまう。

 当然持っていたお盆を傾けて思いっきりお茶が溢れた。

コーディリア!

っ!

おい、火傷したんじゃないか!?

 コーディリアは顔を顰めている。

すぐに冷やすんだ!

 ケントは素早くお盆を受け取ってホレイショーに渡し、コーディリアの腕を掴んで台所にすっ飛んで行った。

 ホレイショーが床に溢れたお茶を吹き取り、お盆を持って台所に行くと、ケントがコーディリアの手をがっちり掴んで流水で冷やしていた。

いたたたた

大丈夫か?

 ホレイショーが覗き込んで確認する。

あ、はい、ちょっとだけです

ちょっとだけじゃないだろ。
ホレイショー、医者を呼んでくれ

え!
医者なんていいですよ!

いいや、火傷は跡が残る!
ホレイショー早くしろ!

へいへい

 コーディリアは顔を真っ赤にしている。

確かに育て甲斐はありそうだよな、芝居だけでなく恋愛面においても……

 ホレイショーは早足で玄関に向かいつつニヤけているが、二人の方はまだ、お互いに指導者と教えを受ける者以上の感情は生まれてない様子だ。


 それでも、今までこんなにされた事がない心配をされてコーディリアはどうしていいかわからないで狼狽えているし、

 …… 


 ケントの方もこれ以上ない程過保護になってしまう自分を制御出来ずに内心は困っていたりしているのだった。

 ……  

休演日 ~舞台の合間に~

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