出水君


久しぶりに苗字で呼ばれた気がする。
授業が終わり教科書やノートをしまっていると声をかけられた。

どうした?

これ、私の友達から。受け取ってもらえる?

あぁ、ありがと


可愛らしい手紙だった。

こちらこそ、じゃぁね


用事はそれだけだったのか手を振って他の女子の所へ戻っていった。

芽衣ちゃんだねー

っうぉ!!

ははっ、何その反応ーっ

お前いつからっ

最初から?


後ろに立っていた孝の反応に驚いた。
気配を消していたのかと言うほど、近くにいることに気がつかなかった。

んで?芽衣って誰だ…

同じクラスじゃーんっ


苗字は覚えていても女子の下の名前までは知らない…。

そうだっけ?

今の可愛い子。学校一の美少女なのに、全然調子に乗ったりしない謙虚で優しい子だって女子にも人気なんだよー?

へぇ

興味なさそーっ

先程貰った手紙を開いてみる。
友人に頼まれたようだったし、読まないと彼女にもわるい。










突然のお手紙ごめんなさい…。
出水君にお話があります。
今日の放課後、屋上で会えませんか?








疑問系にはなっているが、誰からの手紙かは名前が書いていないためわからない。
もし今日予定があって屋上に行けなかったらどうするつもりだ。

何々なんだってー?

呼び出しだ

こ、告白っ?


孝は一人はしゃいで何故かきゃーきゃー言っている。

だから今日は先帰れ

りょうかーいっ





最近放課後に色々とあったせいか、この時間の呼び出しは嫌な予感がする。
他の生徒が階段を降りていくなか、一人鞄を持って階段を上がる。
今まで他の生徒が積極的に話しかけてくることはなかったし、突然まともな用事で屋上まで呼び出されるとは思っていない。

扉を開けると青空が広がっていた。
初めて上がる屋上は、思ったよりも景色が良く空気も澄んでいる。
相手はまだ来ていないようだ。

野球部の練習する声が聞こえる。
バットがボールを打つ音がここまで響いた。
この学校の野球部はそれほど強くないと孝から聞いた気がする。
練習、お疲れ様です。

・・・

…遅い。
暫くたったがまだ誰も来ない。
既に学校内には部活動に励む生徒しか残っていないだろう。

…っはぁ、遅くなって、ごめんねっ


急いできたのか、扉から入ってきた女の子は息を切らせていた。
俯いて呼吸を整えているため顔は見えない。

ぁー、大丈夫か…?

ははっ、大丈夫大丈夫


顔を上げた彼女は、芽衣さんだった。

手紙の子は…?

あれ、本当は私からだったんだ…

あぁ、そうか

ぇーっ、怒ったりしないの?

いや、別に…


相手が誰でも別に構わないが、何故嘘をついたのかわからない。
周りに知られると困るような話だったのか?









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