真帆が以前から精神的な疾患で入退院を繰り返していたのは知っていた。


 だが、死は突然訪れた。
 真帆の家族からは心不全だったと告げられた。


 思えば真帆の書く歌詞は独特だった。
 心が悲鳴をあげていたのかもしれない。
 俺たちはそれに気付けず、ファンが増えていく現実にはしゃいでいただけだった。

 俺ばかりがいつも支えられていて。
 真帆には何もしてやれなかった。

 喪失感は毎日訪れた。


 真帆は俺の日常に溢れていたから。


 似たような服。

 食べ物の好み。

 髪を指でくるくると遊ぶ仕草。

 天から見える景色に俺はいるのだろうか。
 もう一度会いたい。

 きっと世話焼きな真帆は、一日も早く俺たちが当たり前の日常に戻れることを願っているのだろうな。
 裕貴は新しいバンドを組んだよ。
 でもまだ、真帆がいない日常には慣れない。
 お前がいないと、うまく笑えないや……。

雨か

 ライブハウスを出ると外は雨だった。

どうぞ

 傘を差し出す杏月。

お前は?

私は折りたたみ持ってきてるから

なんで二本も

天気予報見てなくて困ってる人がいるかもって思って

そうか

無駄じゃなかった

優しいんだな……お前

 俺は真帆を忘れない。

 でも、俺自身が前に進まないと、お前が心配なままだよな。

 もっと周りに目を向けてみよう。


 真帆のためにも、裕貴のためにも……。

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