金町先輩

ん？どうしたんだい、新橋君

クリスマスも近いですし、終業式の後クリスマスパーティーをやろうかって言う話が出てるんです。
良かったら参加しませんか？

それは、天文部でかな？

そうですね。
天文部というか、地学部というか、文芸部というか

丁度僕も受験勉強で疲れて、ひと休みしたかった所なんだ。参加させて貰うよ

はい、楽しみにしてますね

ところで、僕を誘おうと言い出したのは誰なんだい？

葛西君です。
折角なら人数が多い方が良いって

そうか、改めてお礼をしなくてはいけないね

やぁ、天文部諸君、元気しているかな？

あ、金町先輩いらっしゃい！

おやおや、お菓子まで用意して。本格的だね

新橋と葛西が持って来てくれたんですよ

スコーンとジャムがお口に合えば良いんですけど

俺、結構製菓得意なんですよ？
今回は抹茶とチェリーのマドレーヌです

蔵前君は、何を持ってきたんだい？

俺は製菓出来ないんで、ブドウジュースを持ってました

ふむ、それだと、まるっきり手ぶらで来てしまったのが申し訳ないね

良いんですよ、金町先輩はお客様なんだから

そうかい？

入学してすぐの時に、ここまで連れてきてくれたの、感謝してるんですよ？

そう言う事です

だから、先輩は気にしなくて良いですよ

ふふっ、そう言う事だったのか。
それじゃあお言葉に甘えて

そう言えば、クリスマスがどういう日なのか、みんな知っているよね？

大工の息子の誕生日です！

大工の息子？

イエス・キリスト降誕の日と言われていますね。
詳細はわからないのですが

田舎の小さな厩の中で。ですよ

うん、葛西君は何をどこまで知ってるのか、本当に掴めないね

そうだね、それで大体合っているよ

薄らぼんやりと聞いては居たけど、俺はプレゼント貰える日って言うイメージの方が強いですね

何故子供達にプレゼントが配られるようになったのかは、実は僕も知らない。
でも、きっと聖人が何かをしたのがきっかけなのだろうね

先輩も、クリスマスプレゼント貰ったりしてるんですか？

この歳になって恥ずかしいけれど、貰っているよ

恥ずかしいって、別にサンタさんを信じてるわけじゃ無いでしょう？

いや？サンタクロースは居ると思っているよ

えっ？

もしかして、毎年のプレゼントはサンタさんから貰ってるって、思ってます？

いや？僕は両親から貰っているけれどね。
それとは別に、サンタクロースは何処かに居ると思っているんだ

何処かにって、何か根拠はあるんですか？
それとも、概念的な物ですか？

根拠か。知りたいかい？

気になりますね

もしかして、目撃証言とかですか？

目撃証言。そうだね、それが近い。
ただ、僕が見たのはサンタクロースじゃ無くて、悪魔なんだ

どういうことなの……

金町先輩、もしかして何かの発作持ちとか、そう言うのですか？

なんでかな？

いや、新橋から似たような話を前に聞いたので

運良く僕は、持病を持っていないよ

それだと、夢で見た……とか？

夢だったのかも知れないね。
でも、僕は夢では無かったと思っている

…………

クリスマスには相応しくない話かも知れないけれどね、実は、黒ミサに参加したことがあるんだ

黒ミサって、先輩……

黒ミサって何ですかね？

わからん

僕は黒ミサで、兄さんの病気を治してくれと、悪魔に祈ったんだ。
あの時はどうかしていたと思うけれど、本当に必死だった。
指を組んでね、泣きながらずっと祈っていたんだ

…………

そうしたら突然、花の香りがしたんだ。
何の花だったのだろうね。僕の知っている香りでは無かったけれども、その香りに気がついて顔を上げたら、目の前に真っ黒な翼を背負った、紅い瞳の悪魔が居たんだよ

えええ……

まじか……

その悪魔は、僕になんて言ったと思う？

えっと……

嫌な予感しかしない

願いを叶えて欲しかったら、魂を差し出せ。とか？

ふふっ。なんとね、その悪魔は『そう言う願いは神に祈れ』って言ったんだよ

予想外の反応だった

悪魔は羽を1枚抜いて、僕に渡して言ったんだ。『これが神が居る証拠だ』ってね

え？どういうことです？

悪魔が実在すると言う事は、神も実在すると、言いたかったのですかね

そう言う事だろうね

その時の羽って、今でも持ってるんですか？

ああ、いつも持ち歩いているよ。
これがそうだ

確かに、普通の鳥の物と比べて、大きいと言えば大きいですね

こんなのが目の前にあったら、悪魔の存在信じちゃうなー

そう言うわけで、悪魔が居るのなら、サンタクロースも居るのでは無いかと。僕は思うのだよ

そう言う事だったんですね

案外世の中不思議で満ちてますね

もしかして、僕が鉱山で会ったあの人も、実在するのかな……