コーディリアが自室として充てられた部屋で着替え中のことだった。
突如ドアが開いて見知らぬ男の人が入ってこようとした。
コーディリアが自室として充てられた部屋で着替え中のことだった。
突如ドアが開いて見知らぬ男の人が入ってこようとした。
きゃあっ!?
っ!?
悪いっ!
コーディリアの中途半端な格好に気付いて慌ててドアを閉める。
廊下であまりのことに戸惑うその者の元に、家主がやってくる。
なんだ、ホレイショー来たのか。
全く、ベルを鳴らしたらどうだ?
コーディリアが驚いてしまっただろ
ホレイショーと呼ばれた男は迷わずムッとする。
そこは鍵を閉めないお前が悪い
部屋もノックくらいしろ
ここは客間でオレの部屋みたいなもんだ
ここは客間でお前の部屋ではない!
コーディリア大丈夫かい?
部屋の中から呼び掛けられたコーディリアの声がする。
だ、だいじょぶですー
変態が現れたみたいだけど、一応これでもオレの友人だから何もさせやしないよ
なんだその言い草
暫くしてコーディリアが応接室に降りてきて、ホレイショーに向かって頭を下げる。
お待たせしました。お客様にお見苦しいものをみせてしまったようですいません
いや、こちらもすまなかった
なんだかんだケントには文句を言いつつもホレイショーは素直に謝罪する。
で?
ずいぶん過保護にしているこの子は誰だい?
娼婦にしては若すぎるよなぁ。ついにメイドでも雇ったのかい
娼婦!? メイド!?
コーディリアは目を剥く。
いや、我が劇団初の女優だよ
女優?
そう、女優
おいおい、ゆっくり休んでこいとは言ったが、女優を見つけて来いとはオレは言った覚えがないぞ
そこがどこであっても、いい逸材を見つければ放っておけないだろう
そう言い切るケントに、ホレイショーはコーディリアを頭の先からつま先まで観察する。
君は女優がどんな仕事か分かって来たの?
舞台に立って役を演じる人でしょう
そうだ。
だが、ただ単に演じるだけじゃダメなんだよ。
ケントはこの間の舞台は酷いもんだってだいぶ叩かれた
あれは仕方なかったんだ
理由はどうあれ、実際そうだったろう。
関係ないことまで引っ張り出して連中は袋だたきにしてくる
叩かれた当人より本当に憎らしげに顔を歪める。
そんで今度は女優!
いいネタにされて終わりだよ!
またコーディリアに向かって告げる。
田舎の娘さんに勤まる仕事じゃないよ。早々に逃げ帰ったほうがいい
こんなに言われてコーディリアも黙っていられない。
ケントさんのご友人ならと思って黙ってましたけど、少し失礼過ぎませんか?
そうか?
ネタにされて何が悪いんです?
そこで終わったらダメだけど、ネタにされたのを利用してのし上がればいいじゃないですか
理想はそうだが現実はそんな簡単じゃないよ
理想を掲げてはいけませんか?
そうじゃない。だけど
挑戦したっていいじゃないですか。挑戦を恐れては何も得られません!
それと、現実に打ちのめされるのは他ならぬわたしです!
コーディリア……
いいえ、ケントさん、止めないでください。わたしが勝てない相手はケントさんが説得してくれたように、ケントさんが勝てない相手はわたしが戦います!
コーディリアはだいぶ興奮した様子なので、ケントが落ち着かせようと声を掛けるが逆に制されてしまう。
そもそも、女と見れば娼婦かメイドなんですか?
女性は普段からいい格好で着飾ってなきゃならないんですか?
女はいつまで男のお飾りなんですか!
ホレイショーに言い返す暇を与えない。
……凄い強烈なの見つけてきたな、ケント
だろう?
ホレイショーの賞賛とも皮肉とも取れる言葉に、ケントはご満悦といった様子だ。
わたしの生まれた街では女性の方が強かったんです。
それが都に来たら女性の権威の低さにビックリしました。
女の俳優さんがいないのもそういうことなんでしょうか……
みんな君みたいな女の子だったら、そんなこともないんだろうけどね
ホレイショーが軽口を叩くと、彼女はガルルルルと唸って今にも噛み付きそうになっている。
悪かったよ。娼婦とか言って
ホレイショーが急にすんなり謝罪しだしたので、コーディリアも肩透かしを食らったような気分だ。
そんな二人の様子に笑いながらケントが言う。
彼なりの激励なんだよ
その言葉に首を傾げるしかない。
受け取りづらい激励なんですね
だが、まんまと負けて堪るかって思っただろ?
コーディリアがハッとした顔をすると、ホレイショーはしてやったりと不敵な笑みを作る。
ケント相手に発破掛けるつもりだったが、別のが釣れてなかなか面白かった
熱くなっちゃったわたしがバカみたい!
コーディリアは唇を尖らす。
ホレイショーさんは俳優さんなんですか?
いいや、オレは観る専門。ケントの舞台は全部観てるよ
えーいいなー。
わたしもケントさんの舞台観てみたいです!
そのうちね
お仕事は?
んーなんだろ、遊ぶことか?
えっ……?