コーディリアの生まれた街から馬車で二日がかりで都に到着した。
殆ど休みなく進んだ為、馬車に乗っていただけといえど流石に疲れたコーディリアは、ケントの家に着き、ケントが電話している間にソファで寝てしまった。
朝起きるとケントは告げた。
コーディリアの生まれた街から馬車で二日がかりで都に到着した。
殆ど休みなく進んだ為、馬車に乗っていただけといえど流石に疲れたコーディリアは、ケントの家に着き、ケントが電話している間にソファで寝てしまった。
朝起きるとケントは告げた。
三日後の舞台の席が取れたから是非観て行くといい。
今、都で一番人気の舞台だよ
三日後?
チケットが取れなくてね。
その間観光と行こうか
はい!
コーディリアはケントに連れられて、高所から都全体を見渡したり、観光馬車でぐるりと一周してみたり、都一番の大通りから下町と呼ばれるところまで散策したり、今まで絵画でしか見たことがない都をがっつり堪能した。
都に来て三日目、午後のお茶をした後コーディリアはケントの劇団『振動する槍』の稽古場に来ていた。
ケントさん、お帰りなさい!
お疲れ様です!
座長、帰ってきてたんですか
あれ、その子は……?
ケントの顔を見ると誰もが挨拶してきた。
そして漏れなくケントの後ろから着いてくるコーディリアに注目した。
ある一室に入ると女の人がわっとケントに飛び付いてきた。
ケント様!
本当に帰ってきていたのですね!
来ていたのか、オフィーリア
当たり前です。
ホレイショーに一昨日の晩に帰ったと電話があったと聞いて、昨日から待っていたのですよ。
二週間もどこへ行っていたのですか?
オフィーリアと呼ばれた女性は身なりや言葉遣いからして、コーディリアとはかけ離れた高貴な出と思われる。
旅行だよ
旅行ならどうして婚約者のわたくしを連れて行ってくださらなかったんです?
一人で気ままに旅したかったのさ
わたくしは心配したのですよ
それは、すまなかった
必死さが伺えるオフィーリアとは真逆に、ケントはあまりに淡々としている。
お詫びして下さるなら、今晩のディナーに付き合ってください
いや、今日は……
ケントはコーディリアを見た。
?
付き合ってくださいまし!
オフィーリアは有無を言わせないといった感じだ。
ああ、わかったよ
それでは六時に玄関まで迎えに参ります。キチンとお髭を剃っていらして下さいね
ああ
ケントは無精髭を指でなぞる。
コーディリアは彼女に一度ジロリと睨まれただけであとは存在自体無視されたようだった。
都に行くとなってコーディリアが持っている中で一番良い服を着てきていたのだが、彼女ら都で暮らす人々の服とそれを比べると随分見窄らしく思えた。
ケントさん、御婚約者がいたんですね
ああ。
劇団の出資者の御息女でね
すごい綺麗な人
どうしてあの方に役者を頼まないんだろう、舞台がとても映えると思うのに
コーディリア、すまないんだけど今晩の夕食は
あ、わたしの方は大丈夫ですよ。
周辺の道は覚えたので夕飯くらいどうにかなります
そうコーディリアが力強く答えたものの、ケントは浮かない面持ちで言う。
……あまり夜道を彷徨かないように
はい、わかってます。
ディナー楽しんできてください
コーディリアは夕食を少し食べ過ぎてしまった。
料理が美味しかっただけではなく、メニューの文字だけでは量感が掴めず頼みすぎてしまい、思わぬ量が出てきてしまったのもある。
腹ごなしにと少し遠回りの道を選ぶ。
真っ暗な路地に人影があった。
こんな時間にこんなに真っ暗なところで何してるんだろう
コーディリアが一歩その路地に足を踏み入れた時、そこはかとなくじんわりとした嫌な感じがして動きを止めた。
だが、微かなたじろいだ気配を感じ取ったのか、路地の人がコーディリアの方に気付いた。
その瞬間、彼女は走り出していた。
なんだろう、
わかんないけど、
なんか嫌な感じがする!
自分のとは違う足音で誰かが追い掛けて来るのがわかった。
捕まったらどうなるの!?
無我夢中で走った。
道がわからなくなっても構わないと、兎に角前に進んだ。
コーナーを曲がった時、何かにぶつかった。
うわ!
きゃあ!
どうやら人だったらしく、コーディリアはしっかりと受け止められて転ばずに済んだ。
顔を上げると、街頭の灯りに照らされたケントの顔がすぐ間近にあった。
ケントさん!?
コーディリア? どうしたんだ
息の荒いコーディリアを不審に思いケントが尋ねる。
よく、わからないんだけど、追い掛けられてるみたいで
後ろを気にしながらそう答えるコーディリアをみて、ケントはその細い腕をがっと掴んだ。
おいで。そこで馬車をつかまえよう
馬車に乗ってようやくコーディリアの息が落ち着いたところで、ケントが一喝する。
だから彷徨くなと言ったじゃないか!
君が思っているよりこの辺りは危険なんだよ。何かあったらどうするんだ!
ご、ごめんなさいっ
ちょっと散歩のつもりが、うっかり変な路地に足を踏み入れたらしい。
何かあった時に、知らなかったでは済ませられない。
しょぼんとすっかり落ち込んだ様子のコーディリアをみて、ケントは気持ちをコントロールする。
いや、オレも悪かった……。
だけど、やはり君は夜に一人で出歩いてはダメだ。
危なっかしいよ、まったく
は、はい
明日からは必ず一緒に食べよう。
誰にも邪魔させないよ
は、はいっ!
コーディリアが心底嬉しそうに笑ったのでケントも満更ではなかった。