私たちは、下着売り場に行った。

 ショッピング・モールは広いけど、売り場は1階だけだ。

 下着売り場は、その東南の隅にあった。

 

ROUND5
俊足の痴女『ランニングマン』

たくさんあるけど、デザインがかたよってるというか

どことなくアメリカンだよね

アスリートっぽい

このグレーのパンツなんか、軍隊で支給されてそうだよね

あっ、でも、こっちは

うーん。オトナすぎない?

 いつきはそう言って、ひらひらのパンツを広げた。

 それは、まるで南米に棲息している蝶(ちょう)のようだった。

って、うわっ!? こんなに高いんだ

えっ? でもそうでもなくない? ここって全体的に安いよ

米軍の施設だからかな

そうなんだ。私、自分で買ったことないから

私も。値段とか分からないよね

まあ、実は私も相場とかよく分かんないし

 小夜は下着を選びながらそう言った。

智子は、ブラ?

うん。山小屋で脱がされたときに、なんかおかしくなっちゃって

いいね。私も新しいの買おうかな

ブラは、ティーンってコーナーかなあ

サイズ測らないと分かんないや

試着室にいろいろあるんじゃない?

 いつきは、下着をはきながら言った。

 私は上着を脱いだ。

 さっそくサイズを測った。

でも、高すぎて買えないよお

もらっちゃおうよ

えっ、うん、でも

クイーンをやっつけたんだよ。パンツやブラの1枚や2枚もらっても良いでしょ

それにお店の人いないし

いつまでも同じパンツってわけにもいかないしね

それもそうだよね

 私たちは、満面の笑みでうなずいた。

 下着選びを楽しむことにした。

とはいえ

セールのワゴンに向かってしまうのが

庶民の悲しいサガだよね

 私たちがそんなことを言いながら、ワゴンの前で苦笑いをしていると――。

 と。

 突然、下着の山から、痴女があらわれた。

 痴女が下着に埋もれて、ワゴンに寝そべっていたのだ。

むふぅ!

 痴女は、私たちをひとりひとり、じとっと見た。

 その後、意外な素早さで飛びかかってきた。

やんっ

むふぅ!

 痴女が、いつきに馬乗りになる。

 両腕を押さえつけ、くちびるに吸いつこうとする。

 今まで見たことのない激しさだ。

ふざけんなっ

 小夜が、痴女じゃらしで痴女の後頭部をブン殴る。

 その隙に、いつきが四つんばいに這って逃げようとする。

しゃあぁぁあああ!!!!

 それを痴女が追う。

 四つんばいに這って、手を伸ばす。

ぁあん

 痴女が、いつきのパンツを引っぱった。

 いつきの真っ白なお尻があらわになった。

このヘンタイ!

 いつきは、くるりと向き直って痴女を踏みつけるように蹴った。

 痴女は吹っ飛んだ。

 いつきのパンツをつかんだままだった。

もう!

なんかヤバくない?

今までのと違う

とりあえず逃げよう

 私たちは、モール内を北へと走った。

むきゃあああああ!

うわっ、追ってくる

というか走ってる!?

痴女のクセに走んなっ

むっきゃああああああ!

速いよっ

こっち来んなっ

あの扉に行こう!

 私たちは、従業員用の扉を閉めて、中に入った。

あはぁああんんん!!!!

うはっ、突き破った

穴開けて顔出すなっ

地下だよっ! 地下まで扉がいっぱいあるよお!!

 私たちは、扉を閉めながら奥に進んだ。

 階段を駆け下りているときに、扉が破られる音がした。

 たぶん、次々と破壊しながら追いかけているのだと思う。

地下は倉庫みたいだね

ここで待ち伏せしようよお

うん。なんかだんだん怒りがわいてきた

 私たちは、痴女じゃらしを握りしめた。

って、智子。なんか着れば?

うっ、うん。でもカバンとか全部置いて来ちゃったし

ねえ、誰かパンツ持ってない?

ううん

持ってないよお

もう。また、ノーパンかあ

 いつきは、すこし嬉しそうな声でそう言った。

ねえねえ、あの痴女のこと分かったよ

あっ、それって、お姉さんからもらったメモ?

うん。でね、あの痴女は『ランニングマン』。普段は眠ったように静かだけど、獲物が近づくと、サカリのついた状態で激しく追ってくるんだって

女なのに、ランニング "マン" なんだ?

ええっと、日本語のスラングに敬意を表して "マン" なんだって

うーん

 そんなことを大真面目に研究していたのか。

 情けなくって、なんだか笑えてきた。

ねえ、弱点は?

パワーとスピードはあるけど、その代わり、動きは大ざっぱだから……狙いを定めにくい

弱点になってないじゃん

あはは

でも、痴女じゃらしは効くみたいだよお

 小夜は、困り顔でそう言った。

 その瞬間。

 突然、大型機械が倒れてきた。

 私たちは、あわてて飛び退いた。

 天井の高さほどある大型機械は、私たちの眼前で、床を打った。


 で。

えっ?

あっ

はぃぃいいい!?

むきゃぁあああ!!???

 床が割れた。

 そして私たちは、下のフロアに落下した。

うわっ、ほこりっぽい

なんか古くさくない?

一応、電気は通ってるみたいだけど

ショッピング・モールとは違う施設みたいだね

むふぅ!

というか、逃げないとっ

エレベーターがあるよっ

急げっ!

 私たちは、エレベーターに飛びこんだ。

 いや、飛びこむというよりも、転がりこんだといったほうが適当だ。

ええい!

 小夜が、スイッチを連打する。

むぎゅっ!?

 扉が閉まった。

 私たちは、ほっと肩をなでおろした。

 突然、エレベーターが動き出した。

 だけど私たちは、このまま状況に流されるしかなかった。

………………

………………

………………

 エレベーターは、深く深く地の底へと降りていった。――

 エレベーターが止まると、そこは鉄の壁で囲まれていた。

 船の操舵室のように、いくつも計器が並んでいた。

 もちろん窓などない。


 私は、ひどく窮屈に感じた。

ねえ、銀行の金庫室みたいじゃない?

ほんとだ、大きな扉がある

行ってみよう

 私たちは扉を開けて、奥に入った。

 するとそこには――。

 おもしろい顔で氷漬けになった美女がいた。

 ……たぶん、美女だと思う。

俊足の痴女『ランニングマン』

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