CIAの工作員

この機は使えないわね

 お姉さんは、輸送機を見上げてそう言った。

MI6の諜報員

ほかの格納庫に行ってみるか

KGBの職員

ええ

うん?

 外で、金切り声のようなエンジン音がした。

CIAの工作員

輸送機?

MI6の諜報員

大型機の音だな

KGBの職員

とにかく行ってみましょう

うん

 私たちは外に出た。

 ちょうどそのとき、輸送機が目の前の滑走路をものすごいスピードで通り過ぎた。

CIAの工作員

飛び立つわ

MI6の諜報員

どうやら最後の機体のようだぞ

KGBの職員

ああ、飛んでしまったわ

あれ?

CIAの工作員

ねえ、あの輸送機、様子が変だわ

MI6の諜報員

煙が出てないか?

KGBの職員

墜落しそうね

 お姉さんたちは、目と目を合わせた。

 それから、ゆっくりうなずいた。

CIAの工作員

すぐそこに管制室があるわ。そこで輸送機の状況を確認しましょう

えっ、うん

 私たちは、管制室に移動した。――

CIAの工作員

うわっ!? なにこの、べっちゃり

MI6の諜報員

計器類が、ねっとりしちゃってる

KGBの職員

誰かがここで……というより、痴女がここでイチャイチャしたのね

マイクやディスプレイでぇ?

CIAの工作員

ヤツらの妄想は際限がないのよ

あはは

MI6の諜報員

で、どうする? 機材がいくつかイカレてるようだが

KGBの職員

輸送機の音はなんとか拾えるわよ。こちらからは発信できないけどね

 お姉さんはそう言って、ボリュームを全開にした。

MI6の諜報員

爆発だ

 私たちは、いっせいに外を見た。

 すると滑走路のすぐ先で、輸送機が煙を噴きあげて墜ちていた。

しまった! やはり墜落か!!

 突然、スピーカーから声がした。

 輸送機からの音声だ。

隊長! カプセルが割れて『痴女』がッ!!

それは分かっておる!

 なにやら恐慌状態だ。

 しかも、私たちが聞いていることに、気づいていない。

全部殺したか?

1匹が飛び出して、エンジンに張り付いております

どのカプセルの個体か分かるか?

はっ

ラベルを読み上げろ

はっ! ええっと、『CAUTION! 生物兵器……マサクルソフト・コーポレーション、軍事輸送カプセル……当カプセルの取り扱いに関しての免責事項に』

個体番号だけを言えっ

はっ、失礼しました! 個体番号は、XXX69(トリプルエックス・シックス・ナイン)であります!!

よりによって『クイーン種』か

CIAの工作員

……………

MI6の諜報員

……………

KGBの職員

……………

……………

……………

……………

 私たちは、同時にツバをのみこんだ。

いいか、絶対に逃がすなよ。攻撃は墜落してからだ。確実に撃ち殺すのだ

はっ

駐屯地では繁殖させてしまったからな。これ以上の面倒はごめんだ

 この言葉を最後にスピーカーは沈黙した。――

CIAの工作員

ヤツらが何者なのか分からないけど、このままにはしておけないわね

MI6の諜報員

当然だ

KGBの職員

とりあえず墜落現場に向かいましょう

CIAの工作員

と、その前に

 お姉さんたちは、いっせいに私たちを見た。

CIAの工作員

あなたたちは、待っててくれるかな?

あっ、うん

MI6の諜報員

もちろん、卵やマユはすべて焼却する。やばそうな『痴女』を見かけたら倒しておく

KGBの職員

だから別行動でも大丈夫よね?

はい

はい

いやぁん

って、なんで私だけそういう扱いなんですかあ

 いつきは、ほっぺたを可愛らしくふくらませた。

 だけど、すこし嬉しそうな声だった。

CIAの工作員

そうそう、その先は在日米軍の区域よ。そこには米軍のための住居や病院、ショッピング・モールがあるの

ショッピング・モール!?

CIAの工作員

そこで待ってる?

はいっ

CIAの工作員

三人で大丈夫?

はいっ!

CIAの工作員

ふふっ。あなたたち成長したわね

MI6の諜報員

修羅場を経験したからな

KGBの職員

モールまで一緒に行きましょう。ある程度、安全を確保したら私たちは出て行くわ

はいっ

 私たちは、ショッピング・モールに向かった。――

 ショッピング・モールは、滑走路をまたいで、すぐのところにあった。

 あたりは閑散としていて、痴女はいないようだった。

 だけど、すっかり日が暮れて不気味な静けさとなっていた。

CIAの工作員

痴女は、こっちに来てないわ

MI6の諜報員

みな、市街地のほうに向かったようだな

KGBの職員

人気のあるところか、あるいは明るい場所、暖かい所に集まるのか

CIAの工作員

さあ。そういう習性があるのかは知らないけれど

MI6の諜報員

とにかく、ここは安全のようだ

KGBの職員

扉を閉めて、外からの侵入を防ぎましょう

 お姉さんはテキパキと行動した。

 ショッピング・モールは、たちまち堅牢な要塞となった。


 いや。

 すべてのテナントを隅々まで調べたわけではないし。

 それに地下や屋上も鍵をしただけで調べてないけれど。


 それでも私たちには、堅牢な要塞のように感じられたのだ。

CIAの工作員

じゃあ、すぐに戻ると思うけど

MI6の諜報員

それでも往復で2時間くらいか

KGBの職員

念のため、これを渡しておくわ

これは?

KGBの職員

無線機よ。管制室にあったの

MI6の諜報員

使えるのはそれと、これ。2機だけ

これでお姉さんたちと、お話できるんですね?

KGBの職員

なにかあったらすぐに連絡ちょうだい

CIAの工作員

あなたにはコレを渡しておくわね。痴女の弱点や行動パターンが記してあるの

あっ、ありがとうございます

MI6の諜報員

じゃあ、キミにはコレ

ひゃぁ

って、もう!

CIAの工作員

ふふっ、じゃあ、ゆっくりくつろいでてね

うん。あっ、はい

 私たちがうなずくと、お姉さんたちは、にっこり笑った。

 それから大らかに手を振って、ショッピング・モールを後にした。


 私たちは、しばらくその背中を見送っていた。

 やがて小夜が言った。

とりあえず、パンツ売り場を探そうよお

【第2部】ファントム・エロス

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