お姉さんは、輸送機を見上げてそう言った。
この機は使えないわね
お姉さんは、輸送機を見上げてそう言った。
ほかの格納庫に行ってみるか
ええ
うん?
外で、金切り声のようなエンジン音がした。
輸送機?
大型機の音だな
とにかく行ってみましょう
うん
私たちは外に出た。
ちょうどそのとき、輸送機が目の前の滑走路をものすごいスピードで通り過ぎた。
飛び立つわ
どうやら最後の機体のようだぞ
ああ、飛んでしまったわ
あれ?
ねえ、あの輸送機、様子が変だわ
煙が出てないか?
墜落しそうね
お姉さんたちは、目と目を合わせた。
それから、ゆっくりうなずいた。
すぐそこに管制室があるわ。そこで輸送機の状況を確認しましょう
えっ、うん
私たちは、管制室に移動した。――
※
うわっ!? なにこの、べっちゃり
計器類が、ねっとりしちゃってる
誰かがここで……というより、痴女がここでイチャイチャしたのね
マイクやディスプレイでぇ?
ヤツらの妄想は際限がないのよ
あはは
で、どうする? 機材がいくつかイカレてるようだが
輸送機の音はなんとか拾えるわよ。こちらからは発信できないけどね
お姉さんはそう言って、ボリュームを全開にした。
爆発だ
私たちは、いっせいに外を見た。
すると滑走路のすぐ先で、輸送機が煙を噴きあげて墜ちていた。
しまった! やはり墜落か!!
突然、スピーカーから声がした。
輸送機からの音声だ。
隊長! カプセルが割れて『痴女』がッ!!
それは分かっておる!
なにやら恐慌状態だ。
しかも、私たちが聞いていることに、気づいていない。
全部殺したか?
1匹が飛び出して、エンジンに張り付いております
どのカプセルの個体か分かるか?
はっ
ラベルを読み上げろ
はっ! ええっと、『CAUTION! 生物兵器……マサクルソフト・コーポレーション、軍事輸送カプセル……当カプセルの取り扱いに関しての免責事項に』
個体番号だけを言えっ
はっ、失礼しました! 個体番号は、XXX69(トリプルエックス・シックス・ナイン)であります!!
よりによって『クイーン種』か
……………
……………
……………
……………
……………
……………
私たちは、同時にツバをのみこんだ。
いいか、絶対に逃がすなよ。攻撃は墜落してからだ。確実に撃ち殺すのだ
はっ
駐屯地では繁殖させてしまったからな。これ以上の面倒はごめんだ
この言葉を最後にスピーカーは沈黙した。――
※
ヤツらが何者なのか分からないけど、このままにはしておけないわね
当然だ
とりあえず墜落現場に向かいましょう
と、その前に
お姉さんたちは、いっせいに私たちを見た。
あなたたちは、待っててくれるかな?
あっ、うん
もちろん、卵やマユはすべて焼却する。やばそうな『痴女』を見かけたら倒しておく
だから別行動でも大丈夫よね?
はい
はい
いやぁん
って、なんで私だけそういう扱いなんですかあ
いつきは、ほっぺたを可愛らしくふくらませた。
だけど、すこし嬉しそうな声だった。
そうそう、その先は在日米軍の区域よ。そこには米軍のための住居や病院、ショッピング・モールがあるの
ショッピング・モール!?
そこで待ってる?
はいっ
三人で大丈夫?
はいっ!
ふふっ。あなたたち成長したわね
修羅場を経験したからな
モールまで一緒に行きましょう。ある程度、安全を確保したら私たちは出て行くわ
はいっ
私たちは、ショッピング・モールに向かった。――
※
ショッピング・モールは、滑走路をまたいで、すぐのところにあった。
あたりは閑散としていて、痴女はいないようだった。
だけど、すっかり日が暮れて不気味な静けさとなっていた。
痴女は、こっちに来てないわ
みな、市街地のほうに向かったようだな
人気のあるところか、あるいは明るい場所、暖かい所に集まるのか
さあ。そういう習性があるのかは知らないけれど
とにかく、ここは安全のようだ
扉を閉めて、外からの侵入を防ぎましょう
お姉さんはテキパキと行動した。
ショッピング・モールは、たちまち堅牢な要塞となった。
いや。
すべてのテナントを隅々まで調べたわけではないし。
それに地下や屋上も鍵をしただけで調べてないけれど。
それでも私たちには、堅牢な要塞のように感じられたのだ。
じゃあ、すぐに戻ると思うけど
それでも往復で2時間くらいか
念のため、これを渡しておくわ
これは?
無線機よ。管制室にあったの
使えるのはそれと、これ。2機だけ
これでお姉さんたちと、お話できるんですね?
なにかあったらすぐに連絡ちょうだい
あなたにはコレを渡しておくわね。痴女の弱点や行動パターンが記してあるの
あっ、ありがとうございます
じゃあ、キミにはコレ
ひゃぁ
って、もう!
ふふっ、じゃあ、ゆっくりくつろいでてね
うん。あっ、はい
私たちがうなずくと、お姉さんたちは、にっこり笑った。
それから大らかに手を振って、ショッピング・モールを後にした。
私たちは、しばらくその背中を見送っていた。
やがて小夜が言った。
とりあえず、パンツ売り場を探そうよお
わたしも一緒にパンツ売り場に行きたいでs((殴