それは思ったよりも弱弱しかった。
にゃー……
それは思ったよりも弱弱しかった。
自分で出した声なのに、ひどくか細かった。
それはこの男を引き付けようとした故の意図的なものだったのか。
自分ではわかっていないから意図的なものではない、ということにしておこう。
そんなことを頭の中に浮かべつつ、男の目をじっと見つめる。
どうした?
男が話しかけてきた。
人間というものは分かっていないのだろう。
私たち動物も人間の言葉を理解するということを。
……
どうしたもこうしたもない。
寒い、寒いのだ。
とある人間にここにおいていかれてからというもの、私はこの大きな建物の中にいる人間からもらうご飯で生き抜いている。
別にそれは苦ではなかった。むしろ外は快適でいい。
建物の中というのは狭くて思い切り動けない。
いや、それも私が小さい頃のことだから酷くもやがかかったように思い出せないが。
といっても、まだ置いて行かれて間もない私はまだ小さいのか。
久々に人間を間近で見た。
このおおきな建物の人間は、私へのご飯を置くとすぐに中へ戻ってしまうから。
こういう人間は嫌いではない。
きーきー騒ぐ子供は苦手だが、落ち着いた人間は好きだ。
こんな人間を久しぶりに見たかもしれない。
時々見かける顔だな。
いつも足早にここを通り過ぎるのに。
だからといって、特別この人間が気になるわけでもない。
どうせこいつも私を一撫でして微笑んで帰っていくのだろう。
人間はそれが美しい行為だと思っている。
私からすれば、ただのありがた迷惑だ。
連れ帰られても迷惑な話だ。
ちゃんとした人間は毎日ご飯をくれて、殴ったりしないのだろう。
だが私たちにはそんなことも分かるはずがない。
人間は複雑だ。
優しげな人間ですら、恐ろしいことをするのだから。
はぁ……
そんな人間への嫌悪感を感じ取ったのか。
男がため息をついた。
小さな雲ができた。
やはり、人間は複雑だ。
この小さな雲一つにいろいろなものが込められているのだと感じ取った。
いいだろう、どうせもう会うことはないだろうから、撫でられてやってもいい。
ちょうど私も温かさを求めていたところだ。
……
同情を込めて見つめてやる。
こうするとたいていの人間は私を撫でて去っていく。
これでいい、これでいのだ。
男の手がこちらに伸びる。
撫でられると思い少し下を向いて、目をつむった。
だが、やってきたのは、突然の浮遊感だった。
な、何をする……!?
放せ……!
にゃおーと鳴いてもがいてみるも、やはり人間の力には敵わない。
私は素直に、男の腕に抱かれるしかなかった。
弱いなぁ、私は。