それは、雪の降る夜のことだった。

仕事帰りの時のこと。
俺はいつものようにまっすぐ家に帰るのだが、その道の途中。
静かに佇む美しい教会がある。
雪が降っていたこともあってか、今日はより美しく見えた。

たまには、ゆっくりしていくかな……

家に帰った方がゆっくりできることなどわかっているのだが、今日は仕事の疲れもあり、この美しい光景を眺めていたかったのだ。
寒さがなければ、このままここに居たいくらいだ。
近くのベンチに腰掛けると、体の力を抜く。
ずるずると体がベンチから落ちていく。
空に向かって白い息を吐いた。
その時だった。

にゃー……

弱弱しい猫の鳴き声が耳に入った。
ふと横に目をやると、真っ白な猫が座ってこちらをじっと見ていた。
いつの間にベンチに上ってきたのだろうか。

どうした?

猫は嫌いじゃない。むしろ好きな方だ。
それにしてもどうしたものか。
先ほどは暗くて気が付かなかったが、ベンチの横に布団がしかれた段ボールが置いてあったのだ。
捨て猫か……

はぁ……

深いため息をついた。
白い息が空に消えていく。
こういうのは苦手だ。今まで物語でしか見たことがなかったが、まさか自分が体験することになるとは。
こういうのには弱い。
というのが今分かった。
だが俺は実家暮らしのため、そのまま連れ帰ることもできない。何より、家族が動物嫌いなのだ。

……

ただ、こんな瞳で見られたら見捨てるなんてことはできない。
とりあえず……里親が見つかるまで預かろう。
家族は意地でも説得してやる。

やっぱり弱いな、俺。
あの時と同じだ。

そして俺は、この猫を連れ帰ることに決めた。
……ただこの猫の可愛さに負けただけだな。

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