四條 佑季

今年のクリスマスもぼっちかよ……あー、イチャイチャってやつを一回でいいからしてみてぇ……

 ベッドの上で一人ごちる。しかし、それに誰が答えてくれるわけでもない。だからこそ空虚感は数倍に膨れ上がった。
 俺、四條佑季は見ての通りの寂しいクリスマスを過ごさざるを得ないのだった。去年もそう。一昨年もそう。っていうか、寂しくないクリスマスって何だ? 実在すんのかコノヤロー。

四條 佑季

虚しくなってきた……とっととこんな日終わっちまえ、寝よう

 そう言って俺は布団に潜りこむ。
 サンタさんが一回くらいこんなにいい子の俺に、素敵なプレゼントを届けてくれればいいのにさ。なんて、下らない事を考えながら俺の意識はゆっくりと闇に落ちていった――。

天野 あかり

ねぇ、ねぇ! 授業終わっちゃったよ?

 ――ふぇ?

 あまりに突然の事で、俺は不思議な声を上げて目を覚ます。しかし、俺はすぐさま目を覚ました。何しろ、俺に声をかけたのは俺の初恋の人、その人だったからだ。
 俺が困惑のあまり口をパクパクさせていると、初恋の人――天野あかりはにっこり笑って俺の手を取る。

天野 あかり

仕方ないなぁ……。授業のノートなら見せてあげるから、ご飯行こう? 一緒に!

 ななななんですと!?
 俺が……あかりちゃんと……ご飯!?
 今まで声をかけることすら出来ず遠くからそっと見守ること一年間。最早ストーカーの一歩手前だと友達にも馬鹿にされたこの俺とあかりちゃんがご飯ですと!? しかもあかりちゃんの方から俺にお誘い!? ああ、これは夢だ。そうだ夢に違いない。俺はそっと自分の頬を引っ張る。

いてっ

 イェス! 夢じゃない! 痛いもん!
 ……だが、ちょっと待てよ? 俺さっき、部屋で寝たんじゃなかったか? いやいや、単に授業中寝ちまって記憶が飛んだだけだ。そう。そうなんだ。なんだか叫んだ声もいつもより高かったような気がするが、それは単に俺がテンパっているせいだろう。これ以上あかりちゃんに醜態を見せるわけにはいかない。

あ、あ、あ、あかりちゃん!

天野 あかり

何?

今日は俺がおごるよ! その……ノート、見せてもらいたいし!

天野 あかり

そんなの気にしなくっていいのに。それに、“俺”だなんて、変な美季

 ん、“俺”っていうのは変なのか?
 というか、今、あかりちゃん、俺のことなんて呼んだ? ミキ?

天野 あかり

気にしなくて大丈夫だよ。ほら、行こう?

 そう言って、俺の手を引くあかりちゃん。嬉しさと、何か引っかかったようなもやもやの両方が俺の中でぐるぐると渦巻く。そしてふと目が行った窓に映った人影に、思わず小さく声が出る。
 あかりちゃんに手を引かれ、驚愕の表情を浮かべるその人影は俺の見知った俺ではなかった。

四條 美季

ええっ!?

 茶色の綺麗な長い髪、ゆるふわ系とでも形容すべき可愛らしい服装。今上げた声だって高い。何が起こったのか全く分かっていない俺はついあかりちゃんの手を離してしまう。そして、放心状態のまま窓を見つめた。

天野 あかり

美季?

 愛しのあかりちゃんの声も耳には入らない。ただただ呆然と、俺は窓に映る自分の姿を見ていた。……にしても結構可愛くねぇか? 我ながら――って、これ俺!? やっぱり俺!? さっきと同じように頬をつねると、窓に映る少女も頬をつねる。痛い。夢じゃない。

四條 美季

うわっ!?

 明らかに廊下に突っ立ってる俺が悪いのだが、誰か人影とぶつかってしまった。そのまましりもちをついてしまう俺。スカートは長めとはいえ、この体制では若干怪しい。ほとんど無意識に慌てて足を閉めると、何となく謎の羞恥心が俺の頬を赤くする。俺はヒロインか!
 そして、まるで俺のそんなツッコミに合わせた様に、俺の前に手が差し伸べられる。それはあかりちゃんの手ではなかった。俺はすっと顔を上げ、その手の主の顔を見た。

花野 春馬

大丈夫? 怪我はないかな?

 イケメンだった。
 なんていうかこう、王子様系のイケメンだった。一番俺が腹の立つタイプである。こういう奴は女子人気も高い。だからこそ腹が立つ。

四條 美季

だ、大丈夫ですぅーごめんなさーい

 半ば棒読みというか反抗的というかという態度で返答し、自力で立ち上がる。王子様は特に気にした様子もなく、そっと俺の体を支えた。これはブサメンがやったらセクハラだと訴えられる奴である。しかし王子様は王子様故に許されるのだろう。だが俺は嬉しくなんてない。周りの女子の目が羨望だとか嫉妬だとか、そんな目な気がするが気にしない。俺は嬉しくないんだ。

花野 春馬

ごめんね。今度、ちゃんとお詫びをさせて?

四條 美季

アッハイ大丈夫デースお気になさらずー

 俺は返事も適当に逃げるようにあかりちゃんの元へと走る。ちらと見やると、王子様は小さく笑顔で会釈すると、俺とは反対の方に小走りで駆けて行った。急いでいたのだろう。

天野 あかり

すごいよ美季! あの人、花野先輩じゃん!

四條 美季

花野先輩?

天野 あかり

美季、知らないの? 私たちの一個上の学年の、花野春馬先輩。すっごく優しいし、カッコいいから人気なんだよ!

四條 美季

へ、へぇー……

 あかりちゃんの目がキラッキラしている。ちくしょう王子様め……俺もあんなイケメンだったらよかったのだろうか。しかし、今の俺はどこからどう見ても男ですらない。というか、若干俺の好みみたいな女の子の姿をしている。

天野 あかり

羨ましいな……。ねぇ、美季、もし本当に花野先輩が美季の所にまた来たら、話聞かせてね!

四條 美季

うん……

 来られても困るんだが。まぁ、あかりちゃんとの話のネタになるならいいか。あかりちゃんは再び食堂へと歩を進め始める。俺はどうして俺が女になってしまったのか全力で考えながら食堂へと向かった。せっかくのあかりちゃんと一緒に行動するというシチュエーションも、今の俺にとっては些細な事となってしまっている。そして、再び俺の思考を邪魔する何かが俺に声をかけた。

草薙 秋彦

おい、四條

四條 美季

は、はいいっ!?

 草薙先生だ。この人は分かる。俺やあかりちゃんはこの人のゼミ生だからだ。学校内でも随一の厳しさを誇るこの人のゼミに俺が入ってしまったのは他でもない、抽選漏れの結果だ。
 厳しさのあまり人気が少ないはずのこの先生は、顔立ちのおかげで女性人気がとても高い。だからこそこの厳しさでも構わないと何人かの固定ファンが草薙先生のゼミに入る。まぁ、それでも抽選漏れの俺が入る程度の人数なのだが。

草薙 秋彦

前回提出のレポートに不備があった。確認事項があるから後で研究室まで来い。今日中ならいつでも構わん

四條 美季

は、はい!

 前のレポートって何だっけ……ってか、先生は四條って俺のこと呼んだよな……。もしかして、今の俺のフルネームは四條美季、ってことか? つまりは俺と全くの別人になってしまったという訳じゃなくて、完全に俺の女性版って事なのか!? それはレポートを確認すればわかる。見れば俺が書いたレポートか否かくらいはわかるはずだ。
 しかし、それにしても謎は深まるばかりだ。どうやら俺は女になってしまったらしい。しかも、中途半端に元の俺とリンクしている。それなのに誰も俺の異常に気付かない。というか、まるで最初から俺は四條美季という人物であったかのようなやりとりが繰り広げられているのだ。……まぁ、まだほとんど例はないが。

天野 あかり

レポートの不備かぁ……きっと些細な事だよ、草薙先生だもん

四條 美季

うん、俺……私も、そう思う

 なんとなく自分称を変えてしまう。この見た目で“俺”はどうよ。いや、俺的にはギャップ萌え万歳なのだが、とりあえずは何事もないようにやり過ごしたほうが良い。これが夢でない以上、リセットなどきかないのだ。
 まずはあかりちゃんとご飯というシチュを堪能しその後に草薙先生に会いに行って現状を確認する。女子トイレに行くとかそういう定番の奴は後回しだ。確認すべきことを確認してからじゃないと何だか怖い。急に元に戻ったりしたらそれこそ地獄だ。

四條 美季

一体俺に、何が起こってるんだろうか……。ってか、元に戻れるのだろうか……。でも、元に戻ったらあかりちゃんは――

 ぐるぐると混乱する思考。俺はあかりちゃんと廊下を歩きながら、思考を纏めようと必死に無い頭を使って考えていた。

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