──翌日

 城のホールにはたくさんの人がいた。

 ただの誕生日ではなく、第一皇女が成人するとあって、各国からのゲストは数百人単位。

 無駄に広いだけだと思われていた城のホールは、立食パーティー形式にも関わらずやや狭い印象を与える。

お初にお目にかかります、ティエラ様

大公様、この度はお招きいただき感謝いたします

ティエラ様、ご成人おめでとうございます

 パーティーが始まってから、ティエラは父である大公と共にゲストの対応をしていた。

 ゲストは挨拶を済ませると他のゲストと談笑しながら料理に舌鼓を打っている。

 挨拶の合間にその光景を見ているティエラの探し人は、まだ見つけてはいない。

イースト国王

ティエラ様、美しくなりましたな。いやはや、子供の成長とは早いものだ

ティエラ

え?

 流れ作業のようにこなしていた挨拶だったが、一人の老人に声をかけられ、その人を注視する。

大公

イーストの国王様だ

ティエラ

おじ様!?お久し振りです!

 ここウェストから南東に位置するサウス連合国、それからさらに東にある“イースト王国”の絶対的権力者、国王。

 ティエラが幼少期の頃に一度だけウェストを訪れ、たくさん遊んでくれた記憶がある。

 人の良さそうな笑顔がとても印象的で、公子は皆“おじ様”と慕っていた。

イースト国王

ティエラ様とお会いになったときは正装ではなかったからね。気付かなかったかい?おじさんは悲しいよ

ティエラ

ご、ごめんなさい!

ティエラ

来てくれてありがとうおじ様!とても嬉しいです!

大公

国王様に向かってそのような口の利き方をするでない

 もう成人したのだろうと父である大公に窘められるが、国王はいいんだよとティエラに笑顔を向ける。

イースト国王

国を空けておくことはできないから、今日は息子ではなく孫を一緒に連れてきた。
ヴィント、大公様とティエラ様にご挨拶をしなさい

 国王がそういうと、斜め後ろに控えていた少年が一歩前へ出る。

ヴィント

お初にお目にかかります大公様、ティエラ様。
イースト王国王太子の第一王子、ヴィントと申します。以後お見知りおきを

大公

おお!あの時の王子ですな!

イースト国王

その節は誠にありがとうございました

ヴィント

イースト国王

国外へ出るのは初めてなもので、無礼を働かぬか兢々としております

大公

何を仰います。立派なご令孫ではありませんか

イースト国王

つきましては、城の中を案内させてみたいのですが、よろしいですかな?

大公

我が家に興味を示されたとは光栄なことです。妻に案内させましょう

 大公は傍に控えていた自分の妻に目配せをすると、ヴィントを連れてその場を離れていった。

イースト国王

后妃様とは恐れ多い

大公

国王様のご子孫なら当然です

イースト国王

では私はそろそろ豪華な料理を堪能してきますよ

大公

ごゆるりとお楽しみください

 国王は大公とティエラに一礼し、談笑の輪に加わる。

 大人の社交辞令に内心ウンザリしながら、再びティエラは流れ作業に戻った。

 華やかなホールからやや離れた場所にあるゲストの控室、その一室に三人の人間がいる。

 一人は椅子に腰かけ、残りの二人は少し離れた場所で立っていた。

様子は?

警備は出入り口とホールに集中しています

目標は?

現在ホールに。ただ少し問題が……

后妃がイーストの王太子に城内案内をしているようです

そうか……

どうされますか?

お前は予定通りに。お前は后妃を何とかしろ

ハッ!

ハッ!

 返事をした二人は、バラバラに控室を出て行く。

 残った一人も十分に間を空け、ホールへと戻っていった──。
 

バトレル

……

 バトレルはずっとティエラが見える位置で控えている。

 近くには大公の執事も見えるが、私語をすることはない。

ああキミ、ちょっといいかな?

バトレル

はい

手洗い場はどこかね?

バトレル

ご案内いたします

 話しかけてきた相手に笑顔でそう言うと、バトレルの近くにいた使用人が静かに歩み寄る。

 使用人はこちらですと話しかけた男を連れホールから出て行った。

 専属執事が主の元を離れるようなことはしない。

 バトレルの主は、パーティーが始まってからずっとゲストの対応に追われていた──。

お招きいただき光栄です

大公

遠いところを来てくれて感謝するよ

ティエラ様、お初にお目にかかります。私は──

ティエラ

お会いできて光栄ですわ

 作り笑顔のまま表情が固まってしまうのではとティエラはくだらないことを考えつつも、作業をこなしていく。

 だが少しずつ人が来るペースが遅くなり、そして今ティエラの前には誰もいなくなった。

 それはゲストとの挨拶が一通り終了したということで、大公とティエラは一度ホールから退室し、着替えと休憩のため通路へと出る。

もちろん専用執事を連れて。

バトレル

ティエラ様、お疲れ様でございます

ティエラ

ホントに!

大公

まだ挨拶を済ませただけだぞ?

ティエラ

ゲストを呼び過ぎなんですよお父様!

大公

可愛い娘の晴れ舞台だ! 呼んで当然だろう!

ティエラ

でも……

大公

お前の兄の時と比べたらまだ少ないのだがな……

ティエラ

可愛い娘なのにお兄様より少ないんですね!

大公

そ、それは……お前にあまり負担をかけたくないと……

ティエラ

ふふっ♪ 冗談ですお父様!
お兄様は次期大公ですものね!

 成人したとはいえ、まだ15歳の少女は屈託なく笑う。

 大公も父親としてそれに付き合っていたが、真面目な表情に戻る。

大公

ホールへ戻ったらお前の婚約者を正式に発表し、会わせようと思っておる

ティエラ

……

大公

もう会ってはおるのだが……発表前にそれを言うわけにはいかんからな

ティエラ

そうですか……分かりました

 それっきり二人は無言で進み、それぞれの控室へ続く廊下で別れた。

バトレル

……

ティエラ

バトレル……

バトレル

はい

ティエラ

……貴方は、私が第一皇女でなくなっても……付いてきてくれるのよね?

バトレル

はい。私はティエラ様の執事ですので

ティエラ

ならいいわ!

 ティエラはそう言うと、控室への最後の曲がり角を曲がる。

 皇女の控室までには何人か警備の者がいるが、そこには誰もいないはずだった。

 しかし──。

お疲れ様です。お姫様

ティエラ

 ティエラの控室の前に、一人の男が立っていた。

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