そう俺は恐る恐る声のした方を振り返る。
蒼く月の綺麗な森の中。
月を背に現れた少女はツインテールで、歳は同じ頃だと思う。
服装は露出の多い“魔女”の格好。
手には“魔女”被る帽子のようなものと青い石のついた短い銀色の棒、恐らくは魔力を増幅する杖と思われるものを持っている。と、
だ、誰だ? 嫌な予感がする……俺の嫌な予感だけは当たるんだ
そう俺は恐る恐る声のした方を振り返る。
蒼く月の綺麗な森の中。
月を背に現れた少女はツインテールで、歳は同じ頃だと思う。
服装は露出の多い“魔女”の格好。
手には“魔女”被る帽子のようなものと青い石のついた短い銀色の棒、恐らくは魔力を増幅する杖と思われるものを持っている。と、
ふーん、この程度の山賊ごときにしてやられてしまうなんて、これは調教のしがいがありそうね
調教!?
不穏な言葉に俺は顔を青ざめさせる。
はっきり言って俺はそういった趣味はない。
知り合いに一度でいいから女の子に踏まれたいと、血迷ったことを叫んでいる男がいたが(彼女持ちの男ばかりにその日は囲まれていたので、ついそう言ってしまったのだろう)彼の場合は別だろう。
俺にはそんな趣味嗜好はない。
出来れば綺麗で可愛い女の子に優しくされたい。
隙を見て逃げよう、でもその前にこの痺れを……と俺が思っていると、そこで彼女が杖を掲げる。
雷よ、降れ!
短く告げる。
その言葉には魔力が宿っていた。
ほんのりと彼女と彼女の杖が白い燐光を放つ。
同時に杖から降り注ぐ雷が山賊達を襲って、一瞬にして昏倒させてしまう。
光の後の轟音に俺は小さく体を震わせながらも、その魔法について即座に理解し、それから驚いた。
あんな風に短い呪文すらも使わずに、アレだけの威力の魔法が使える時点でかなり有能な魔法使い、なのか?
本来魔法は、呪文という形で魔力の変換効率を増幅して使うのは一般的だ。
けれど今、彼女は魔法を扱う時に短い呪文しか唱えなかった。
つまり、それだけ沢山の魔力を消費するので、山賊との位置を考えても呪文を唱える時間はあるのだから……気軽に呪文なしで魔法を使えるくらい彼女は魔力を持っているのだと推測される。
それが何故こんな場所にいるのだろうと俺は思う。
そういった人達は貴族であるか奨学金をもらうなどしていい生活をしているので、馬車でよく道を移動するはずなのだ。
それがこんな夜に逃げるように山道を徒歩で移動している。
怪しい
しかも光りに照らされた彼女は美少女だ。
それが更に怪しく感じられる。
訳有りなのかもしれない。
でもそれだけでなく言動も含めて、彼女を見ていると俺は不安を覚える。
そこで彼女が俺の前にまで歩いてやってきて、
……逃げるわね。よし、こうしましょう
一人呟くと同時に、彼女は箒を取り出した。
魔女っ子らしくその箒で空を飛ぶのだろう。
その箒の中心部に、筒状の噴射口のようなものがついているので、競技用の高速移動に対応した高価な箒なのかもしれないと俺が思っていると、宙に浮かんだその箒に、俺は彼女に腕を引っ張られて、そのまま腰のあたりで折れ曲がるように箒に乗せられる。
痺れて動けない俺は洗濯物にでもされた気分を俺が味わっていると、とんと彼女はその箒に降り立ち、
上昇!
告げると同時に空高くその箒が舞い上がる。
遠ざかる地面に俺は、しびれて動けないがために真っ青になっていると、そこで箒の動きが止まる。
俺は恐る恐る彼女を見上げると、満月に寄り添うように彼女は笑っていた。
それも悪い微笑みを浮かべている。
それで、助けてあげたお礼をもらおうかしら
た、助けて頂いてありがとうございました
とりあえず俺は言葉だけでお礼を言う。が、
言葉だけですむわけがないでしょう? そうね……次の3つから選びなさい
もしも選ばなっかったら?
ここら突き落とすわ。
でも、貴方なら大丈夫でしょうしね
……追手、ですか?
俺がユニコーンの末裔だと知っているからこその発言。
つまり、俺の追っ手かと思ったのだけれど、彼女は訝しそうに目を瞬かせて、
あら、貴方も何かから追われているのかしら?
まあ、いいわ。
1、私のペットになる。
2、私の下僕になる。
3、私の恋人になる。
好きな物を選びなさい?
突き付けられた三つの選択肢。
そして俺は……迷わず、二番目の選択肢を選んだ。
こうして俺は彼女の“下僕”になったわけだ。
だって大丈夫だからって痛かったりするのは俺だって嫌だ。
彼女が誰だかは知らないが、彼女自身の力の強さも含めて色々と敵対しない方がいい気がしたのだ。
そして、そのうち上手く逃げてやろうと俺が画策していると、
それじゃあ、よろしくね、ユニ
彼女が俺の前で微笑む。
それがあまりにも綺麗で俺は胸の高鳴りを感じてしまう。
そういった趣味はなかったはずなのに。
俺がそう一人焦っているとそこで、
それじゃあ、このまま何処に行く?
で、出来ればスクレーンの町に行きたいです
そうなの? どうして?
諸事情で友人にかくまってもらおうかと
ふーん、まあいいわ。
私も丁度その街に向かうところだったし。
下僕を連れて行ってあげてもいいわ
下僕と言われるのは何となくアレだけれど、この箒での移動ならきっと俺が山道を歩くよりも早いだろう。
そう考えると俺は運がいい……のか?
なんとなく語尾に? マークが付いてしまうのは仕方がない。
下僕と言われてうなずいてしまったのは俺なのだから。
いや、だからって恋人というのもおかしい
恋愛とはお互いが愛し合わなければいけ無いのだ。
はっきり言って俺は彼女に恋心をほんの少しほども抱いていないのである。
だから恋人はダメだ。
そしてペットというのもこう、“ひも”みたいで嫌だ。
そうすると下僕以外の選択肢がなかった。
だから仕方がなかったんだと思った所で俺は気付いた。
そういえば名前を教えて下さい
……
あの、名前……
何故か彼女は、俺をじーっと不機嫌に見てから、
フィリアよ。
それと、気絶した盗賊から武器をパクるから手伝って
そう初恋の少女と同じ名前の彼女は告げたのだった。