ー マーズ衛星軌道上 ー
ハァイ、ケイ!
今日のレッスンを始めるワ。
はい、キャシーさん!
ハイ、1,2,1,2……
1,2,1,2……
OK、ネクストレッスンネ、ケイ。
あの……キャシーさん。
なぁに?ケイ。
どうして私はミナミさんの宇宙船とは違う宇宙船なんですか?
……ソーリー、ケイ。
その件に関しては私は何もわからないワ。
……
それはボクから話そうか。
Oh、Mr.ナギ
ナギさん。
ミナミと君が別の宇宙船の理由……。
それは君が…
【ナンバーズ】の
【R-クローン】
だからさ。
……!
【ナンバーズ】は知ってるかな?
はい……。
戦国学園で教わりました。
うんうん。
あそこは【ナンバーズ】の子の為の学校だからね。その辺の教育はされてるよね。
じゃあ、ゲオライト障害の事は知ってる?
いえ、それは……。
僕も戦国学園の教育プログラムには明るくないけど、ゲオライト障害は最近判明した話だから、まだかもね。
【ナンバーズ】とゲオライト障害。
この二つが関係あるのですか?
あぁ、そうさ。
簡単に言うと、【ナンバーズ】の君がミナミの傍にずっといると、ゲオライトを奪われすぎて死に至ってしまうのさ。
…死……
でも、一緒にライブするのは問題ないさ。
むしろ、君ら【ナンバーズ】の過剰なゲオライトをミナミが調整してくれる形になる。
ところで、そろそろ君専用のオペレーターをつけてあげたほうがいいかな。
僕やキャシーは他のアストロアイドルや収容ナンバーズも見なきゃいけないし。
ナギはひとしきり考えた後、
さて、では今日のレッスンはもうオシマイにして、休暇をあげよう。
と慶子に切り出した。
唐突ですね…。
真neoTOKIOほど広くないけど、AIステーションでのデートも悪く無いと思うよ?
……え?
と戸惑う慶子。
彼氏を誘ってあげたらどうだい?
かぁぁぁ!
慶子の頬は真っ赤に染め上がった。
待望!
2人の行く先!
- アストロアイドル -
ステーション
店の前で誰かを待つ慶子の姿。
その視界にとある人物が映った時、
慶子は声を上げた。
経次郎!
経次郎に手を振る慶子。
経次郎も呼応するように手を振りながら
慶子!
と名を呼び、駆け寄った。
ごめんね、遅くなって。
どこ行こうか?
んー…、私もここに何があるかわからないから……どうしよう。
実は僕もまだよく知らないんだ。
ペロッと下を出す経次郎。
その柔らかい雰囲気に
慶子もリラックスする。
じゃあ、このまま色々見ながら歩こ。
そうだね。
二人はアストロステーションの中を
散策することにした。
へぇー。
結構色々あるのねー。
普通に宇宙コロニーを形成しているから
生きる上で必要な物はなんでも揃っているらしいよ。もちろん、エンターテイメントもね。
経次郎って、ライブのない時はなにしてるの?そのエンターテイメント施設とかを利用してるの?
遊び呆けてるわけじゃないよ!
アストロアイドルのファン用の宿泊施設があってね、そこでちょっとした寮生活みたいなものをしてるよ。
私、お父さんやお母さんに何も言わずにここに来ちゃったけど心配してないかな……。
経次郎は家族になんか伝えた?
僕も何も言わずにここへ来てるよ。
でも『ゲオライトランキング運営委員会』の人たちがちゃんと伝えてくれてるってさ。
そうなんだ。
ってことは学校とかも行かなくて大丈夫なのかな?この前先生もライブに来てたけど……。
慶子は学校行かなくても、アストロアイドルでやっていけるんじゃない?
……ううん、私はまだまだよ……。
慶子なら大丈夫だよ、自信を持って。
ちなみに僕やノブは宿泊施設で通信教室の授業を受けれるようになってるよ。ここでちゃんと卒業すれば戦国学園高等部卒業と同等の資格がもらえるってさ。
* * *
ホラ、かんたんネ、OK?
キャシーさん、ペースが早いです。ノブが着いてけてません。
うおぉぉぉぉぉ!!!
歩兵さんがひっとり、
歩兵さっんがふったり……
Oh...
この調子じゃ卒業資格取れるまでに何年かかるかわからないワ!
* * *
ふふ、ノブらしいわね。
経次郎は不意に真顔で慶子に話しかけた。
……慶子……。
なに?経次郎。
ありがとう。
ど…どうしたの急に。
あの時、君が僕を呼び戻してくれなかったら、僕は僕で居られなかったかもしれない。
……とても感謝してる。
なによ、ちょっと……。
改まっちゃって。
経次郎は、ふぅ、と深呼吸をしてから
……いや、色々な事をはっきりと言ってなかったからさ……。
これからは慶子はますます人気が上がって今日みたいに話せる時間が無くなってしまう。
だから……。
……
……
二人は顔を見合わせたまま
長い沈黙が続く。
……
……
……
経次郎が口を開き何かを言おうとした時、
けたたましい音が鳴った。
DMCLN!
DMCLN!
DMCLN!
……反応が…。
大変だーー!
マッドナンバーズだーー!
うおぉぉぉぉぉ!!!
え!?何あれ……
マッドナンバーズ……。
ゲオライト許容量を超えて精神崩壊したクローンの事だ……。
この前キャシー先生の授業でやってた。
要するにゲオライトが多すぎる人ってことね……。
それなら、私がやるしか無いわ!
チェーンジ
パニーーーーッシュ!
パアァァ
増加ゲオライト:5
桜吹雪を血に染めて、
更なる朱を求めつつ
揺れる心はその頬を
桃色に染め上げる!
紅の大和撫子ここに有り!
ソウルパニッシャー☆ケイ見参!
そこの自意識過剰派手魔王!
応援(おしおき?)の時間ですよ!
ぐおおぉぉぉ!!!
なんじゃぁワレェ!
ケイスキャーン!
増加ゲオライト:5
伝馬 大六《てんま だいろく》
織田信長の第7世代クローン
後天的な印象操作によるオリジナルへのあこがれから、派手なコスプレをするようになった。
しかし、周りの反応は懐疑的で自信喪失し、ひどくストレスを抱えてしまった。
周りの目を気にせず、
自らの望みに没頭した結果、
求める物とは違ってしまったなんて……。
まるで昔の私を見ているようね……。
慶子……。
放っとけません!
私が助けてあげます!
ギャオオオ!!
簡易マイクオン!
ステージじゃないけど
このまま行きます!!
『カエルの○た』
グルルル……?
♪〜
♪〜 ♪〜
♪〜 ♪〜
♪〜 ♪〜〜〜
ガァァァァ!!!
♪〜
♪〜 ♪〜
♪〜 ♪〜
♪〜 ♪〜〜〜
ケイ、危ない!
♪〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜
良かった、間一髪かわした……。
♪♪
♪♪ ♪〜
♪♪ ♪〜
♪♪ ♪〜〜〜
グルルル……!
くっ……効果が薄い……。
まだ、『カエルの○た』しか歌えないのに、ソロだからかな……。
この調子じゃ二番で仕留められるかも
怪しい……。
その時、客席後方より
一筋の閃光が走った!
キャシーブースト!
……
あ、あなたは……!
スチャッ
ハイ!ケイ!
キャシーさん!
電撃スカウトでデビューしたばかりなのに、こんなところで野外ゲリラライブなんて無謀だワ
ごめんなさい、キャシーさん。
でも……。
まぁ、状況的に仕方ないネ。
行くヨ、ケイ!
『カエルの○た』二番ヨ!
はい!
ふーっ
ふーっ
ふーっ
♪〜
♪〜 ♪〜
♪〜 ♪〜
♪〜 ♪〜〜〜
♪〜
♪〜 ♪〜
♪〜 ♪〜
♪〜 ♪〜〜〜
うぅうぅ?
♪〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜
♪〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜
あれ?ここは?
♪♪
♪♪ ♪〜
♪♪ ♪〜
♪♪ ♪〜〜〜
♪♪
♪♪ ♪〜
♪♪ ♪〜
♪♪ ♪〜〜〜
なんかわかんないけど応援するぞー!!
ラブリー♪
ラブリー♪
ケーイー!
ラブリー♪
ラブリー♪
キャシー!
増加ゲオライト:100
ケイ、今ヨ!
はい!キャシーさん!
ソーーーーーウル
パニーーーーッシュ!!!
ほんげぇ〜!!
増加ゲオライト:120
もう、自分の見た目になんか
こだわらずに生きてくぜ!
せーの、
ケイちゃーん!!
キャシーさーん!!
増加ゲオライト:60
ケイー!!
野外ライブを終えた
ソウルパニッシャー☆ケイの元へと
駆け寄る経次郎。
やったわ!経次郎、見ててくれた?
ああ!
その時!
トータル増加ゲオライト:
+290
90ゲオライト
キャパシティオーバー!
FATAL!
FATAL!
FATAL!
ケイのステージ衣装の背面にある
装置《ゲオライトインジケーター》から
不安な警告音声が聞こえてきた。
……次の瞬間。
あれ?
うぅぅ……!?
ケ…イ…?
ケイはそのまま気を失い、
経次郎の腕の中へ倒れこんだ。
慶子!
慶子!!!
まったく…無理しないで。
君は【ナンバーズ】であって、
【ZeR0《ゼロ》】じゃ無いんだから。
ゲオライトを必要以上にあびちゃダメなんだよ。
……すみません。
よかったぁ。
……ふむ。
ナンバーズ用ゲオライトタンクが
一回で満タンだ。
君がゲオライト過多になって
マッドナンバーズ化してしまったら、甚大な被害を及ぼすだろう。
ミイラ取りがミイラとはこの事だ。
…………ではどうすれば
良かったのですか?
起こってしまったことは仕方ない。
むしろ、良くAIステーションを
守ってくれた。
ありがとう。
え…あ……はい…。
こちらこそ不出来ですみません。
今回の問題はキミのバディとなる
オペレーターがいなかったことだ。
その状況でよくやってくれたものだ。
ナギはふぅーと長い溜息をついた後、
経次郎の方を向き声をかけた。
えっと……経次郎くん……だっけ?
はい。
ちょっとハプニングはあったものの、キミには元々ここへ来てもらうつもりだったんだ。
どういうことでしょう?
キミ……、ケイのオペレーターをやってみない?
きょとんとする、経次郎。
オペレーター……?
それはどんなことをするのですか?
ソウルパニッシャー☆ケイのゲオライト管理や、ステージの準備や演出補助、状況報告などかな?
慶子の……ケイの応援……できなくなっちゃうんですか……?
そうだね……。
観客としての応援はできないね。
……けど、ライブ中でもインカム越しに応援してあげればいいよ。
……
経次郎は
しばらくの間うつむいて考えた後、
首を縦に振り
……わかりました。
引き受けます。
いえ、是非やらしてください!!
と答えた。
!!!
ありがとう、経次郎君。
助かるよ!!
いいデートになったね、ケイ。
もしかして、はじめからこれが狙いで休暇を?!
新しいバディ誕生を祝福するワ!
ありがとうございます、キャシー先生。
ナギの宇宙船の中で
新たなバディ誕生を祝う
祝賀パーティーが始まった。
賑やかな雰囲気の中、
二人きりの時間は作れなかった。
しかし、それぞれの秘めたる思いは
二人の未来を明るいものにするだろう。
僕が…僕が慶子を守るんだ!
もうあんな目には合わせない!
……経次郎の声を……ずっと聞けるんだ……。
ソウルパニッシャー☆ケイ。
デビューはしたものの、
その心はまだまだ少女だ。
こうして
二人のナンバーズは
バディを組むことになった。
くしゅん!
どうした、ミナミ。
風邪か?
なんか今、ヒロインの座が奪われる悪寒がした。
気のせいじゃないか?
うーん…。
うーん…。
うーん…。
アストロボイスの効果はステージの反響で多方向から干渉する事により増幅するので、音響設備の無い状態での野外ライブは効果が非常に薄いのだ。
君らも、覚えておくといいだろう。