目が覚めると、そこは暗闇だった

背中に感じるのはベットではなく、苔むした石床の感触

体を起こそうとするも、その体は縄で縛られていた

あれ?

あの、先輩……

おお、勇者よ、死んでしまうとは情けない

死んでませんし!

前回の筋書きと大いに異なっているんですが!

そうだったかしら

目覚めるとふかふかのベットだったじゃないですか?!あと美少女!

ベットと美少女を同時に求めるなんて、十代男子の妄想はこれだから……

けれど、現実とは空しいものよね

どういう意味ですかそれ?!

さあ?

とりあえず、ここを切り抜けて頂戴な

先輩の声はそれ以来聞こえてこない。
(どうせ見たいテレビでも見ているのだろう。)

時間がたつにつれて、だんだんと目が暗闇に慣れ始める。ボクはなんとか身を起こすと、注意深くあたりを見渡した。

牢は全部で6つあり、ボク以外には人はいない。
柵を指でなぞると、ほこりがべっとりと指にこべりついた。随分と長い間使われていない証だ。

けれど、蝋燭の火は本の数時間前に灯されたものだ。
ということは――

ひんやりとした石壁に背を預けて、体感時間で2時間ほどしたころ、こちらに向かってくる足音が一つ。

蝋燭を手にしていたのは

目が覚めたかね、少年

先輩……話が違うよ……

はい、助けていただき、ありがとうございます

妙な恰好をしていると聞いてな、異郷の者かと思ったのだが、こちらの言葉が通じるのようで何よりだ

確かに、その辺の設定穴だらけですね……

言葉が通じて助かりました

それで、そのような奇妙な恰好をして、我がクォーツ領のそれも霊峰たるビエストークス連峰にいかがな用かな?

クォ? びえ……くす?

知らなかったと言うつもりか?

はい、まあ
目が覚めたらあの辺だったので

なるほど、貴様、大したやつだ

お、なんとかなったっぽい

とはいえ、かの地には王族以外は踏み入ることは許されておらん。悪いが、決まりでな。

あ、これ……

若者の未来を絶つのは悲しいことだ

男はそう言って、腰に下げられた剣に手をかける

一撃が、振り下ろされた

氷と炎と星くんの悲歌

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