お絹

どうかしたの?

洗濯をかけ終えたお絹が階段を降りてきて尋ねる。
手には空の洗濯籠が握られていた。

とめ蔵

終わったんですね、干すの

お絹

ええ、なかなか面白かったわ

とめ蔵が聞くと、お絹は髪を耳にかけながら得意そうに答えた。

お絹

それ、届いたの?

とめ蔵

あ、はい。でも、間違いでした

お絹

え?

事情を聞いたお絹は、ノリノリで言った。

お絹

それじゃあ、届けないとね!

とめ蔵

えっ?

その昔、白いウサギに幼児が誘拐された。その男の子はワンダリアの暗黒街でモノとして売られる運命にあった。買い手もすでに決まっていた。公爵家の養子として。正確には、公爵家の息子の新しい心臓として…。

ラプンツェル

あ、雨だ!

ラプンツェルは窓から身を乗り出して、子供のように叫ぶ。
長い髪が災いして、ほとんど外出したことのないラプンツェルにとって、雨は楽しみの一つだった。
外の景色が一変するから。雲が次々に流れ、木々がざわめき、人々は家に隠れる。
それらを見ていると、ラプンツェルの心は浮き立つ。

ラプンツェル

うわぁ

アリス

おい、いつまでやってんだよ! 雨入っちゃうだろ

雨が顔に当たってもそのままでいるラプンツェルに、アリスが不機嫌そうに言った。

アリス

ほら

ラプンツェル

んん

それでも言葉とは裏腹に、タオルで濡れた顔や髪を拭いてくれる。

落札された男の子は三日後に公爵家に運ばれる予定だった。

三日後、“郵便物”は届けられた。


ラプンツェルの元に。


その一週間前、オークションの運営会社に新人のアルバイトが日雇いで加わっていた。

ラプンツェル

アリス

アリス

うん?

ラプンツェル

すき

アリス

[email protected]*$%¿仝▲▽☆♭♯!!

ラプンツェル

アリスは?

アリス

......すき

ラプンツェル

うふふ

蚊の泣くような声でアリスが答えると、ラプンツェルは顔をほころばせて喜んだ。

あの時、『千と○尋の神隠し』のDVDを注文したはずなのにずいぶん大きな箱だと思いながら紐解いたラプンツェルの目が、今、やさしくアリスを見ている。

とめ蔵

えっ? 行くんスか?

お絹

ええ。ダメ?

とめ蔵

ダメでしょ。絶対ダメでしょ

しかしとめ蔵は、お絹を小屋に残して出掛ける事にも抵抗があった。

とめ蔵

やらかす。絶対なんかやらかす

ほう、と短く息をはくと、とめ蔵は観念してお絹に向き直った。

とめ蔵

じゃ、行きますか

お絹

レッツ·ゴー!!...

お絹は高々と拳を上げた。
が、そのまま固まり、ゆるゆると腕を下げてとめ蔵に聞いた。

お絹

...でも、どうやって?

とめ蔵の小屋からラプンツェルの家までは、歩くと六時間はかかる。

とめ蔵

......

確定事項として、歩くのが面倒な人とそんなには歩けない。
もちろん、とめ蔵には策があった。
ただ、少々厄介なことが起きる可能性があるため、不安がってもいた。

とめ蔵

まあ、ちよっとだし

ということで、
荷支度を整えた二人は互いに向き合っている。

とめ蔵

いいですか? 絶対に目を開けないこと

お絹

目を開けない

とめ蔵

そう

お絹

わくわくww

とめ蔵

大丈夫かなぁ?

とめ蔵は今もって迷いが生じた。

とめ蔵

じゃあ、行きますよ!

気を取り直してとめ蔵は言う。

お絹

レッツ·ゴー!

そしてお絹は固く目を閉じる。
脳裏には、ある光景が浮かんでいた。
それは、遠い記憶。

行くよ、サラ

うんっ、レッツ·ゴー!!

お絹

お兄さま...

お絹は小さく呟いた。
火のはぜるような音が聞こえる。

お絹の閉じた目は光を感じた。

目、開けていいですよ

とめ蔵の声にお絹は、ゆっくりと目を開ける。

ビー! ビー! 

あいとまこと

ん?

ビー! ビー! 

あいとまこと

まこちゃん

あいとまこと

なに? あいちゃん

あいとまこと

これ、なんだろう??

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