ふと見ると、足下には佐川さんの血が流れて来ていた。
彼女は本当に殺されたのだ。
あまりのことに誰も言葉を発せずにいた。
ではでは~♪
断罪の輪から既に外れた井川様、先ほど見事な断罪で佐川様をゴートになさった室井様
それ以外の4名様でサイコロを振って下さい
ふと見ると、足下には佐川さんの血が流れて来ていた。
彼女は本当に殺されたのだ。
あまりのことに誰も言葉を発せずにいた。
あ~、ソレ見苦しいですかね~?
テミは佐川さんの遺体を顎で軽く指し示す。
…………こ、これ、とりあえず……
小森さんは持っていた上着を、佐川さんの遺体にかけた。
はいは~い、それでは気分を一新して元気にいきましょ~♪
……こんな事まだ続けるなんて……
……………………
続けましょう……
城ヶ崎さんは、静かに再び席に着く。
そんなっ……!!
どのみち……
それしか助かる道はないのでしょ?
白木さんまでも、自席へと戻ってしまった。
さっすが!
お二人は物分かりがよろしいですね~♪
白木さんが、テミに鋭い視線を向けた。
ゲームを終わらせない限り、どのみち私たちは生きて帰る事は出来ない……
そうなんでしょう?
ご名答で~す♪
うっ……ぐすっ……
小森さんが泣いているくるみちゃんを支えて椅子に座らせると、自分も席に黙って着く。
室井さんも着席すると、席に着いていないのは私だけになってしまった。
島崎様~?
もしかして~辞退されるのですか~?
テミは満面の笑みだが、その笑顔は酷く歪んでいて私の背中を嫌な汗が伝う。
辞退はつまりゲームオーバーという事だ。
床に出来た血だまりを見つめ、私は選択出来ない事への恐怖を感じた。
……いいえ、私も続ける……
先ほどまでとは全く違う、死と直面させられた事での緊張感から空気は重く張り詰めていた。
そして、誰ともなく4人一斉にサイコロが振られる。
11
……2
5
10
はいは~い♪
それでは2回目の断罪は、メシアが城ヶ崎様、そしてシープは小森様で~す!
……わ、私…………?
おねいちゃん……
…………
さぁ、小森様はりきって断罪をどうぞっ!!
小森さんは深く息を吐くと、決心したように封筒を開いた。
…………これ……は……!?
開いた紙を見つめたまま、小森さんは微動だにしない。
さぁさぁ! 皆様、小森さんの罪が知りたくてうずうずしてらっしゃいますよ~?
うっ…………
小森様~?
小森さんは酷く狼狽していた。
罪をお話しにならなければゲームオーバーになりますよ~?
再度深く息を吐き、小森さんはゆっくりと話しはじめる。
小森 真、私の罪。
私の罪は周りの人達を騙した事……。
私は、自らの正体を隠し、嘘と偽りで自分を作りあげた……詐欺師……
小森さんが詐欺師?
まさか、このゲームの首謀者がアナタとか?
小森さんは俯き、その表情は読みとれない。
百聞は一見にしかずで~す!
それではスクリーンにご注目~♪
あるところに
とても素敵な王子様がいました。
キャ~❤王子~
カッコイイ~❤
こっち向いて~❤
王子様はみんなの憧れの的、当然たくさんの少女たちが恋慕っておりました。
そして、その中に一人の少女が……
…………
彼女は遠くから王子様をただ見守るだけで精一杯。
しかし、その恋心はどんどん膨らんでいくのでした
そうだ!
王子様にどうしても気持ちを伝えたくなった少女は、古風にも1通の手紙を送ったのです。
しかし──
ヤダーなにコレ気持ち悪い!
あのこでしょ? いつも暗くて何考えてるんだか!
こんなもの送られて可哀想!
手紙は教室に張り出され、少女はさらし者にされました。
しかし、その数年後、傷ついた少女の心を更に傷つける出来事が起きたのです。
真~行くよ~!
う、うんっ、ま、待って~……
そう……
王子様は実は、お姫様だったのです。
どういう事?
…………僕は、男だ
お、男!?
えっ!?
小さい頃から自分の性別に違和感を持っていたんだ。
自分は男じゃない女だって…
トランスジェンダーね
うん……。
中学までは男として生活していたんだけど……ずっと耐えられなかった。
そんな時、妹に言われたんだ。お兄ちゃんでもお姉ちゃんでも構わないよ、家族なんだからって……それで今は女の子として生活している
みんな小森さんの事を、改めてまじまじと見つめていた。
その風貌からは、彼女が本当に男とは信じがたい。
小森さん……
そして私には、一つどうしても気になっている事があった。
小森さんがこのゲームに参加した理由の事だ……
ゲームに参加した理由、確かお金がどうとかって言ってたよね……?
うん、ウチは片親で生活が苦しいのもあるけど……海外で性転換の手術を受けたいと思っていたから……
それであの時、小森さんは本当にお金がもらえるのかどうかって言っていたんだ。
で、その手紙の事は本当なんですの?
城ヶ崎さんは見定めるように、さっきの映像の話を問い詰める。
いやそれが僕には覚えがないんだ……
確かにメールなんかでの告白はいくつかされた事はあるけど、手紙をもらった覚えなんてない
じゃあ何かの間違い?
…………
ちょっと! どういう事ですの!?
無実の罪を着せるなんて!!
私は、言われた通りにしているだけなので~知りませ~ん、わかりませ~ん♪
でも~小森様の罪は偽りですので~それについての断罪は行わなければなりません!
そんなっ……
だって~、もし小森様が今の様な状態でいられたらこんな事にはなっていなかったのですから~、周りを欺いた罪もさることながらご自身を欺かれていらした罪は重いのでは~?
冷たい静寂が部屋を満たす。小森さんは再び俯いて何かを考えているようだった。
……そうかもしれない
顔を上げ、はっきりとそう言う。
小森さん!?
確かに、嘘をついていた事には変わりない。周りにも家族や自分にすら……
…………嘘
おねえちゃん……
優しく微笑んだ小森さんは、心配そうに見つめるくるみちゃんの頭を撫でた。
それでは~、城ヶ崎様~断罪を~……
そんなの、無実に決まってますわ!
城ヶ崎さんは、テミがどうぞと言うのを待たずして答えを出した。
えっ? えっ?
そ、そんな即答で宜しいんですか~?
もちろんですわ!
わたくしいつも即決を心がけてますの
そう言って腕組みをしたまま、ふんっと鼻を鳴らす。
でも~……
ほんとのホントの本当~にいいんですか?
しつこいですわね!
わたくしが許すと言ったらそれでいいのよ
何か文句でもあるのかしら?
いえ~、文句はありませんが~次のシープがご自分になることをお忘れなく~♪
わかっていますわよそんなこと
わたくしがどんな罪を犯したかはしりませんが、許される自信がありますから
そうですか~……
しかし~二度許しが続いた時はどなたかがランダムでゴートになるルールもお忘れなく~
う…………
ランダム……
そうですよ~、その場合は断罪の輪から抜けられた方も例外ではありませんので~Ἳ5
ひっくっ…………
…………
いいですわ……
それでもわたくしは公正な判断をします
その時また、あの間の抜けたファンファーレが部屋中には鳴り響いていたが、私にはどこか遠くから聞こえている様な感覚がする。
佐川さんから流れてくる血の臭いだけ、いやに近くに感じていた。