4月上旬。
桜の開花が例年に比べ遅くなった今年は、入学式当日と桜の満開になるタイミングがマッチし、都立けやき商業高等学校へ入学する新入生は、優しく振りかかる桜吹雪を浴びながら、校門から入学式の会場である体育館への道を歩いていた。
4月上旬。
桜の開花が例年に比べ遅くなった今年は、入学式当日と桜の満開になるタイミングがマッチし、都立けやき商業高等学校へ入学する新入生は、優しく振りかかる桜吹雪を浴びながら、校門から入学式の会場である体育館への道を歩いていた。
サッカー部をよろしくお願いしまーすっ
野球部は、運動神経抜群なみんなを待っているぞ!
マンガやイラストが好きな人は、ぜひマンガ研究会に足を運んでください!
日本の文化、将棋や囲碁をやりたい人はいないかな?
校門から体育館への一本道は桜並木になっている。
“ファーストコンタクトを制するものは、部活動を制する”
けやき商の部活に所属している者に叩きこまれる教えだ。この教えに基づいて、各部活は入学式に参列するために登校してくる新入生との「ファーストコンタクト」を取るため、この桜並木に集まり、趣向を凝らしたビラを新入生や保護者に対して配布していた。
恐らくはマネージャーが作ったのだろう。小さなサッカーボールがついたキーホルダーとビラを片手に、サッカー部のマネージャーが目ぼしい男子を見つけては声をかけている。
その隣で、昨年甲子園のマウンドに立った野球部のエースが、キャッチャーを相手に投球練習をしている。キャッチャーミットに、エースから放たれた公式球が納まった瞬間に発生する“スパン”という軽快な音が鳴り響く度に、ギャラリーからは“オオー!”という歓声が上がっていた。
けやき商は運動部の活動が盛んということもあり、例年門に近い場所を運動部が陣取り、入学式が行われる体育館側を文化部が陣取ることとなっていた。
そんな中でも、我がパソコン部は団体連続優勝の偉業を成し遂げていたため、文化部の中で1番校門側に近い場所を陣取ることができた。
パソコン部マネージャーで、リーダーの鳳城亜美が指示を飛ばして作り出したカラフルなビラを持ち、部長である俺や副部長の嶋尻真琴、そして亜美を始めとしたマネージャー数名が桜並木に立ち、新入生への勧誘活動を行っていた。
パソコンの入力大会で連続優勝のけやき商パソコン部で~す!!
昨年テレビで放映された、個人入賞した部員も居ま~す!!
仮入部期間に、ぜひ一度パソコン室へ来てくださ~い!!
文化部の部員とは思えない程の大きな声を張り上げながら、亜美を始めとしたマネージャー陣がビラを配布している。
どうぞ、持っていって下さい!!
はいっ。俺、けやき商のパソコン部に憧れて、けやき商に入学したんですっ!!
そうなんですか!ぜひ、仮入部期間に来て下さい!!
はい!ありがとうございます!!
新入生の中に、こんなやりとりをマネージャーとしている姿が多く見受けられる。今年度も、新入部員を確保するのに事欠くことはなさそうだ。
無事に3年に進級し、先代部長からパソコン部を任されることになった俺がそんなことを思っていると、俺と真琴に向かって進んでくるポニーテールの女の子が目に入ってきた。
お姉!それに煉先輩!じゃなかった…。今は部長さんなんだっけ…
だ・か・ら!お姉じゃないでしょっ。お姉じゃ!!
美琴ちゃん!真琴から入学が決まったとは聞いていたけど…。元気そうで何より!!
はいっ!文化祭の時に約束した通り、受験勉強頑張りましたから!!
そんなこと言って!自己採点じゃ、合格ぎりぎりだったくせに…
合格したんだからいいの!そりゃ、すこし冷や冷やはしたけどさ
ははは。で、受験勉強を終わってからは、まさか…
そうです!お姉に負けないように、しっかり練習してました!
まったくズルいわよね。私はテストや検定で大忙しの時、美琴ったら、下手すると一日パソコンに向かって練習していたんだから…
ほほう、それはすごいな。俺もうかうかしてたら、真琴より先に美琴ちゃんに抜かれる日が来そうだ
部長!私は美琴にはぜーーーーったい負けませんから。部長を最初に負かすのは、私なんですよっ!
そうだな。俺も2人に負けないように頑張るよ!
ビラ配りも忘れて3人で話をしていると、校内放送が入った。
新入生とその保護者の方にご連絡致します。間もなく、体育館にて入学式を挙行致します。体育館にいらっしゃらない方は、会場までお急ぎ頂きますよう、お願い致します。繰り返します…
美琴!そろそろ入学式が始まるわよ。早く行きなさい!
は~い!!部長さんっ!また後でお話しましょう!
ああ。気をつけてな!それと、新入生代表の言葉、期待してるからな!
ふぇ~。そのことは言わないで下さいよ~。お話して緊張がほぐれたと思ったのに…
美琴。ヘマしないようにね
は~い!
俺と真琴に見送られ、近くで他の保護者と話していた真琴と美琴の母親と一緒に、美琴は体育館へと消えていった。
第2話 に続く