瞬く間に時が過ぎ、今日は7月31日……終業式だ。


 滝岡に告白する気なんて毛頭無かったのに、
前に屋上で恒久に言われた事が頭から離れなくて、
今日まできてしまった。


 明日から、夏休みか……。
滝岡が彼女になったら、どんなに楽しいだろうな。
ラッキーが起こって滝岡から告白してくれないかな?
なんて考えた事もあったが……。


 いやいや、そんなんじゃ駄目だ。
やはりここは、男から告白するべきだろう!


 よーし、そうと決めたらまずは落ち着くんだ。
そして落ち着いてから、作戦を練ろう。


 終業式が終わったら、
滝岡を人気の無い場所に呼び出すんだ。
そうだ、校舎裏がいいかもな。


 そこで告白……というのは、まだ気が早い。
ふたりきりになったからと言って、
いきなり告白をしたら滝岡も驚くだろう。


 まずは『夏休みの予定は?』なんて軽い話から入って、
自然な流れで『滝岡って彼氏いそうだよね』と、
段階的に探りを入れる。


 この、『彼氏がいそう』という言葉が重要だ。
滝岡に彼氏がいないというのは、
飽くまで友達の『彼氏でも作れば?』という言葉から
推測しただけであって、
滝岡自身の口からは、『いる』とも、『いない』とも、
聞いていない。


 もし告白する前に彼氏がいない事が判明すれば、
無駄に傷つく必要は無い。


 そして次は、滝岡が『彼氏なんていないよ』と言った場合を
考えよう。


 さりげなく……飽くまでさりげなく、
『俺のこと、どう思う?』と聞いてみるんだ。
ここまで段階を踏めば、
かなり告白しやすい雰囲気になるだろう。


 なんだか男らしく無いような気がしないでもないが、
シミュレートはバッチリだ!

──終業式の最中、
俺の頭の中は滝岡の事で一杯になっていた。


 滝岡って、俺の事はいつまでも名字で呼ぶのに、
恒久の事は下の名前で呼ぶんだよな……。


 そりゃ、中学時代から仲が良かったせいだろうけど、
男女の友情が成立するなんて考え難い。


 ましてや、あの恒久の事だ……。
滝岡に手を付けていない事が奇跡としか思えないが、
まさか……。


 恒久にとって、滝岡は本命だったりするのか!?


 遊び人の恒久を、陰ながら見守る滝岡……。
ふたりは両想いなのに、
その想いがピュアすぎてお互いに気持ちを
打ち明けられない……とか。

瀬海 平和(せかい ひらかず)

いやああああぁーっ!!!


……余計な事を考えるのはやめよう。


 ただ滝岡に告白する事だけに、
全神経を集中させるんだ!

 終業式が終わった後、
俺は真っ先に滝岡のもとへ向かった。

瀬海 平和(せかい ひらかず)

たっ、滝岡っ!

滝岡 めぐり(たきおか)

あっ、瀬海くん。
今ね、恒久くん達と
カラオケに行こうかって……

瀬海 平和(せかい ひらかず)

好きだ!

滝岡 めぐり(たきおか)

…………


 辺りが一瞬にして凍りついた。

 中でも一番凍りついたのは、俺自身だ。
あれだけ色々と考えていた段取りが、全部パーだ。

中林 恒久(なかばやし つねひさ)

……っっ!

 滝岡のすぐ後ろで、
恒久が笑いをこらえているのが目に入った。


 ……はいはい、そうですよ。
本当はふたりきりになってから告白するつもりで、
いきなり好きなんて言うつもりは無かったんだよ。


 終業式の最中に、恒久と滝岡について考えていたら、
急に気持ちが焦って何も考えられなくなったんだよ!!


 ああ……空は青いし、
明日から夏休みだし、みんながこっちを見ているし。


 俺は泣きたくなった。

滝岡 めぐり(たきおか)

……あっ、あのっ。
私で良ければ


 滝岡が、戸惑いがちに口を開いた。


 んっ?
今、滝岡が……?

瀬海 平和(せかい ひらかず)

えっ……?


 俺が口をあんぐりと開けていると、
滝岡が慌てて両手を振った。

滝岡 めぐり(たきおか)

やっ、やだっ、ごめん!
付き合って欲しいって意味かと
勘違いしちゃった!
えっと、あの……っ、忘れて!


 今にも走って逃げ出しそうになった滝岡の手を、
強くつかんだ。

瀬海 平和(せかい ひらかず)

今のって、OKって意味なのか?

滝岡 めぐり(たきおか)

もぉーっ、やだーっ!
だから勘違いしちゃったの!


 なおも暴れて逃げようとする滝岡の両手を、
しっかりと握った。

瀬海 平和(せかい ひらかず)

勘違いじゃない


 俺の言葉を聞いて、滝岡が止まった。

滝岡 めぐり(たきおか)

…………


 不安そうにこっちを見ている滝岡に、
俺は続けてこう言った。

瀬海 平和(せかい ひらかず)

だから……俺は、滝岡が好きなんだ。
俺と付き合って欲しい


 滝岡の表情が、
スローモーションのように変化するのを
見逃さなかった。

滝岡 めぐり(たきおか)

うん……付き合おう!


 その瞬間に、
周りで黙って見ていた連中が一斉に騒ぎだした。

 

おめでとう!

友男

見せつけんなよ!

クラスメイト

外でやれ!


 お祝い(一部罵声に聞こえるが)の言葉を
浴びせられながら、
俺と滝岡はもう一度手を繋いだ。

滝岡 めぐり(たきおか)

ふふっ


 恥ずかしそうにしながらも、
こっちを向いて照れ笑いをしている滝岡が、
どうしようもなく可愛かった。


 みんなの前で抱きしめようかとも思ったけど……
これ以上注目を浴びるのは
滝岡が可哀想な気もしたから、
手を繋ぐだけで我慢した……。

中林 恒久(なかばやし つねひさ)

…………


 明日から、高校生になって初めての夏休みが始まる。
学校の外でも、毎日滝岡と会う事が出来るんだ。


 とりあえず当面の目標は……。
お互いに、下の名前で呼び合う事だな!





おわり

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