―巨大帆船・甲板―
―巨大帆船・甲板―
水の侵食を決して許さない丈夫な木材を並べて。
海上に大地を備えさせた甲板の上に勇者一行の姿がある。
『深緑の大地』由来の木の上で胡座をかいている女性が口を開いた。
んじゃ気を取り直して。パッフ、お前の武器紹介だな
はぁ……
我が身が武器とするのは主にランスと剣です
お二つですの?
器用ですわね♪
いえ、それほどでは
どちらが得意ですのよ?
どちらも最低限の技量しか持ち合わせていませんが――
強いて言うなら槍でしょうか。馬上での戦闘が多かったもので
だが、初めて出会った時は剣を使っていたな
あの時は槍を持ち合わせてなかったのです。
ソーリヨイの街にはあまり良い槍は置いていませんでしたし
剣も槍も市販品だよりですの?
ええ。騎士団で支給されたものを流用しています
この剣……。
騎士団の支給品にしては物凄く洗練されてるですのよ
確かに上物ですわね――
一体どこの騎士団に所属していたんですの?
それは……普通なところですよ
過去の詮索は無しで行こうぜ
シュー達もぉ、未だ聞いていませんのでぇ
そうですわね
そして、我が身のもう一つの武器がこの槍です
円錐の形ですのよ
これはどちらかというと……
ええ。馬上槍――ランスと呼ばれるものですね
これと剣をそれぞれ両手に?
持ち替えるわけではないですのよ?
ええ。同時に扱います
おお……
驚きですわ……
盾の扱いは苦手でして……。
お恥ずかしい限りです
いえ、そうではないのですのよ
?
普通、ランスと剣で二刀流する奴はいねぇんだよ、重量が半端ないからな。
パッフは謙虚過ぎてそこらへん理解してねぇんだよなぁ
それで、どちらがよりお得意ですの?
『ベンハのコロッセオ』で見る限りですと、ランスの方が扱いに長けていると見えたですのよ
ええ。ランスの方が我が身に馴染んでいるようです
確かにパッフさんの槍術はぁ、見応えがありますね〜
どこぞの騎士団出身かは別として、一目置かれてたろ?
いえ、そういうわけでは……
美少女たる女騎士が槍を得意とする――。
なんと合理的な美しさよ
言ってる意味がよくわかりませんが、とりあえず褒めてますのね!
パッフの槍術は強いぜ?
なにせパッフの場合、空から急襲するからなぁ
付いたあだ名がぁ、天空騎士ですからねぇ……
まぁ竜騎士みたいですわね!
ジャンプ! ジャンプですのよ♪
申し訳ありませんが、その通り名は却下させていただきたく思います
そう言えば、パッフさんは馬がなくともランスを使ってたですのよ
そうでしたわ……
乗用馬を連れての旅ではなさそうですし……
それが何か問題でも?
ランスは馬上槍っていうくらいだから当然馬に乗っていた方が強い
ただでさえ重量級の槍ですがぁ、馬の勢いに任せて刺突する目的で開発された武器ですからぁ
歩兵状態で使うには、いささか適さない武器ですわ
それを敢えて使ってる器用さに驚きですのよ
いえ、それほどでも――
そ、そうか……
どうしたんだ、ソートク?
いや……流石に皆 詳しいなと思ってな
勇者学校では教わらなかったんですかぁ?
騎士団の専門武器まではな。
お前たちもどこかで習ったわけではあるまい?
確かに習っていませんがぁ――
戦場で生きてきたからなぁ。
自然と覚えるもんだぜ
武器の特性を把握していないと、死に直結しますの
スフレさんの場合、どれも一度は触ってますのよ
ランスは全く使えなかったですのよ
ワタクシは「斬る」「払う」が専門ですの
どっちかってーと、俺も「払う」だな
なるほど……
確かに、武器には得意不得意とする場所があります
ランスが白兵戦において不向きだということは理解しています
しかし、我が身はその限りではありません
なぜなら、我がランス・メソッドは強力無比だからです!
ランス……
メソッド……?
あっ……
スイッチ入っちゃいましたねぇ
あーあ、さっきまでいい感じに謙虚な姿勢を保てていたのに……
こればっかりは譲らないんですねぇ……
?
ランス・メソッドとはなんですの?
言葉の響きからするとランスのテクニックのことですのよ?
いいえちがいます!
テクニックとは、実力が五分と五分の物同士のに交わされる言葉ですが、メソッドは教授する意を持つように、一線を超えた者のみ許される卓越した技巧です
はあ……
ですのよ……
ランス・メソッドを会得したものは、ランステクニックを網羅している者の完全上位互換になるのです
我が師からランス・メソッドを会得したと認可が降りた時には感涙にむせびましたね。
やっと我が身にも取り柄ができたと――
おい、ソートク。飯食い行こうぜ
ですねぇ
いいのか?
ランス・メソッドについて語りだすとパッフは意識高くなるから、話し長くなるぜ
盗賊団のアジトで話していた続きが聞けるのではないか?
ランス使うなら聞いたほうがいいかも知んねぇが――
お前は槍の穂先の造り方とか、槍文化の黎明期からの話しに興味があるのか?
そも、槍が発達する前の話のことです。
魔獣を狩るために人は鋭く研磨した石を使っていました。
それでも心もとない威力でして、魔獣に対して優位性を持つために柄を取り付けたところから――
……
……
お嬢とメレンには悪いが、オレ達は難を逃れるぜ
お二人にはぁ、人柱になっていただきましょう
ふむ……
ま、今のところあの二人は興味津々で聞いてるけどな
こうして槍の形が完成されてきたのです。
それと時を同じくして、槍術が生み出されました。
ランス・テクニックの走りですね。ですが、まだ未熟そのものでした。
最初は長ければ長いほど良いと言われていたのですから――
あの二人もぉ、戦いの中で生きてきたみたいですからねぇ
武器の話は好きなのではぁ?
ま、その内苦痛に変わるぜ。
弓とか魔箭弾とかの遠距離武器が出てきて槍の不遇の時代の話とかよ
似たような話が続きますからねぇ
……
フッ――
どうした?
いや何。誰もが皆楽しそうに武器の話をする。
俺はそれを物騒だとはまるで思わん。
ただ、頼もしい限りだと思ってな
つまり、「突く」以外にも槍は「薙ぐ」「斬る」といった剣にも似た役割を持っていると気付いた時、闇雲に長くするのは過ちであると分かったのです。
槍の機能を十分に発揮するために、槍の長さを敢えて抑えたりする研究が進みました。
同時に「突く」ことに特化したランスも派生されてきたのですが――
強い日差しの元、勇者の高笑いと元騎士の高説が交差する。
勇者の高笑いにつられる形で笑みを作る剣闘士と魔法使い。
元騎士の教授を熱心に聞く、お嬢様の姿をした魔物専門暗殺者の褐色の女性と、子供と見紛う妖精。
彼らの船路はまだまだ続く
――……