―巨大帆船・甲板―

水の侵食を決して許さない丈夫な木材を並べて。

海上に大地を備えさせた甲板の上に勇者一行の姿がある。


『深緑の大地』由来の木の上で胡座をかいている女性が口を開いた。

ゼリィ

んじゃ気を取り直して。パッフ、お前の武器紹介だな

パッフ

はぁ……

パッフ

我が身が武器とするのは主にランスと剣です

スフレ

お二つですの?
器用ですわね♪

パッフ

いえ、それほどでは

メレン

どちらが得意ですのよ?

パッフ

どちらも最低限の技量しか持ち合わせていませんが――

パッフ

強いて言うなら槍でしょうか。馬上での戦闘が多かったもので

ソートク

だが、初めて出会った時は剣を使っていたな

パッフ

あの時は槍を持ち合わせてなかったのです。
ソーリヨイの街にはあまり良い槍は置いていませんでしたし

スフレ

剣も槍も市販品だよりですの?

パッフ

ええ。騎士団で支給されたものを流用しています

メレン

この剣……。
騎士団の支給品にしては物凄く洗練されてるですのよ

スフレ

確かに上物ですわね――

スフレ

一体どこの騎士団に所属していたんですの?

パッフ

それは……普通なところですよ

ゼリィ

過去の詮索は無しで行こうぜ

シュー

シュー達もぉ、未だ聞いていませんのでぇ

スフレ

そうですわね

パッフ

そして、我が身のもう一つの武器がこの槍です

メレン

円錐の形ですのよ

スフレ

これはどちらかというと……

パッフ

ええ。馬上槍――ランスと呼ばれるものですね

スフレ

これと剣をそれぞれ両手に?

メレン

持ち替えるわけではないですのよ?

パッフ

ええ。同時に扱います

メレン

おお……

スフレ

驚きですわ……

パッフ

盾の扱いは苦手でして……。
お恥ずかしい限りです

メレン

いえ、そうではないのですのよ

パッフ

ゼリィ

普通、ランスと剣で二刀流する奴はいねぇんだよ、重量が半端ないからな。
パッフは謙虚過ぎてそこらへん理解してねぇんだよなぁ

スフレ

それで、どちらがよりお得意ですの?

メレン

『ベンハのコロッセオ』で見る限りですと、ランスの方が扱いに長けていると見えたですのよ

パッフ

ええ。ランスの方が我が身に馴染んでいるようです

シュー

確かにパッフさんの槍術はぁ、見応えがありますね〜

ゼリィ

どこぞの騎士団出身かは別として、一目置かれてたろ?

パッフ

いえ、そういうわけでは……

ソートク

美少女たる女騎士が槍を得意とする――。
なんと合理的な美しさよ

スフレ

言ってる意味がよくわかりませんが、とりあえず褒めてますのね!

ゼリィ

パッフの槍術は強いぜ?

ゼリィ

なにせパッフの場合、空から急襲するからなぁ

シュー

付いたあだ名がぁ、天空騎士ですからねぇ……

スフレ

まぁ竜騎士みたいですわね!

スフレ

ジャンプ! ジャンプですのよ♪

パッフ

申し訳ありませんが、その通り名は却下させていただきたく思います

メレン

そう言えば、パッフさんは馬がなくともランスを使ってたですのよ

スフレ

そうでしたわ……

スフレ

乗用馬を連れての旅ではなさそうですし……

ソートク

それが何か問題でも?

ゼリィ

ランスは馬上槍っていうくらいだから当然馬に乗っていた方が強い

シュー

ただでさえ重量級の槍ですがぁ、馬の勢いに任せて刺突する目的で開発された武器ですからぁ

スフレ

歩兵状態で使うには、いささか適さない武器ですわ

メレン

それを敢えて使ってる器用さに驚きですのよ

パッフ

いえ、それほどでも――

ソートク

そ、そうか……

ゼリィ

どうしたんだ、ソートク?

ソートク

いや……流石に皆 詳しいなと思ってな

シュー

勇者学校では教わらなかったんですかぁ?

ソートク

騎士団の専門武器まではな。
お前たちもどこかで習ったわけではあるまい?

シュー

確かに習っていませんがぁ――

ゼリィ

戦場で生きてきたからなぁ。
自然と覚えるもんだぜ

スフレ

武器の特性を把握していないと、死に直結しますの

メレン

スフレさんの場合、どれも一度は触ってますのよ

メレン

ランスは全く使えなかったですのよ

スフレ

ワタクシは「斬る」「払う」が専門ですの

ゼリィ

どっちかってーと、俺も「払う」だな

ソートク

なるほど……

パッフ

確かに、武器には得意不得意とする場所があります

パッフ

ランスが白兵戦において不向きだということは理解しています

パッフ

しかし、我が身はその限りではありません

パッフ

なぜなら、我がランス・メソッドは強力無比だからです!

スフレ

ランス……

メレン

メソッド……?

ゼリィ

あっ……

シュー

スイッチ入っちゃいましたねぇ

ゼリィ

あーあ、さっきまでいい感じに謙虚な姿勢を保てていたのに……

シュー

こればっかりは譲らないんですねぇ……

ソートク

スフレ

ランス・メソッドとはなんですの?

メレン

言葉の響きからするとランスのテクニックのことですのよ?

パッフ

いいえちがいます!

パッフ

テクニックとは、実力が五分と五分の物同士のに交わされる言葉ですが、メソッドは教授する意を持つように、一線を超えた者のみ許される卓越した技巧です

スフレ

はあ……

メレン

ですのよ……

パッフ

ランス・メソッドを会得したものは、ランステクニックを網羅している者の完全上位互換になるのです

パッフ

我が師からランス・メソッドを会得したと認可が降りた時には感涙にむせびましたね。
やっと我が身にも取り柄ができたと――

ゼリィ

おい、ソートク。飯食い行こうぜ

シュー

ですねぇ

ソートク

いいのか?

ゼリィ

ランス・メソッドについて語りだすとパッフは意識高くなるから、話し長くなるぜ

ソートク

盗賊団のアジトで話していた続きが聞けるのではないか?

ゼリィ

ランス使うなら聞いたほうがいいかも知んねぇが――

ゼリィ

お前は槍の穂先の造り方とか、槍文化の黎明期からの話しに興味があるのか?

パッフ

そも、槍が発達する前の話のことです。
魔獣を狩るために人は鋭く研磨した石を使っていました。
それでも心もとない威力でして、魔獣に対して優位性を持つために柄を取り付けたところから――

スフレ

……

メレン

……

ゼリィ

お嬢とメレンには悪いが、オレ達は難を逃れるぜ

シュー

お二人にはぁ、人柱になっていただきましょう

ソートク

ふむ……

ゼリィ

ま、今のところあの二人は興味津々で聞いてるけどな

パッフ

こうして槍の形が完成されてきたのです。
それと時を同じくして、槍術が生み出されました。
ランス・テクニックの走りですね。ですが、まだ未熟そのものでした。
最初は長ければ長いほど良いと言われていたのですから――

スフレ
メレン
シュー

あの二人もぉ、戦いの中で生きてきたみたいですからねぇ

シュー

武器の話は好きなのではぁ?

ゼリィ

ま、その内苦痛に変わるぜ。
弓とか魔箭弾とかの遠距離武器が出てきて槍の不遇の時代の話とかよ

シュー

似たような話が続きますからねぇ

ソートク

……

ソートク

フッ――

ゼリィ

どうした?

ソートク

いや何。誰もが皆楽しそうに武器の話をする。
俺はそれを物騒だとはまるで思わん。

ソートク

ただ、頼もしい限りだと思ってな

パッフ

つまり、「突く」以外にも槍は「薙ぐ」「斬る」といった剣にも似た役割を持っていると気付いた時、闇雲に長くするのは過ちであると分かったのです。
槍の機能を十分に発揮するために、槍の長さを敢えて抑えたりする研究が進みました。
同時に「突く」ことに特化したランスも派生されてきたのですが――

強い日差しの元、勇者の高笑いと元騎士の高説が交差する。

勇者の高笑いにつられる形で笑みを作る剣闘士と魔法使い。

元騎士の教授を熱心に聞く、お嬢様の姿をした魔物専門暗殺者の褐色の女性と、子供と見紛う妖精。

彼らの船路はまだまだ続く

――……

41、 勇者一行の他愛のない船路 ―2―

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