―巨大帆船・甲板―

視界にちらつく光がある。

無数の小さな輝きは、海から発せられ、見る者の瞼を閉ざそうとしている。

日差しを反射させているのである。


無数のガラスのように日光を写す大海の上、水を切りながら進む巨大な帆船があった。

『深緑の大地』から『凍青の大洋』へと向かっている巨大な船体の内、広々とした場所がある。

甲板だ。

木材を連ねた床に向かい合うように集まっている人影がある。

数は六人。立っている妖精族の女児や腰を下ろしている剣闘士などがいる。

その剣闘士が腕を組んで立っている集団唯一の若い男に話しかけた。

ゼリィ

ソートク、オレたちは互いのことをよく知らない。
そこで自己紹介ってか武器紹介をしようと思う

ソートク

武器紹介か……

ゼリィ

こういう場所じゃないとゆっくり話せねぇだろ

ソートク

まぁ、確かに急ごうにも船の速度が絶対だからな

シュー

まだ着きそうにないですからねぇ

パッフ

各々方、有事の際に動きやすいように甲板にいることをどうかお忘れなく

シュー

気張ってますねぇ

スフレ

……

メレン

どしたですのよ、スフレさん?

スフレ

いえちょっと……

ソートク

む?
どうしたスフレ嬢?

スフレ

ねぇ、皆さん

スフレ

どうせなら過去のお話とかどうですの?

ゼリィ

過去……?

メレン

あー、そう言われてみたら皆さんの過去は知らないですのよ

メレン

ソートクさんの野望は聞いたのですけど……

パッフ

勇者殿の野望を聞いて尚、一緒にいようとするのも凄いですが……

パッフ

それは我が身にも言えなくはないですよね……

スフレ

どうですの?
もっと親密になれると思いますわ♪

パッフ

それにしても、過去ですか……

ゼリィ

過去か……

シュー

過去ですかぁ……

スフレ

では、早速ワタクシ達から

スフレ

物心つく頃から、ワタクシとメレンは一緒でしたの

メレン

懐かしいですのよ

スフレ

奴隷市場で売られて娼婦となるために――

ゼリィ

だあ!
想像以上に重い思い!!

ゼリィ

しかも無駄に長くなりそうなのは駄目だ!

スフレ

あら?

シュー

潮騒と共に耳にする内容ではないですよ……

メレン

まあ、言われてみればそうですのよ。

パッフ

過酷な話だとは理解しますが……

パッフ

娼婦とはなんでしょうか……

ソートク

美少女が背負ってきた壮絶な過去に関心が無いわけではないが――

ソートク

それはまた別の機会にしよう

スフレ

まあ、ソートクさんまで

ゼリィ

まあまあ。
武器紹介で我慢してくれよ

シュー

戦いにおいてぇ、各々がどういう動きが出来るか〜。
それを把握することも大事ですよぉ

パッフ

我々も人数が増えましたからね。
団体には団体の戦い方もあるでしょう

ソートク

なるほどな

ゼリィ

てかソートク。お前さんの武器って剣でいいのか?

パッフ

そういえば、御身の武器は出会った時から同じですね

ソートク

ああ、これか?

シュー

見たところぉ、魔物を斬った時に付いた残滓以外に魔力は感じませんねぇ

スフレ

そうですわね。いかにも普通の剣といったところですの

ソートク

手入れをすれば長持ちする。
ゴーレム種にも刃は届いたしな

メレン

刀匠の名も無いですのよ。いくらで買ったですのよ?

ソートク

これは市販のものではない。貰い物だ

ゼリィ

お?どこで手に入れたんだ?

シュー

ダンジョンですかぁ?

ソートク

記念品の一つだ。勇者学校卒業記念のな

ゼリィ

へえ、流石に上等なモン貰えるんだな

ソートク

学費も高いからな。贈答品も奮発されている

スフレ

あら、ソートクさんは勇者学校卒業してましたの?

スフレ

それなのにハーレムを目指すってあまり聞きませんわね

メレン

ビックリですのよ。名門出ですのよ

メレン

だというのにハーレムを目指していことに驚きですのよ

スフレ

人は見かけによりませんですわね

パッフ

私が落ちた学校……

ゼリィ

んじゃ結局ソートクの得意武器は剣ってことでいいのか?

ソートク

かもな

シュー

オーソドックスですねぇ

ゼリィ

んじゃお嬢。お前からで

スフレ

あら、よろしいですの?

スフレ

ワタクシの武器はこちらですわ♪

スフレ

こちらの『首薙ぎ』ですの♪

パッフ

ナイフ……短剣ですか?

スフレ

ええ♪

ゼリィ

あー、そんなだったな

パッフ

しかし形状は面妖というか変わっていますね

ソートク

幅広の刃に、湾曲した刀身――

シュー

一見するとぉ、儀礼用の短剣ですねぇ

スフレ

無理もありませんわ。
これはワタクシの出身地でよく見られる短剣に形状を似させてますもの

シュー

『黄龍の沙漠』ですかぁ?

メレン

そうですのよ

メレン

スフレさんのはチョーパーと呼ばれる短刀ですのよ。
本物はもっと変わった形ですけど

スフレ

斬れ味抜群ですの♪
これを逆手に持って戦うのですわ

パッフ

短剣使いのくくりですね

スフレ

もう一つ、『人裂き』というのもありますけれど、部屋に置きっぱですしまた今度お見せしますわ

ソートク

期待しよう

ゼリィ

……

スフレ

どうしましたの?

ゼリィ

あ、いや

ゼリィ

お嬢って結局何の職業なんだ?

スフレ

職業?

ゼリィ

オレは剣闘士。まぁ、戦士とも呼ばれるが。
で、シューは魔法使いでパッフは騎士だろ?

パッフ

元ですけれど

ゼリィ

そうなると、お嬢は何なんだろうなってよ

ゼリィ

勇者のパーティには肩書きめいた職業ってのがあんだろ?

シュー

一理ありますねぇ。
遠くの国の勇者のパーティではぁ、おてんばな姫が武闘家の役割をもっていたりしますねぇ

ゼリィ

記憶喪失の家出少女が実は、伝説の大魔女の血筋だったり

シュー

さすらいの剣士が引換券だったりしますからねぇ

パッフ

引換券?

ゼリィ

まあ、それは置いといて、一般的な勇者のパーティでお嬢は何なのかってな

スフレ

んーどうでしょう?

スフレ

武器的には暗殺者とかがしっくりきますの♪

ゼリィ

それであの殺気か……

メレン

あーでも、ウチらは殺人は犯していないですのよ?

パッフ

ええ、疑っておりません

メレン

あと職業ですけど、その一般的な解釈で話されると困るのですのよ

パッフ

――というと?

メレン

こう見えて私は魔法が全く使えないですのよ……。

ゼリィ

あ、そうなのか?

シュー

妖精族にも色々いますからねぇ

ソートク

そう言われてみれば、メレンは一般的な妖精と随分と違う容姿をしているな

メレン

広義的に言われている妖精族は、魔法妖精種を指すのですのよ

メレン

シューさんが契約している守護精霊と似た容姿を持っているものですのよ

シューの守護精霊

ム……我ノコトカ?

メレン

妖精と言われれば、普通は人の手の平サイズと言われてるのですのよ

メレン

小さい体でも、内に秘めた魔力があれば生きていけるからですのよ

メレン

それに比べて、私のような戦闘妖精種は魔力を宿さず、人の子供くらいの大きさが平均的なサイズですのよ

ゼリィ

ほー。
つまり、魔力以外のことに秀でているのか?

メレン

……

メレン

そこは、尋ねられると弱いところですのよ

メレン

一応、飛べたりはするんですけど……

スフレ

でも、魔法が使えなくともメレンは優秀ですわ♪

メレン

まぁ、戦闘妖精種が、戦闘不向きでは名前負けもいいところですのよ

メレン

一応、私も戦闘要員として働けるのですのよ

ゼリィ

んじゃあ、武器もあるのか?

メレン

もちろんですのよ

メレン

私の武器はこの鎌ですのよ

パッフ

鎌ですか。イメージにそぐわないような……

シュー

一点集中の、刺突に秀でた武器ですねぇ

ゼリィ

斧以上に玄人だな

メレン

これが一番活用しやすいですのよ

スフレ

メレンの戦い方はワタクシと同じく、洗練された動きの中での暗殺術ですの

ソートク

魔物専門の暗殺者が二人も揃ったというわけか

メレン

スフレさんと同じカテゴライズにされると、未熟すぎて恥ずかしいですのよ。

スフレ

あら、でも相手の弱点を付くのは貴女の方がお上手ですわよ?

スフレ

ワタクシは基本、首しか狙いませんから♪

ゼリィ

あ、じゃあお嬢、デュラハンあたりに苦戦するタイプだろ?

スフレ

そうですわっ

シュー

デュラハンは首落としたところでぇ、死にませんからねぇ

メレン

懐かしいですのよ。
何回も、果敢に首を落とそうとしているスフレさんは可愛かったですのよ

スフレ

もうっ、メレンったら

パッフ

……

パッフ

内容がバイオレンスなのと、デュラハンというレベルが違い過ぎる敵の登場のせいで会話についていけません……

ソートク

美少女が手に持つ武器を誇る姿は、相反するものだな。だからこそ見応えがあるのかもな、パッフ

パッフ

御身の場合は、女性が話しているだけで満足するでしょうに――

メレン

私はこの鎌一本を生涯の武器としているのですのよ

メレン

シューさんはどんな武器をお持ちで?

シュー

シューですかぁ?

ソートク

そう言えば、シューが武器を使っているところは見たことが無いな……

パッフ

確かに……

シュー

基本、魔法で済ましちゃいますからねぇ

スフレ

常に杖は持っているみたいですけれど、それは武器ですの?

シュー

いえいえ〜、これはケインとか、スタッフと呼ばれる杖ですけど〜、あくまで雰囲気作りとかの意しか持ちませんよぉ

パッフ

ふ、雰囲気作りですか?

ソートク

なるほどな。魔法使いと杖は切っても切れぬ関係。
魔法使いを目指す魔法少女たちが杖を持っていることこそが正義だ。

パッフ

御身は少し黙っていてください

ゼリィ

まぁでも、雰囲気をつくるってのは、あながち間違いじゃねぇ

ゼリィ

魔法使いは、オレら以上に戦いにおける距離感、間合いを大切にしなきゃなんねぇ職業だからな。

ゼリィ

仮に剣でも持ってみろ。剣士と間違えられて一息に攻められたら、たまんねぇだろ?

シュー

そんなところですかねぇ

シュー

あとは、昔、魔法使いにパーティ仲間が苛立ちを覚えたからという話もありますぅ

シュー

「俺達が剣を持って戦ってるのに、何も持たずに何してんだ」って塩梅でぇ

ソートク

何をしている、とはな……。
魔法に助けられる場面も多いだろうに。

シュー

そんな諸々の事情でぇ〜杖を持ってるんですよぉ

ソートク

だが、基本的には魔法が武器といったところだな

パッフ

そうですね。シュー殿の魔法には助けられていますし

スフレ

早く見たいものですわ♪

ゼリィ

あとシューには強力な武器がもう一つあるぜ

スフレ

あら、なんですの?

ゼリィ

毒舌だぜ

シュー

要らぬ言葉は、己を害しますよぉ?

ゼリィ

いやまぁ、冗談だよ冗談……

ソートク

つ、杖から――

パッフ

漆黒の刃が……

メレン

私の鎌よりご立派ですのよ

スフレ

……

スフレ

シューさんは多彩な攻撃手段を持っていますのね♪

ゼリィ

そうじゃねぇだろ……

清々しいまでに眩しい日差しを浴びた帆船の上。

勇者一行の談義はまだ続く。

――……

40、 勇者一行の他愛のない船路 ―1―

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