―巨大帆船・甲板―
―巨大帆船・甲板―
視界にちらつく光がある。
無数の小さな輝きは、海から発せられ、見る者の瞼を閉ざそうとしている。
日差しを反射させているのである。
無数のガラスのように日光を写す大海の上、水を切りながら進む巨大な帆船があった。
『深緑の大地』から『凍青の大洋』へと向かっている巨大な船体の内、広々とした場所がある。
甲板だ。
木材を連ねた床に向かい合うように集まっている人影がある。
数は六人。立っている妖精族の女児や腰を下ろしている剣闘士などがいる。
その剣闘士が腕を組んで立っている集団唯一の若い男に話しかけた。
ソートク、オレたちは互いのことをよく知らない。
そこで自己紹介ってか武器紹介をしようと思う
武器紹介か……
こういう場所じゃないとゆっくり話せねぇだろ
まぁ、確かに急ごうにも船の速度が絶対だからな
まだ着きそうにないですからねぇ
各々方、有事の際に動きやすいように甲板にいることをどうかお忘れなく
気張ってますねぇ
……
どしたですのよ、スフレさん?
いえちょっと……
む?
どうしたスフレ嬢?
ねぇ、皆さん
どうせなら過去のお話とかどうですの?
過去……?
あー、そう言われてみたら皆さんの過去は知らないですのよ
ソートクさんの野望は聞いたのですけど……
勇者殿の野望を聞いて尚、一緒にいようとするのも凄いですが……
それは我が身にも言えなくはないですよね……
どうですの?
もっと親密になれると思いますわ♪
それにしても、過去ですか……
過去か……
過去ですかぁ……
では、早速ワタクシ達から
物心つく頃から、ワタクシとメレンは一緒でしたの
懐かしいですのよ
奴隷市場で売られて娼婦となるために――
だあ!
想像以上に重い思い!!
しかも無駄に長くなりそうなのは駄目だ!
あら?
潮騒と共に耳にする内容ではないですよ……
まあ、言われてみればそうですのよ。
過酷な話だとは理解しますが……
娼婦とはなんでしょうか……
美少女が背負ってきた壮絶な過去に関心が無いわけではないが――
それはまた別の機会にしよう
まあ、ソートクさんまで
まあまあ。
武器紹介で我慢してくれよ
戦いにおいてぇ、各々がどういう動きが出来るか〜。
それを把握することも大事ですよぉ
我々も人数が増えましたからね。
団体には団体の戦い方もあるでしょう
なるほどな
てかソートク。お前さんの武器って剣でいいのか?
そういえば、御身の武器は出会った時から同じですね
ああ、これか?
見たところぉ、魔物を斬った時に付いた残滓以外に魔力は感じませんねぇ
そうですわね。いかにも普通の剣といったところですの
手入れをすれば長持ちする。
ゴーレム種にも刃は届いたしな
刀匠の名も無いですのよ。いくらで買ったですのよ?
これは市販のものではない。貰い物だ
お?どこで手に入れたんだ?
ダンジョンですかぁ?
記念品の一つだ。勇者学校卒業記念のな
へえ、流石に上等なモン貰えるんだな
学費も高いからな。贈答品も奮発されている
あら、ソートクさんは勇者学校卒業してましたの?
それなのにハーレムを目指すってあまり聞きませんわね
ビックリですのよ。名門出ですのよ
だというのにハーレムを目指していことに驚きですのよ
人は見かけによりませんですわね
私が落ちた学校……
んじゃ結局ソートクの得意武器は剣ってことでいいのか?
かもな
オーソドックスですねぇ
んじゃお嬢。お前からで
あら、よろしいですの?
ワタクシの武器はこちらですわ♪
こちらの『首薙ぎ』ですの♪
ナイフ……短剣ですか?
ええ♪
あー、そんなだったな
しかし形状は面妖というか変わっていますね
幅広の刃に、湾曲した刀身――
一見するとぉ、儀礼用の短剣ですねぇ
無理もありませんわ。
これはワタクシの出身地でよく見られる短剣に形状を似させてますもの
『黄龍の沙漠』ですかぁ?
そうですのよ
スフレさんのはチョーパーと呼ばれる短刀ですのよ。
本物はもっと変わった形ですけど
斬れ味抜群ですの♪
これを逆手に持って戦うのですわ
短剣使いのくくりですね
もう一つ、『人裂き』というのもありますけれど、部屋に置きっぱですしまた今度お見せしますわ
期待しよう
……
どうしましたの?
あ、いや
お嬢って結局何の職業なんだ?
職業?
オレは剣闘士。まぁ、戦士とも呼ばれるが。
で、シューは魔法使いでパッフは騎士だろ?
元ですけれど
そうなると、お嬢は何なんだろうなってよ
勇者のパーティには肩書きめいた職業ってのがあんだろ?
一理ありますねぇ。
遠くの国の勇者のパーティではぁ、おてんばな姫が武闘家の役割をもっていたりしますねぇ
記憶喪失の家出少女が実は、伝説の大魔女の血筋だったり
さすらいの剣士が引換券だったりしますからねぇ
引換券?
まあ、それは置いといて、一般的な勇者のパーティでお嬢は何なのかってな
んーどうでしょう?
武器的には暗殺者とかがしっくりきますの♪
それであの殺気か……
あーでも、ウチらは殺人は犯していないですのよ?
ええ、疑っておりません
あと職業ですけど、その一般的な解釈で話されると困るのですのよ
――というと?
こう見えて私は魔法が全く使えないですのよ……。
あ、そうなのか?
妖精族にも色々いますからねぇ
そう言われてみれば、メレンは一般的な妖精と随分と違う容姿をしているな
広義的に言われている妖精族は、魔法妖精種を指すのですのよ
シューさんが契約している守護精霊と似た容姿を持っているものですのよ
ム……我ノコトカ?
妖精と言われれば、普通は人の手の平サイズと言われてるのですのよ
小さい体でも、内に秘めた魔力があれば生きていけるからですのよ
それに比べて、私のような戦闘妖精種は魔力を宿さず、人の子供くらいの大きさが平均的なサイズですのよ
ほー。
つまり、魔力以外のことに秀でているのか?
……
そこは、尋ねられると弱いところですのよ
一応、飛べたりはするんですけど……
でも、魔法が使えなくともメレンは優秀ですわ♪
まぁ、戦闘妖精種が、戦闘不向きでは名前負けもいいところですのよ
一応、私も戦闘要員として働けるのですのよ
んじゃあ、武器もあるのか?
もちろんですのよ
私の武器はこの鎌ですのよ
鎌ですか。イメージにそぐわないような……
一点集中の、刺突に秀でた武器ですねぇ
斧以上に玄人だな
これが一番活用しやすいですのよ
メレンの戦い方はワタクシと同じく、洗練された動きの中での暗殺術ですの
魔物専門の暗殺者が二人も揃ったというわけか
スフレさんと同じカテゴライズにされると、未熟すぎて恥ずかしいですのよ。
あら、でも相手の弱点を付くのは貴女の方がお上手ですわよ?
ワタクシは基本、首しか狙いませんから♪
あ、じゃあお嬢、デュラハンあたりに苦戦するタイプだろ?
そうですわっ
デュラハンは首落としたところでぇ、死にませんからねぇ
懐かしいですのよ。
何回も、果敢に首を落とそうとしているスフレさんは可愛かったですのよ
もうっ、メレンったら
……
内容がバイオレンスなのと、デュラハンというレベルが違い過ぎる敵の登場のせいで会話についていけません……
美少女が手に持つ武器を誇る姿は、相反するものだな。だからこそ見応えがあるのかもな、パッフ
御身の場合は、女性が話しているだけで満足するでしょうに――
私はこの鎌一本を生涯の武器としているのですのよ
シューさんはどんな武器をお持ちで?
シューですかぁ?
そう言えば、シューが武器を使っているところは見たことが無いな……
確かに……
基本、魔法で済ましちゃいますからねぇ
常に杖は持っているみたいですけれど、それは武器ですの?
いえいえ〜、これはケインとか、スタッフと呼ばれる杖ですけど〜、あくまで雰囲気作りとかの意しか持ちませんよぉ
ふ、雰囲気作りですか?
なるほどな。魔法使いと杖は切っても切れぬ関係。
魔法使いを目指す魔法少女たちが杖を持っていることこそが正義だ。
御身は少し黙っていてください
まぁでも、雰囲気をつくるってのは、あながち間違いじゃねぇ
魔法使いは、オレら以上に戦いにおける距離感、間合いを大切にしなきゃなんねぇ職業だからな。
仮に剣でも持ってみろ。剣士と間違えられて一息に攻められたら、たまんねぇだろ?
そんなところですかねぇ
あとは、昔、魔法使いにパーティ仲間が苛立ちを覚えたからという話もありますぅ
「俺達が剣を持って戦ってるのに、何も持たずに何してんだ」って塩梅でぇ
何をしている、とはな……。
魔法に助けられる場面も多いだろうに。
そんな諸々の事情でぇ〜杖を持ってるんですよぉ
だが、基本的には魔法が武器といったところだな
そうですね。シュー殿の魔法には助けられていますし
早く見たいものですわ♪
あとシューには強力な武器がもう一つあるぜ
あら、なんですの?
毒舌だぜ
要らぬ言葉は、己を害しますよぉ?
いやまぁ、冗談だよ冗談……
つ、杖から――
漆黒の刃が……
私の鎌よりご立派ですのよ
……
シューさんは多彩な攻撃手段を持っていますのね♪
そうじゃねぇだろ……
清々しいまでに眩しい日差しを浴びた帆船の上。
勇者一行の談義はまだ続く。
――……