―ポートビダの街・船着き場―

聖六角大陸『ヘキサポリス』。

その名の通り、六つの大陸が点在し、それぞれが向かい合いながら多角形を形成している。

六つの大陸が角であれば、辺は海だ。

だから、大陸間の移動には必然と船が必要になる。


『深緑の大地』は最南に位置している大陸であり、両隣に『甘橙の花園』と『凍青の大洋』がある。

両隣と言っても大陸間の移動は船を用いた長旅になる。

パッフ

海は昔から魔獣が凄む場所

パッフ

太古より、魔界に属せず、『ヘキサポリス』の海を縄張りとしていた魔獣の凶暴さは『深緑の大地』の魔物の比ではありません

パッフ

ゆめゆめ油断なされないように

メレン

およおよっ?
乗馬経験はあまりありませんが、意外と乗り心地がいいですのよ

スフレ

お上手ですわ、メレン♪

ゼリィ

乗れた!メレンも乗れたぜ!

ソートク

よっしゃああ!!

シュー

妖精族はぁ、子孫繁栄の手段が交配ではありませんからねぇ

パッフ

って、それこそが油断!

パッフ

集中してください!!

ゼリィ

油断?これは余裕と言うもんだ

パッフ

――!!

ゼリィ

そう睨むな。そう凄むな

ソートク

あまり気を張りすぎるなよ、倒れてしまうぞ?

パッフ

それはわかってますが……

ソートク

それに、優先すべきことがあることも把握している

パッフ

勇者殿……

ソートク

馬車内で寝る順番を見直す必要がある!

ソートク

今度こそ、美少女の誰ぞと寝るぞ!

パッフ

違うでしょう!!

スフレ

……

ゼリィ

おーいパッフ。オレ達が乗る船、もう中に入れるってよ

メレン

受付は申し込んだパッフさんがするそうですのよ

パッフ

あ、今行きます

パッフ

勇者殿も来て下さい。
御身の名前で登録してるので

ソートク

船員に美少女はいるだろうか……

パッフ

――

スフレ

……

シュー

運良く〜、一緒の船に乗れて良かったですねぇ

スフレ

ホントですわね。
メレンが当日券を買いましたのよ♪

スフレ

出来た子ですわ♪
メレンは

シュー

お二方は組まれてから長いんですかぁ?

スフレ

それはもう。
お互いを姉妹のように思ってますの

スフレ

戦闘ではワタクシが専門。
メレンは事務専門ですわ。

スフレ

もっとも、メレン自体も戦闘妖精種。
そこらのギルドには負けませんの♪

シュー

戦闘妖精種は珍しいですからねぇ

シューの守護精霊

珍シイ……!!

スフレ

守護精霊と契約している魔法使いが、『深緑の大地』にいることの方が珍しいですの

スフレ

『黄龍の沙漠』でしか見たことありませんのに

シュー

あららぁ、随分と過酷な地の出身ですのねぇ

スフレ

おかげで地力が養えましたわ

スフレ

話を戻しますと、その頃からメレンと一緒にいますの

シュー

揺るぎない信頼関係ですねぇ

スフレ

生死を託してますの♪

スフレ

そちらの皆さんも仲がよろしいようで

シュー

でも、パーティを組んで大した日数は立っていません〜

シュー

まぁ、ゼリィさんとは長いんですけどねぇ

シュー

二人で遊んでいたところにパッフさんが加わって、一週間ほどでソートクさんの仲間になったんですよぉ

スフレ

その割には、信頼してますわね

シュー

ソートクさんが、絶対の信頼を置いてくれてますからねぇ

スフレ

ワタクシ達が組んでいたあの勇者とは大違いですのね

シュー

ですねぇ

スフレ

……

スフレ

……ねえ、シューさん?

シュー

どうしましたぁ?

スフレ

先程ソートクさんが仰ってた『一緒に寝る』とは?

スフレ

ひょっとしてソートクさん、想像を絶するスケべさんですの?

シュー

どうなんでしょうねぇ……。
シューは言葉通りの意味として受け取ってますよぉ?

スフレ

ただの添い寝……ですこと?

シュー

ただの添い寝……ですよぉ?

スフレ

変な話ですわ

スフレ

ハーレムを謳っている方が、一晩横にいる女性に何もしない訳がありませんわ

シュー

どうでしょうね〜、シュー達は結局一緒に寝たことありませんからぁ

スフレ

シューさんも、ゼリィさんも、パッフさんも皆美しいではありませんの

スフレ

逆に手を出さないというのがおかしいですわ

スフレ

ワタクシ達の出身地では、考えられませんの

シュー

『黄龍の沙漠』では確かに考えられないですねぇ

スフレ

というか、一般男性であれば普通は下心が働くものですわ

シュー

ですかねぇ

スフレ

では、ワタクシ聞いてきますわ♪

スフレ

ソートクさん!

ソートク

どうしたスフレ嬢、もう皆乗込んでるぞ?

スフレ

ズバリ聞きますわ!

スフレ

ソートクさんはどういう目的でみんなと一緒に寝てますの!?

ソートク

……どういう目的だと?

スフレ

もちろん、女性とのまぐわいが目的ですのね?

ソートク

いや、添い寝以上の意味をもたん

スフレ

……

スフレ

というと?

ソートク

美少女の髪から香る、良き匂いに包まれ、美少女の折れそうな程に細い肢体と柔肌をこの手で触れながら感じる――

ソートク

無防備な寝顔、寝息というなの安らぎを持った尊い吐息

ソートク

美少女という絶対な存在は就寝時こそに訪れ、その時こそ、万感胸に迫るというものだ

ソートク

その為に俺は、美少女と寝たい

スフレ

……

スフレ

それなりに直球でお尋ねしますが――

スフレ

性行為に励もうとは……?

ソートク

未来永劫無いな

スフレ

なぜですの?

スフレ

ゼリィさんから聞きましたけど、ソートクさんは処女をハーレムの条件にしてますのよね?

ソートク

相違ない。

スフレ

処女が好きなのは、自分で奪いたいからではありませんの?

ソートク

……

スフレ

少なくともワタクシが知る男性とはそういうものでしたわ

ソートク

ま、一理あるな

スフレ

でしたら何故?

ソートク

俺はハーレムを作りたいだけだ。

ソートク

その条件の一つとして処女であるべきと言っているにすぎん

ソートク

美少女の条件の一つである処女を、俺が奪ってどうするというのだ

スフレ

はぁ……

ソートク

つまりだな

ソートク

俺が美少女から奪えるものは何もない

スフレ

……

スフレ

ホントに変わってますのね

スフレ

子孫繁栄とか考えていますの?

ソートク

さぁな

スフレ

ということは、ソートクさん童貞ですの?

ソートク

それで困ることがあるか?

スフレ

……

スフレ

つまり、童貞と処女の集まりということですわ、このパーティ

スフレ

ハーレムなんてものを目指しているのに

ソートク

どうした?

スフレ

いーえ何でもありませんわ♪

スフレ

さ、行きましょ?

ゼリィ

あー、何日位乗んなきゃなんなぇんだ?

シュー

天候にもよりますけど、二、三日ではないことは確かでしょうねぇ

パッフ

道中の魔獣だけには注意してくださいね

ゼリィ

へいへい

船員

お、強そうな連中だね。
何かあったらウチの船、よろしく頼むよ

ソートク

任されよ

ソートク

ときに、船員の美少女よ。
俺と共に――

パッフ

五人で満足しなさい!

ソートク

むむぅ……

スフレ

……

メレン

どしたのですのよ?
スフレさん

スフレ

ソートクさんという人間はよくわかりませんの

メレン

およ?

スフレ

でも――

スフレ

旅の仲間として、これほど楽しい人はいませんの。

スフレ

それで十分ですの。
それだけで、どこまでも付いていけそうな気がしますわ♪

メレン

……

メレン

そうですのよ

様々な想いを乗せて船は出る。

大海原は広く巨大で、危険が伴う。

時には嵐、時には魔獣。

しかし、船は退かない。

それらを真っ向から挑むように帆が張られる。

追い風を受けて船はゆっくりと、だが着実に突き進む。

水も波も、船の行方を遮ろうとするものはその勢いに負けて裂かれていく。

勇者一行を乗せた船は留まる事を知らないのだ。

ソートク

目指すは――

ソートク

『凍青の大洋』だ

――……

39、 スフレ ソートクという人間を知る

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