―ポートビダの街・船着き場―
―ポートビダの街・船着き場―
聖六角大陸『ヘキサポリス』。
その名の通り、六つの大陸が点在し、それぞれが向かい合いながら多角形を形成している。
六つの大陸が角であれば、辺は海だ。
だから、大陸間の移動には必然と船が必要になる。
『深緑の大地』は最南に位置している大陸であり、両隣に『甘橙の花園』と『凍青の大洋』がある。
両隣と言っても大陸間の移動は船を用いた長旅になる。
海は昔から魔獣が凄む場所
太古より、魔界に属せず、『ヘキサポリス』の海を縄張りとしていた魔獣の凶暴さは『深緑の大地』の魔物の比ではありません
ゆめゆめ油断なされないように
およおよっ?
乗馬経験はあまりありませんが、意外と乗り心地がいいですのよ
お上手ですわ、メレン♪
乗れた!メレンも乗れたぜ!
よっしゃああ!!
妖精族はぁ、子孫繁栄の手段が交配ではありませんからねぇ
って、それこそが油断!
集中してください!!
油断?これは余裕と言うもんだ
――!!
そう睨むな。そう凄むな
あまり気を張りすぎるなよ、倒れてしまうぞ?
それはわかってますが……
それに、優先すべきことがあることも把握している
勇者殿……
馬車内で寝る順番を見直す必要がある!
今度こそ、美少女の誰ぞと寝るぞ!
違うでしょう!!
……
おーいパッフ。オレ達が乗る船、もう中に入れるってよ
受付は申し込んだパッフさんがするそうですのよ
あ、今行きます
勇者殿も来て下さい。
御身の名前で登録してるので
船員に美少女はいるだろうか……
――
……
運良く〜、一緒の船に乗れて良かったですねぇ
ホントですわね。
メレンが当日券を買いましたのよ♪
出来た子ですわ♪
メレンは
お二方は組まれてから長いんですかぁ?
それはもう。
お互いを姉妹のように思ってますの
戦闘ではワタクシが専門。
メレンは事務専門ですわ。
もっとも、メレン自体も戦闘妖精種。
そこらのギルドには負けませんの♪
戦闘妖精種は珍しいですからねぇ
珍シイ……!!
守護精霊と契約している魔法使いが、『深緑の大地』にいることの方が珍しいですの
『黄龍の沙漠』でしか見たことありませんのに
あららぁ、随分と過酷な地の出身ですのねぇ
おかげで地力が養えましたわ
話を戻しますと、その頃からメレンと一緒にいますの
揺るぎない信頼関係ですねぇ
生死を託してますの♪
そちらの皆さんも仲がよろしいようで
でも、パーティを組んで大した日数は立っていません〜
まぁ、ゼリィさんとは長いんですけどねぇ
二人で遊んでいたところにパッフさんが加わって、一週間ほどでソートクさんの仲間になったんですよぉ
その割には、信頼してますわね
ソートクさんが、絶対の信頼を置いてくれてますからねぇ
ワタクシ達が組んでいたあの勇者とは大違いですのね
ですねぇ
……
……ねえ、シューさん?
どうしましたぁ?
先程ソートクさんが仰ってた『一緒に寝る』とは?
ひょっとしてソートクさん、想像を絶するスケべさんですの?
どうなんでしょうねぇ……。
シューは言葉通りの意味として受け取ってますよぉ?
ただの添い寝……ですこと?
ただの添い寝……ですよぉ?
変な話ですわ
ハーレムを謳っている方が、一晩横にいる女性に何もしない訳がありませんわ
どうでしょうね〜、シュー達は結局一緒に寝たことありませんからぁ
シューさんも、ゼリィさんも、パッフさんも皆美しいではありませんの
逆に手を出さないというのがおかしいですわ
ワタクシ達の出身地では、考えられませんの
『黄龍の沙漠』では確かに考えられないですねぇ
というか、一般男性であれば普通は下心が働くものですわ
ですかねぇ
では、ワタクシ聞いてきますわ♪
ソートクさん!
どうしたスフレ嬢、もう皆乗込んでるぞ?
ズバリ聞きますわ!
ソートクさんはどういう目的でみんなと一緒に寝てますの!?
……どういう目的だと?
もちろん、女性とのまぐわいが目的ですのね?
いや、添い寝以上の意味をもたん
……
というと?
美少女の髪から香る、良き匂いに包まれ、美少女の折れそうな程に細い肢体と柔肌をこの手で触れながら感じる――
無防備な寝顔、寝息というなの安らぎを持った尊い吐息
美少女という絶対な存在は就寝時こそに訪れ、その時こそ、万感胸に迫るというものだ
その為に俺は、美少女と寝たい
……
それなりに直球でお尋ねしますが――
性行為に励もうとは……?
未来永劫無いな
なぜですの?
ゼリィさんから聞きましたけど、ソートクさんは処女をハーレムの条件にしてますのよね?
相違ない。
処女が好きなのは、自分で奪いたいからではありませんの?
……
少なくともワタクシが知る男性とはそういうものでしたわ
ま、一理あるな
でしたら何故?
俺はハーレムを作りたいだけだ。
その条件の一つとして処女であるべきと言っているにすぎん
美少女の条件の一つである処女を、俺が奪ってどうするというのだ
はぁ……
つまりだな
俺が美少女から奪えるものは何もない
……
ホントに変わってますのね
子孫繁栄とか考えていますの?
さぁな
ということは、ソートクさん童貞ですの?
それで困ることがあるか?
……
つまり、童貞と処女の集まりということですわ、このパーティ
ハーレムなんてものを目指しているのに
どうした?
いーえ何でもありませんわ♪
さ、行きましょ?
あー、何日位乗んなきゃなんなぇんだ?
天候にもよりますけど、二、三日ではないことは確かでしょうねぇ
道中の魔獣だけには注意してくださいね
へいへい
お、強そうな連中だね。
何かあったらウチの船、よろしく頼むよ
任されよ
ときに、船員の美少女よ。
俺と共に――
五人で満足しなさい!
むむぅ……
……
どしたのですのよ?
スフレさん
ソートクさんという人間はよくわかりませんの
およ?
でも――
旅の仲間として、これほど楽しい人はいませんの。
それで十分ですの。
それだけで、どこまでも付いていけそうな気がしますわ♪
……
そうですのよ
様々な想いを乗せて船は出る。
大海原は広く巨大で、危険が伴う。
時には嵐、時には魔獣。
しかし、船は退かない。
それらを真っ向から挑むように帆が張られる。
追い風を受けて船はゆっくりと、だが着実に突き進む。
水も波も、船の行方を遮ろうとするものはその勢いに負けて裂かれていく。
勇者一行を乗せた船は留まる事を知らないのだ。
目指すは――
『凍青の大洋』だ
――……