なんで彼女が魔法か何かを使って戦っているんだ?
そもそもここ……何処なんだ?

辺りが見渡せるくらいだが暗く、野外の様だ。
だが上には無数の縄が吊るされている。しかも輪っかに結ばれて。
こんなの自殺する為にできたような世界。

魔法使い?

退いてどいてー!
ボサッとしてると当たるよ!

彼女じゃない声が聞こえてきた。
仲間なのだろう。彼女と同じ敵に攻撃している。

目の前にある光景が非現実すぎて。
……駄目だ、アタマが痛い。

頭を押さえる俺に、誰かの手が差し伸べられた。
マスク? 仮面? の様な物を付けており、素顔が見れない。だが猫耳らしき物がついている事は分かる。
仮面のデザインはあの、『不思議の国のアリス』に出てくるチェシャ猫を思い出させる。

猫?

大丈夫か? 行くぞ

手を掴もうとするが力が出ない。
すると相手は強引に俺の手を引っ張る。相手にかばって貰うようにして立った。
なんと相手は俺をお姫様抱っこ……ならぬ王子様抱っこしたのだ。

え、ちょ

気力が無いけれどこれは流石に抵抗した。すると軽くぴょんとひとっ飛びし、崖のような場所に降り立った。
さっきから夢を見ているのだろうか。ひとっ飛びで崖に……
相手は仮面を外し、素顔を見せた。
落ち着いた顔をしていて、でも何も考えていなさそうな顔でもある。クールで無口そうだ。

猫?

おい、お前

いや、この人結構イメージと違う。

猫?

あ、今イメージ違うって思ったか? 喋ってるのは俺だよ。仮面だよ仮面

仮面が……喋る?
仮面をよく見ると、きちんと口が動いて……

うわあああ! 仮面が喋ったああああ!

猫?

まあ落ち着けって

仮面が表情を変えて……喋ってる。でも目は無い。

何だろう……さっきから非日常的な事ばっかり起きる。早く夢から覚めてほしい。

トウロ

俺様はトウロだ。 俺を付けているのはチェシャ。 まあ詳しい事は後で説明してやっからちょっと待ってろい!

チェシャとトウロはまたぴょんと向こうの方に行ってしまった。
その方向を見ると……

……信じられないことにゴーレムがいた。
小さい頃ゲームでレベルを上げれば簡単に倒せたゴーレム。
だが戦闘員みたいな人がたくさんいて……かなり苦戦しているようだ。
その中には彼女もいて、でも岩に刃物は効かないようでなかなか苦戦しているみたいだ。

兵器?

みんな離れて! 目も!

声がした方向を向くと、一人の女の子がいつの間にか崖の落ちそうな位置にいた。
その子はなんと背中に沢山の兵器を抱えていたのだ。
後ろからだから何をしているか良くわからない。少しだけ近づいて見る。

兵器?

君も目ぇ瞑って! 潰れるよ!

とんでもない気迫だ。まるで女の子とは感じられないような……
言われるがままに目を瞑る。そして次の瞬間____

地響きと暗闇の中でもわかる眩しさ。

そのまま、意識が暗闇の中へと、いや光の中へと潜り込んで行ってしまった……

ガバッと起きた、其処は保健室のベッド。
すぐに辺りを見渡すと彼女がいた。。

……さっきまで戦っていた、彼女。

今までのは何だったんだ?
夢……なのか?

彼女

あ、目覚めたみたいだね。君、急に図書館で倒れたんだよ。 運んでくるの大変だったんだから

あ……あぁ! ごめんなさい! えっと

彼女

蒼でいいよ

蒼ってヒロインと同じ名前じゃあ……
でも本当の名前かもしれないしそう聞くのはやめておこう。

蒼さん、手を煩わせてしまってすいませんでした

お辞儀をした。きちんとベッドから降りて。

蒼さん

あと図書室に忘れ物してたからそこに置いといたよ

彼女が指差すそこを見ると原稿用紙があった。

……あれ? この人って俺の原稿用紙を読んでたよな。
で、ヒロインは私なの? って聞いてきて、俺は逃げちゃって……
その話の続きはしないのか?

蒼さん

じゃあそろそろ行くね

あの、ちょっと待って下さい

出て行こうとする彼女を引き止める。 少し嫌そうな顔をしつつも戻って来てくれた。

さっき……俺の原稿用紙読んでましたよね

彼女の顔が強張る。

それで質問された時俺……逃げちゃって、そのあとなんか変な世界に引きずり込まれちゃって、貴方と他に知らない人達が戦ってたんです。 最終的に俺は気を失ってこの通りなんですけど

大丈夫だよな?
もしこれが全部夢だったら彼女に引かれる。
そういう覚悟で話した。
すると彼女は口に手を当て、信じられないというような顔で見つめてきた。

蒼さん

嘘……どうして貴方が

蒼さん

嘘でしょ……

急に声が弱弱しくなっていく。
どうしたのだろうか。

蒼さん

ついてきて

蒼さんは俺の手を強引に引っ張って保健室を出て行った。

鞄忘れてるよぉ

保険委員がそう言うのも無視して。真剣な表情で。

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