遅いなあ……不動産屋。
内覧の約束、16時だったよなあ。

暗くなっちまう前に部屋ん中見たかったのに……ってあれ? 鍵開いてる?

――へえ、いいじゃん、この部屋!
新築じゃないけどそこまで古くもないし、
日当たりも悪くないじゃんか。
なのになんで――

お気に召されましたか?

うわあっ! び、びっくりした!
……なんだ不動産屋の人か、
いきなり後ろから声かけないでくださいよ!

これは申し訳ありません。
熱心にご覧になられていたようなので、
声を掛けそびれてしまいまして。

それで、いかがでしょうか?
駅からもそう遠くなく、私としてもかなり
お勧めの物件なのですが……

あ、そうなんすよ。
ここ、近くにスーパーも多いし、そのくせ家賃めっちゃ安いし、

――安すぎ、なんですよね。
ありえないでしょ、この条件でこの値段。
なんで、ですか?
もしかして、やっぱりその……

――事故物件では、と?

そう、それ。
こないだおたくの店でここの資料見せて
もらった時にも聞いたんですけど、
本当に違うんですか?

ええ。基本的に事故物件とは、
建物内での自殺や他殺、事故死など、
人の死亡に関わる事件があった場合を
指します。
このアパートでは、そういったことは
これまで一度も起きておりません。

このアパート「では」、ですが。

え、ちょっ、どういうことですか?

こちらの部屋で、

幽霊を見るという方が
多数いらっしゃいまして……

ええー……マジか……!

このアパートは新築当初から人気が高く、
次々に部屋の契約が決まっていったの
ですが、何故かこの部屋だけ、なかなか人が
入りませんでした。

このアパートの契約仲介の担当者も、
この部屋を埋めようと必死でしたが、
決まったと思いきやすぐにキャンセル。

上司や、ひいては大家からも厳しく
叱られ、その担当者もだんだんと
追い詰められていきました。

ある日、もはや何度目か分からなくなった
キャンセルの電話を受けたその担当者は、
電話を切った後、

そのまま会社の屋上に駆け上がり、
そこから飛び降りました。

げー……

ところが亡くなった後も、彼は部屋が
埋まらないことが心残りなのか、
たびたびこの部屋に現れるというのです。

この部屋に新たな住人をどうにか迎えようと
訪れる人間に笑顔で尋ねるのです。

お気に召されましたか?――と

ねえ、お客様

お気に召されましたか?

お気に召されましたか?

お気に召されましたか?

お、おい、冗談だろ、やめ――

お気に召されましたか?

お気に召されましたか?

お気に召されましたか?

   お気に召されましたか? 

ああ、お客様申し訳ありませんでした!
内覧のお約束は16時でしたのに、
遅れてしまって――って、あ、れ……?

誰も……いない?

お客様に電話、電話……
――出ないわねえ。
きっと、帰られたのよね、うん。
しかし、この部屋、なんでこんなに人が
入らないのかしらねえ……

ああやだ、また鍵開いてる……
ここどうして勝手に開いちゃうのかしら。

えーっと鍵、鍵……

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