―ポートビダの街―
―ポートビダの街―
急げ! 連合軍が遅れることはあってはならん!
西街区に向けて、騎馬が殺到する。
ベンハのコロッセオに魔物の集団が現れたのだ。
国軍を持たないポートビダの街を走る騎手は連合軍だ。
皆一様に連合軍を象徴する獅子の紋章を掲げている。
鈍色に身を包んだ騎兵たちが騎槍を天高くつき上げた状態で駆けてゆく。
ポートビダの街道を突き進むのは何も連合軍の騎兵だけではない。
魔物だぁ!儲けるぜ!!
ギルドの連中だ。
ギルドとは、傭兵部隊同士が作り上げた互助組合である。
国軍にも、連合軍にも属さず、己の武力を金にすることを目的としている。
ギルドにとっては魔物の討伐も、人命救助も商いだ。
だから、彼らも馬を走らせ、馬蹄を響かせる。
馬を持たないものもいる。
彼らは馬では走れないような細道を通って進む。
商店のテントや、連なる家屋の天井といった道なき道を跳ぶように進んで行く。
そんな徒歩のギルドに続くようにして、一人の騎士然としたの姿があった。
金の髪を揺らしながら、前傾姿勢で風を切って進みながら申し訳無さそうにしていた。
出来れば、大通りを……
ととっ、テントは出来る限り踏まないようにしないと……
へっ、そんなこと気にしてんのかよ!変な奴だぜ!
まあまあ、いいではないですか
しかし、騎士さんはどこの軍所属ですのよ?
いえ、私は元騎士でして。
およ?
そうだったのですのよ?
ええ
そういう御身は……妖精族ですか?
そうですのよ。
妖精族 戦闘妖精種になるですのよ
名前はメレンと言うのですのよ
我が身はパッフと申します。
よろしくお願いします
おい妖精!!
無駄口叩いてないで『俊足』か『韋駄天』使えよ!!
あのー、私魔法使えないの知ってますよね?
無理ですのよ
ちっ、使えない奴だ!
さっさと行かねぇと、ユニコーンが他の奴らに取られちまう!
いやいや、こちらは徒歩ですから無理があるでしょに
それに、ユニコーンは出来る限り保護した方が……
うるせぇ!
俺の評価の方が大事だ!!
なら、こうするまでよ!
え?なんだあんたっ、降りろよ!
お前がな!
うわっー!?
へへっ、勇者様だからよ!文句はねぇだろ!
あ、ちょっと!
四十倍の報酬は頂くぜ!
……
ゴメンナサイですのよ。
お見苦しかったのですよ……。
いえ……
まぁ、勇者だからある程度は許されるんでしょうけど……
今のは問題外ですのよ!!
まったく、ウチの勇者には困ったものですのよ
勇者には様々な人がいると聞いていますが……
アレは論外ですのよ……
アレ呼ばわり……。
御身は仲間ではないのですか?
仲間ですのよ。
まぁ、愛想はだいぶ昔に尽きてますけど
余計な詮索を承知で聞きますが、何故まだパーティを組んでいるんですか?
至極単純ですのよ。
お金がたっぷり貰えるからですのよ
私たち――。
あっ、もう一人いるんですけど、お金が凄い好きなんですのよ
私たちは、楽しいことが大好きですのよ。
今のところ、豪遊、散財に勝てるほどの楽しいことが無いのですのよ
はぁ……
アレは勇者というか、人として駄目なタイプですが、金運だけは持っているんですのよ
そういうアナタは、どこ所属ですのよ?
ギルドには見えないですのよ?
かくいう、私も勇者の仲間でして……
およっ?
珍しいですね
私たち以外にも『深緑の大地』を拠点としている勇者がいたとは
いえ、我らの勇者は『深緑の大地』出身で、駆け出しなんですよ
およおよっ?
と言うことはひょとして、勇者へんさち50代に突入した期待のルーキー勇者ですのよ?
ええ、おそらく
あの勇者殿、そこまで評価が高かったとは……
なんと――
いやぁ、まずッたですのよ。
スフレ嬢、その勇者サマ殺しに行っちゃったですのよ……
駆け出しの――って言ってたから仲間もいないものと思っていましたが……
仲間のいる勇者を殺すと、あとで報復とか怖いですのよ……
どうしました?
およっ!?
何でもないですのよっ
まあ、スフレ嬢は、私以上に楽しいこと至上主義ですから、殺してないと良いですのよ……
殺してないといいのですのよ
―ベンハのコロッセオ―
あっはっはっは!
殺して差し上げますの♪
いけぇ!!
押せぇ!!
あら、連合軍ですの?
もう、独り占めできると思ったのに……
あちらの二人も、なんだか呆けてしまって見てても楽しくありませんの
ソートク……お前なんて言ったんだ?
聞えるように言ったはずだ。
が、もう一度言おう――。
俺のパーティから外れないか?
何のお話をされているんでしょう?
あっ……
そう言えば、あちらの男性、勇者だと言ってましたわ
ワタクシのグズな勇者から、「勇者を見つけ次第殺せ」と言われていましたけど……
あの男性は、殺すに忍びないですわ……
あ、でも結構な額貰えるのですけれど……
なんだぁ?
ギルド連中以外誰もいないじゃないか。
折角、俺達の凄さを見せつけるチャンスだったのに!!
ワタクシはギルドではないのですけれど……
!?
誰もいない……
いーこと思いつきましたの♪
……
どうしたヴァルキリー?
いくらお前でも、動かずして敵を屠る手段は持っていまい。
パーティから外れて欲しいとは言ったが、憎んでいるわけでは無い。
お前を失いたくない気持ちに変わりはないぞ?
な、ならなんでオレに離脱を勧める!?
オレじゃ実力が不足しているからか?
どうして自分の百倍は強い剣闘士を手放す必要がある?
理由は別だ
確かに……。
お前さんなら、実力の差でパーティを決めることはしない……
ってことは……
自ずとわかるだろう……
やっぱオレが美少女じゃねぇからか……
は?
いや、そうじゃねぇかと思ってたんだよな。
オレってガサツで野蛮だし、ともかく品がねぇ。
一人称「オレ」っていう女、オレしか知らねぇ……
ヴァルキリー……?
身体も、筋肉が付いちまってるし、しおらしさの欠片もねぇ。胸だけでっかくなりやがった。
使ってる武器も斧だしよ。見るからにパワーファイターだ。全方位から見てもかませキャラにしか見えねぇよな……
ヴァルキリー……違うぞ
パッフやシューは、れっきとした美少女だ。
だがオレは、筋骨隆々のパワー全フリ女……。
お前さんの旅や野望に、オレが入れる余地なんてねぇ……
違うぞ、ヴァルキリー!!
お前は美しい!!
!?
俺は、お前のその胸を始め、その体すべてを愛せる。
俺は、お前が自分のことを「オレ」と呼ぶのも愛せる。
俺は、お前が斧を振り回すパワーファイターであることを愛せる。
な……
胸を張れ!
お前は美しい!!
なら……
なら――
なんで、オレをパーティから外す!?
わからないか
それはお前が――
非処女だからだ!!
……
はあっ?
――……