第10話「白鳥瑠璃、Lv17です……」
第10話「白鳥瑠璃、Lv17です……」
みんなの先輩であり、初期メンバーのひとり。
猫宮美也さんこと、佐藤妙子さんが餌になった。
そう告げると、一同は騒然とする。
な、なんてこと……
特に、はなびさんが、
一番ショックを受けているみたい。
まつりお姉さんがいなくなって、落ち込んでいて。
そのはなびさんを支えていたのが、美也さんだった。
普段は憎まれ口を叩きあっていたけど。
あれはきっと、
はなびさんなりの甘え方だったんだろう。
ひどい、ひどいよ、こんなの……
ボロボロと涙を流すはなびさん。
LIVEの打ち上げはすぐに、
美也さんを悼む会になった。
その中で、はなびさんがわたしを睨む。
あんた、見ていたんだったら、
なんでとめなかったのよ!
ええええええっ
そ、そんな無茶なあ。
なにかやりようがあったでしょ、なにか!
なんでそれを思いついてくれなかったの!
やめなさい、はなびさん
つらいのはみんな一緒よ
いつも冷静なあんたが羨ましいわよ、矢中!
三春さんはワインを一口含む。
そして、喉を鳴らして、つぶやいた。
美也はバニラレアだった
いつかこうなる日が来るってことは、
お互い想像していたわ
だからって!
……
『バニラ』というのは、
特殊能力を持っていないカードのことです。
アイスクリームのシンプルなバニラ味になぞらえて、
名づけられたものです。
確かに美也さんはスキルがなかった。
だから、瑠璃ちゃんと入れ替えになったんだろう。
その瑠璃ちゃんは、
先ほどから沈鬱そうな顔をしている。
……私が、私が……
私のせいで……私の、私の……
見ていてつらい。
美也さんはみんなに愛されていた。
古参メンバーも新規メンバーも、
分け隔てなく美也さんのことが好きだった。
はなびさんのお姉さん、
まつりさんがそうではなかったとは言わないけど、
……でも、あのときよりもずっと空気が重い。
少し外すわ
あっ、三春さん……
三春さんは立ち上がり、部屋を出た。
その後ろ姿を見て、
はなびさんは奥歯を噛み締める。
なんなのよ、なんなのよ……!
どいつもこいつも……!
――愛子!
ひゃい!
美也さんが餌になったことも悲しいけど、
でもはなびさんの剣幕も怖い!
次はあたしとか、
あんたの番かもしれないのよ!
そ、そうですねー
危機感が足りないのよ、危機感が!
あんたまさか、
自分が絶対に餌にならないだなんて、
思っているんじゃないでしょうね!
ええー……?
どうだろう。でも、実感がないのは確かだ。
はなびさんは瑠璃ちゃんを指差す。
いい? こいつは新排出なのよ
それがどういう意味かわかる?
えっとお……?
これからバンバン、高性能なアイドルが出回ってくるっていうことなのよ!
だったらあたしたちみたいな古いアイドルは、駆逐されちゃうかもしれないのよ!
その叫びに、辺りがぴたっと静まり返った。
はなびさんは泣きながら叫ぶ。
新しいスキル!
新しい絵柄!
新しいキャラ!
プロデューサーが飽きないように、
次から次へと出てくるわ!
そんな中で、どうやって絶望せずに、
勝ち残っていけっていうのよ!
はなびさん……
いつもハツラツとした微笑みを浮かべていた、
美也さんは、ここにはいない。
辛い時間が流れていた。
私が、私なんかが、来たから……
瑠璃ちゃんが小刻みに震えながら、つぶやく。
それは違うよ、と否定することは簡単だったけど。
わたしはなにも言い出せなかった。
泣きじゃくる瑠璃ちゃん可愛い……。
とかそんなことをちょっぴりだけ考えていた最中だ。
みんな、聞いて
三春さんが戻ってきた。
なによ、矢中
手紙があるわ
なんなのよ!
美也からの手紙よ
……え
みんなは目を丸くした。
三春さんは告げる。
この日のために受け取っておいたの
美也からの手紙よ
そして、三春さんは、
――美也さんからのお手紙を、読みだした。
みんな、元気にしているにゃー?
ウチにもしものことがあったときのために、
お手紙を三春っちに預けておくにゃ
不真面目でもいいけれど、
のんびりと聞いてくれると嬉しいにゃ
ウチから言いたいことは、
いつもとおんなじにゃー
餌になっちゃうかどうかなんて、
気にしないで、
毎日を楽しく生きてほしいにゃ
せっかくのアイドルになれたんだから、
涙を見せちゃダメにゃ
前を向いて、
今できることを精いっぱいしていれば、
餌になっても悲しくないにゃ!
『引退』するときも笑顔でいられるように、
がんばるにゃ!
ウチはアイドルになれて、
とってもとっても楽しかったから、だから、
笑顔で言うのにゃ!
まったねー!
ぱたり、と。
三春さんは手紙を閉じた。
以上よ
みんなは悲しい顔をしていた。
だけれど、もう誰も怒ってはいない。
美也さんとの別れを悼んでいた。
アイドル……
美也さんはいなくなってしまったけれど。
でもきっと、
わたしたちの胸の中で、
生きていてくれるんだ。
それが合成ってことなんだ。
わたしはいつの間にか、
涙を流していました。
美也さんの最後の言葉を、
いつまでも胸にしまっておこうと。
きっと他のみんなも、
そうだったんだと思います。
……あいつ、最後まで
さ、明日からまた新しい一日が始まるわ
あんたが仕切らないでよ、矢中
はなびさんも涙を拭いて、立ち上がった。
……うん、そうね
明日のことなんて考えていても、
仕方ないもんね
三春さんはパンパンと手を打った。
夜更かしはだめよ
早く寝て、レッスンに備えましょう
こんな日でも、三春さんはかっこいい。
と、去り際に呼び止められた。
愛子さん、きょうからあなたの部屋に、
瑠璃さんを泊めてもらっていいかしら
えっ
瑠璃さんをひとりにしておくのは、
今は心配だから
落ち着くまで、お願い
……
瑠璃さんはひとり責任を感じているようだった。
じゃあわたしは
三春さんと一緒に……?
じっと見つめるけど、三春さんは首を振りました。
あなたはしばらく、
美也のところに泊まってね
あ、はい
そんな感じになりました。
えーと
お部屋をノックすると、
ひとりの女の子が出てきました。
あ、待ってたよ、愛ちゃん
きょうからよろしくね
はい、きょうから少しの間ですが
頭を下げる。
ぴーすぴーす、
美也はいなくなったけど、
ミントはへっちゃらだから
楽しくやろうね
チーム『ラブリーえんじぇる』のひとり
レアの先輩――。
――宮古ミントさんです。
はい、ふつつかものですが!
ミミタンって呼んでもいいですか?
え?
はい
白鳥瑠璃(R)
Lv 17 / 30
親愛度 2 / 100
特技:全力マーチ
効果:全体の攻撃力を5%up
鹿児島県生まれの新人アイドル。
元気いっぱいの体育会系娘。
運動神経抜群の、努力家である。
取得個性:マヂ闇