エゴだったんだろう。
僕は彼女を愛する、“愛さなくてはならない役なんだ”と勝手に思い込んで、そしてそれを存在理由にしていた。
誰にも頼まれていないのに、彼女にすら頼まれてもいないのに。
僕が彼女を幸せにしなければ誰も幸せになんて出来ない、…………そう。
世界の創造主なんかじゃない。
ただのエゴイストだった。
エゴだったんだろう。
僕は彼女を愛する、“愛さなくてはならない役なんだ”と勝手に思い込んで、そしてそれを存在理由にしていた。
誰にも頼まれていないのに、彼女にすら頼まれてもいないのに。
僕が彼女を幸せにしなければ誰も幸せになんて出来ない、…………そう。
世界の創造主なんかじゃない。
ただのエゴイストだった。
…………、な、んで……
窓からは朝日が差し込み、鳥のさえずりが聞こえる。
夜更かししていたせいで寝足りない頭と体を無理矢理起こす目覚まし時計を消して、心拍数が上がるのを押さえながら足をベッドから下ろした。
暑くもないのに汗をびっしょりかいているのは、悪夢を見たからではない。
何だ……何で…………そういう役から下ろされて、モブの1人に下ろされたならまだわかる。……でも
震える手で、頭を押さえたが、特に痛みなどは感じない。
全部、覚えてる……?
それだけではない。
この世界においての柊との関係が頭の中に既に入っている。
今回は僕が普通のクラスメートで、柊が転校生。
1週間前に転校してきた彼女は僕の隣の席。
何で……?
もしかして、今まで“創者(そうしゃ)”になった人間には継続して記憶が……? いや、でも“創者”から外れればもう僕の存在は……
今までそのポストから離れなかった僕が、その後の事や例外なんかを知るはずもない。
混乱して、胸焼けが酷くなってきた。
と、とにかく……学校に……
だが、学校につくと“創者”に選ばれたはずのあのエースがいなかった。
空閑くん……どうしたの? 屋上の鍵、よく開けたね
あぁ……うん。急に呼び出してゴメン
ううん。それで? 用事って……
放課後の屋上。まだ日は高く、空は明るい。
夕暮れまでまだ時間がある。
僕は柊を屋上へと呼び出した。
初めは当然の言葉に戸惑っていた柊だったけど、今こうして彼女はここに現れた。
やっぱり、こういうところが……彼女は優しすぎる。
なんか、告白でもされそうなシチュエーションだよね
……
屋上だよ? 普通、屋上って漫画の世界でしか登れないじゃない? 鍵かかっちゃってるし
滅多に出られない学校の屋上にはしゃぐ柊は手摺から校庭を見下ろして、ランニングしている陸上部員達を眺めていた。
やっぱり。彼女は何も知らないんだろう……。
でも、
空閑くん?
えっ……?
話、何かあるんだよね? 人に聞かれたくない……話?
…………そう、だよ
答えると、僕が次に口を開くまで柊は大人しく待ってくれていた。
やっぱり、彼女は知らないんだ。
自分が破壊者であることも、
自分のもっとも必要とする人が創者であることも、
……そして。
どの世界でも、僕を一番想っていてくれた事も。
世界はループしているんだ
……、?
唐突に切り出した言葉に彼女は首を傾げる。当たり前の反応だった。
パラレルか、別世界か……それとももしかしたら実は全部同じで、一瞬の積み重ねからこの世界は出来ているのかもしれない
……世界?
そう。色んな世界があって、誰しもが毎回毎回生きていられるって訳でもない。……ゲームじゃないから
……空閑くん、一体何の……
でも、唯一この世界に必ず存在する人間がいるんだ。それが柊、君だよ
……私? でも、何で私が……
そして必ず君の対になる人間もいる。……けど、今はその話じゃないんだ
……く、空閑くん?
彼女の声音に微かな震えが混じり始めた。
僕はゆっくり、彼女へと手を伸ばす。
ループを止める方法はある。そうすれば、必ず存在する君が、今まで何度も味わってきた絶望から……抜け出す事が出来るんだ
空閑くん、何の話? 絶望って……何に……
こんな事をしたって、彼女は幸せにならないだろう。
それでも、
彼女は破壊者でなくなるなら……。
君がここで世界を壊す前に死ねば、君はもう泣かなくて済む
細く白い首に手をかける。
大丈夫。彼女が憎いんじゃない。
僕はいつだって、君が望むのなら甦り、君の為にと命を捧げてきた。
大丈夫。
君をもう泣かせたりしない。
これは、僕のエゴだ。