世界を壊すのは彼女。
じゃあ創るのは……?
世界を壊すのは彼女。
じゃあ創るのは……?
もう誰しもがわかっていることだろうけど……そう。
一度消し去った世界を再構築させているのは、この僕だ。
と、言いたいところなんだけども……。
もしかしたら“次回”は僕じゃないかもしれない。
僕がまたこの世界を終わらせるために死のうと思っていた日から、柊とエースくんが付き合いだした日から……。
早くも一ヶ月が経っていた。
時間の流れは早く、一瞬だと思っていたけどそれはとんだ思い違いで。
早くもというのは客観的。僕にとっては毎日が地獄に思えた。
彼女が隣にいないだとか、彼女ともう話すことはおろか……会うことすら無くなったことだとか。
それは地獄だとは言えない。彼女は何も悪くないんだから。
僕はただただひたすら、あの日の事を悔いていた。
どうして僕は、あの時柊を引き留められなかったんだ……何で……
自分の不甲斐なさと救いようの無さに何度頭を痛めても、状況は良くも悪くもならなかった。
停滞。平坦。平行線。
それでももう一度“やり直す”勇気が……僕にはなかった。
世界をやり直す事には何のためらいも無かったのに……たった一言、彼女に想いをぶつける事がこんなにも難しいだなんて……。
もうお役御免なんだし……本当はもっと、いつこの世界が崩壊するかとか……そっちの心配をするべきなんだろうな……
うつ向きながら通学バスに揺られていると、知った顔がチラチラとこちらを見ているのに気付いた。
あ……
同じバスなんだね
サッカー部のエースのアイツだった。
彼が悪い人間ではない事は何度も見てきて知ってはいるものの、また同時に悪気がない性格をしている。
はっきり言って、最悪のタイミングで出くわした。
今日は柊と一緒じゃないの?
あぁ、今日は寄り道するって……他の女子と一緒にね
ふうん……そっか……
……ホントはさ、
?
柊、最近やっと……笑ってくれるようになってさ
…………
前までは何つーか、ぎこちないというか……
……知ってるよ
前まではあの下手くそな笑顔しか出来なかった柊が。
最近はとても幸せそうに笑う事が増えてきた。
言われなくたって知ってる。
知ってるさ。
だって僕は……。
ずっと、柊は空閑と付き合ってんだと思ってた
何で?
だって、いつも一緒にいるし。妙にこう……入り込めない雰囲気があったというか
そう見えてたんならちょっと嬉しいな……
だから、柊がやっと自然に笑うようになって。……ちょっと俺、嬉しかった
…………
……あ、って! い、今の空閑に話すことじゃ……
もう遅いよ
す、すまん!
彼はいい奴だ。
どの世界で会っても、必ずいい奴だった。
彼を悪い奴だと思ってしまうのは、僕が悪い。
彼女の為だと思って、自分で納得して押し出したはずだったのに……。
勝手に嫉妬するのは、僕の勝手な都合だ。
僕はずっと彼女の隣にいたかった。ずっと一緒にいて、支えて、……僕は彼女を愛していた。
だから僕がその位置に居続けられるのなら何度でもこの身を捧げられたんだ。
自殺であろうと他殺であろうと、事故死であろうと。彼女が泣いてくれれば僕は何度だって君のもとへ戻れた。
ん?
? どうかした?
いや、今さ。何か……このバス変に揺れ……
この世界を創る力は彼女にはない。
この世界を創っていたのは、僕の力だった。
今までは。
ふらついたバスは反対斜線から走ってきた大型トラックと正面衝突し、更に横転。
そして工事現場の塀とトラックとに挟まれ引き摺られ、大破した。
死者16名。
重体2名、搬送後死亡。
その日の夜、バス事故のニュースが流れた午後6時。
空には暗雲が立ち込み、日光が完全に遮断され、俗に言う“氷河期”を迎えてしまい、世界は終わった。
では答え合わせをしよう。
この世界を創る力は、彼女……
柊ユウに、涙を流してもらった者だけだ。