―ポートビダの街―

磯の香りを運ぶ潮風が勇者一行を迎えた。

耳に入ってくるのは喧騒。商人の声だ。

文字通り叩き売りをしている商人の声がひっきりなしに聞こえてくる。

しかし喧噪の中、耳をすませばさざ波のゆったりとした音も混じっている。

そんな港町に、ソートク一行は辿り着いた。

ソートク

広いな、この港街は

ポートビダの街は『深緑の大地』の中でも有数の港町である。


大陸間の海を渡る船が集う街は、自然と人通りが多くなり、街を発展させていく。

発展した街は新しく人を呼び寄せ、そしてまた発展していく。

こうして、ポートビダの街は巨大な港町として、『深緑の大地』を代表する名所になった。


交易が盛んなこともあり、商人の数も多く、街に開かれてる店は、武器屋だけでも優に百を超し、行商人を含めれば、商売できる場は万を超すとも言われている。

ソートク

さて……馬屋を探さねばな

ゼリィ

だわな

パッフ

結局見つかりませんでしたものね……

パッフ

タニリタ国王には申し訳が立ちません……

シュー

でもぉ、あの馬が勝手に逃げてしまうのが悪いのではぁ〜

パッフ

あの時、馬の見張りはゼリィ殿でしたよね?

ゼリィ

そうだけどよ……

ゼリィ

「あーなんか縄ちぎったなぁ」

ゼリィ

って思ったら一直線に逃げるし、追いかけんのもだるかったなぁって

パッフ

止めて下さいよ!!

ゼリィ

まぁまぁ、ここまで馬車引っ張ってきたんだからいいじゃねぇか

ソートク

しかも片手で……

シュー

とりあえずぅ〜、シューは『口笛石』とぉ『木馬の商人』の情報を集めますねぇ

パッフ

では私は宿の手配を

パッフ

ついでに船の運航状況も確かめておきましょう

ソートク

では、俺とヴァルキリーで馬屋を探すか

ゼリィ

うし。
日没前ぐらいにここで待ち合わせということで

ソートク

よし。
では散開!!











―ポートビダ・西街区―

行商人

さぁらっしゃい!!
新鮮な魚は脂のノリが段違いだよ!!

武器屋主人

寄ってきなよ、戦士諸君!!
最新鋭の弩が入荷したよ!!

ソートク

……

ゼリィ

どうした、ソートク?

ソートク

活気のいい街並みだと思ってな

ゼリィ

そりゃあそうだ。
なんたってこの街は『深緑の大地』と他大陸を結ぶ窓口だからな

ゼリィ

貿易の一大拠点として栄華を極めているし、複数のギルドや連合軍の活動の足場となっているんだぜ

ゼリィ

『深緑の大地』でもっとも繁栄しているところじゃねぇかな

ソートク

なるほどな

ゼリィ

さらには、この街はどっかの領土に属しているわけでもねぇんだ

ソートク

そうなのか?

ゼリィ

貿易を開拓した商人が領主でね。
商人上がりだからか知らねぇが、高い税金で土地を貸してるんだが、国と違って規則は緩い。

ゼリィ

治安はギルドや連合軍が結託して守ってる。
『深緑の大地』にしてはちーっとアウトローだがな、それがなかなかどうして、住みやすいんだなコレが

ゼリィ

住むのも、商売するのも、ギルドと連合軍を結ぶのも全てが金で解決される街さ。
単純明快でオレは住みよい

ソートク

それもまた、人のあり方なのかもしれんな

ゼリィ

どちらかっつーと品を求めるパッフなんかは余り好きではないだろうなこの街は

ソートク

だが、まだ街並みは普通だが……?

ゼリィ

ああ。
まだ普通な活気ある商店街って感じだろ?

ゼリィ

それが、三つ四つ曲がり角を曲がれば貧民街に辿り着くから不思議なもんだ

馬屋

おおと、そこのお二人さん!!
徒歩で旅してるんだったら、ウチの馬は必需品だよ!!

ゼリィ

ワリぃなおっちゃん。
オレたちこれから『ベンハのコロッセオ』に行くんだ

ソートク

何?

馬屋

なんだよ、馬は馬でもそっちの馬か……

ゼリィ

そう言うわけだ。んじゃな!

ソートク

ヴァルキリー、馬屋に行くのではないのか?

ゼリィ

もちろん馬は購入するぜ?

ゼリィ

でもよ、それだけじゃあつまんえねぇだろ?

ゼリィ

折角、この街に来たんだ。
ちょっとは付き合ってもらうぜ!!















―ベンハのコロッセオ―

ゼリィ

付いたぜ?

ソートク

ここは……?

ゼリィ

地理的に言えば西街区の最果てで――

ゼリィ

建物的に言えば『ベンハのコロッセオ』だ!!

ソートク

『ベンハのコロッセオ』?

ゼリィ

さっき、この街はアウトローな面もあるって言ったろ?

ゼリィ

ここがそれを象徴している場所さ。

ソートク

コロッセオ内部から歓声が聞こえてくるな……

ゼリィ

そうとも!
ここはアウトローたちの憩いの場。
血肉を騒がせ、人の本能の赴く地。

ゼリィ

ここは人が自らが抱える欲に支配される場所。
かといって己の欲を御しようとした者も身を滅ぼす。
つまりは運だけが物を言う――

ゼリィ

ギャンブル場だ!

ソートク

ギャンブル場。この建物。この歓声。

ソートク

そして馬……

ソートク

ひょっとして……

ゼリィ

ああ。
『ベンハのコロッセオ』は――

ゼリィ

競馬場だぜ!!
















―ベンハのコロッセオ・入口―

ゼリィ

賭け方はシンプルだ。どの馬券を買うか決めた後、一着になる競走馬を当てればいい。
馬券によっては一着から三着までを予想するものある。

ソートク

ヴァルキリー、説明しているところ悪いが、俺は参加しないぞ?

ソートク

それに、ここで馬が手に入るわけでもあるまい?

ゼリィ

まあな

ソートク

あくまで娯楽のために来たというのか?
ヴァルキリーよ

ゼリィ

堅っ苦しいこと言うなよ〜

ソートク

別に、止めるつもりはないがほどほどにしておくように

ゼリィ

へぇへぇわかってますよ。
ただな、ソートク……

ゼリィ

あれ見てみな

ソートク

あれ?

……

ゼリィ

金勘定している商人じゃ、絶対捕まえられないような美少女がいるもんだぜ?

ソートク

おお、然り!!

ゼリィ

まぁ、その大半が娼婦だったり、スリだったりするがそれは言わねぇでおくか……

ソートク

……

ゼリィ

どしたソートク?

ソートク

もめているな……

ゼリィ

おいソートク!!

ワタクシが入れないというのはどういうことですの!?

コロッセオ従業員

ですから、当コロッセオは現金のみ扱っておりまして……

お金ならここにあると言っているではありませんの

コロッセオ従業員

いえ、あの、金塊でのお取り扱いは……

すげぇ……ありゃ本物の金塊だ。あんなデカいの見たことねぇ

あんなのどこで手に入れたんだよ……あの嬢ちゃん

この金塊は、ルドル金貨数千枚の価値がありますわ!

さ、分かったのならお通しなさい。
早くお馬さんのかけっことやらを見たいんですの!?

コロッセオ従業員

ですから、換金して頂かないと……

……

話の通じない人ですの……

依頼人以外の殺生は禁じられていますが、要は殺さなければいいんですの

コロッセオ従業員

へ?

『首薙ぎ』なら『人裂き』と違って半殺しで済みますわね――!!

ソートク

……

ソートク

すまない美少女。
ついその美しき手に触れてみたくてな

どちら様ですの?
ワタクシの腕を掴むのは

ゼリィ

ちょっと待ってくれお嬢さんよ。
いくら無法の地だからって、護るべきルールが皆無ってわけじゃねぇんだ

コロッセオ従業員

あ、あのー……

ゼリィ

おう、すまねぇな。
ちょとこれで多めに見てくれよ

ゼリィ

ルドル金貨二枚、迷惑料でとっとけ。
ついでにあと一枚付けるから、広い席頼むわ
(ヒソ)

コロッセオ従業員

おお!
あなたは話が分かりますね。
(ヒソ)

コロッセオ従業員

これは、VIP会員様のお知り合いでしたか。ささ、こちらに席をご用意してあります

ソートク

ヴァルキリー……。
袖の下というやつか?

ゼリィ

まかり通るなら、通らしてもらおうぜ

な、なんだかよくわかりませんが……

ゼリィ

ついて来いよ、お嬢さん。
特等席でお馬さんの駆けっこが見れるぜ?

ソートク

御供致しましょう、麗しき美少女よ

あら、見られますの!?
ワタクシ、嬉しいですわ!!

ソートク

はっはっは。
あまりハシャぐと、危ないですよお嬢さん

ゼリィ

なんつー適応能力見せてんだよ……

あら、レディの扱い方を知っていますのね♪

ゼリィ

レディ……ねぇ

ゼリィ

一瞬見せた凄まじいまでの殺気……

ゼリィ

ただのレディじゃ出せねぇよなぁ?












―ポートビダ・とある居酒屋―

くっそ、つまんねぇな!

どしたのですか?

タンスの角に小指でもぶつけたですか、勇者サマ?

ああ?
ちげぇよ!

さっき、居眠りしてたら急に神託が来やがってよ……

駆け出しの勇者が、偏差値50代になったんだとよ!!
しかもそいつがこの街にいるらしいんだよ!!

おー、勇者サマ、へんさち39ですもんね

ふざけんじゃねぇ!
こちとら全然上がらねぇのによ!
毎日魔物を狩ってやってるってのに

それは、『深緑の大地』の魔物が弱いからじゃないでしょか?

そろそろ仕える人変えましょか……

おい、俺様を見限るつもりじゃねぇだろな?

どーでしょね

へっ、てめぇらはそうもいかねぇんだ。
見ろこの大金を!!

へへっ、今日も『ベンハのコロッセオ』で大金稼いでやったぜ

コイツがあれば、てめぇらはついてくる……違うか?

……

勇者サマ、その気に入らない勇者どうします?

殺しますか?

いや、それには及ばねぇ

すでに、あの世間知らずお嬢様が探しに行ったからな

――……

32、 ゼリィ ソートクと競馬場へ行く

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