―ポートビダの街―
―ポートビダの街―
磯の香りを運ぶ潮風が勇者一行を迎えた。
耳に入ってくるのは喧騒。商人の声だ。
文字通り叩き売りをしている商人の声がひっきりなしに聞こえてくる。
しかし喧噪の中、耳をすませばさざ波のゆったりとした音も混じっている。
そんな港町に、ソートク一行は辿り着いた。
広いな、この港街は
ポートビダの街は『深緑の大地』の中でも有数の港町である。
大陸間の海を渡る船が集う街は、自然と人通りが多くなり、街を発展させていく。
発展した街は新しく人を呼び寄せ、そしてまた発展していく。
こうして、ポートビダの街は巨大な港町として、『深緑の大地』を代表する名所になった。
交易が盛んなこともあり、商人の数も多く、街に開かれてる店は、武器屋だけでも優に百を超し、行商人を含めれば、商売できる場は万を超すとも言われている。
さて……馬屋を探さねばな
だわな
結局見つかりませんでしたものね……
タニリタ国王には申し訳が立ちません……
でもぉ、あの馬が勝手に逃げてしまうのが悪いのではぁ〜
あの時、馬の見張りはゼリィ殿でしたよね?
そうだけどよ……
「あーなんか縄ちぎったなぁ」
って思ったら一直線に逃げるし、追いかけんのもだるかったなぁって
止めて下さいよ!!
まぁまぁ、ここまで馬車引っ張ってきたんだからいいじゃねぇか
しかも片手で……
とりあえずぅ〜、シューは『口笛石』とぉ『木馬の商人』の情報を集めますねぇ
では私は宿の手配を
ついでに船の運航状況も確かめておきましょう
では、俺とヴァルキリーで馬屋を探すか
うし。
日没前ぐらいにここで待ち合わせということで
よし。
では散開!!
―ポートビダ・西街区―
さぁらっしゃい!!
新鮮な魚は脂のノリが段違いだよ!!
寄ってきなよ、戦士諸君!!
最新鋭の弩が入荷したよ!!
……
どうした、ソートク?
活気のいい街並みだと思ってな
そりゃあそうだ。
なんたってこの街は『深緑の大地』と他大陸を結ぶ窓口だからな
貿易の一大拠点として栄華を極めているし、複数のギルドや連合軍の活動の足場となっているんだぜ
『深緑の大地』でもっとも繁栄しているところじゃねぇかな
なるほどな
さらには、この街はどっかの領土に属しているわけでもねぇんだ
そうなのか?
貿易を開拓した商人が領主でね。
商人上がりだからか知らねぇが、高い税金で土地を貸してるんだが、国と違って規則は緩い。
治安はギルドや連合軍が結託して守ってる。
『深緑の大地』にしてはちーっとアウトローだがな、それがなかなかどうして、住みやすいんだなコレが
住むのも、商売するのも、ギルドと連合軍を結ぶのも全てが金で解決される街さ。
単純明快でオレは住みよい
それもまた、人のあり方なのかもしれんな
どちらかっつーと品を求めるパッフなんかは余り好きではないだろうなこの街は
だが、まだ街並みは普通だが……?
ああ。
まだ普通な活気ある商店街って感じだろ?
それが、三つ四つ曲がり角を曲がれば貧民街に辿り着くから不思議なもんだ
おおと、そこのお二人さん!!
徒歩で旅してるんだったら、ウチの馬は必需品だよ!!
ワリぃなおっちゃん。
オレたちこれから『ベンハのコロッセオ』に行くんだ
何?
なんだよ、馬は馬でもそっちの馬か……
そう言うわけだ。んじゃな!
ヴァルキリー、馬屋に行くのではないのか?
もちろん馬は購入するぜ?
でもよ、それだけじゃあつまんえねぇだろ?
折角、この街に来たんだ。
ちょっとは付き合ってもらうぜ!!
―ベンハのコロッセオ―
付いたぜ?
ここは……?
地理的に言えば西街区の最果てで――
建物的に言えば『ベンハのコロッセオ』だ!!
『ベンハのコロッセオ』?
さっき、この街はアウトローな面もあるって言ったろ?
ここがそれを象徴している場所さ。
コロッセオ内部から歓声が聞こえてくるな……
そうとも!
ここはアウトローたちの憩いの場。
血肉を騒がせ、人の本能の赴く地。
ここは人が自らが抱える欲に支配される場所。
かといって己の欲を御しようとした者も身を滅ぼす。
つまりは運だけが物を言う――
ギャンブル場だ!
ギャンブル場。この建物。この歓声。
そして馬……
ひょっとして……
ああ。
『ベンハのコロッセオ』は――
競馬場だぜ!!
―ベンハのコロッセオ・入口―
賭け方はシンプルだ。どの馬券を買うか決めた後、一着になる競走馬を当てればいい。
馬券によっては一着から三着までを予想するものある。
ヴァルキリー、説明しているところ悪いが、俺は参加しないぞ?
それに、ここで馬が手に入るわけでもあるまい?
まあな
あくまで娯楽のために来たというのか?
ヴァルキリーよ
堅っ苦しいこと言うなよ〜
別に、止めるつもりはないがほどほどにしておくように
へぇへぇわかってますよ。
ただな、ソートク……
あれ見てみな
あれ?
……
金勘定している商人じゃ、絶対捕まえられないような美少女がいるもんだぜ?
おお、然り!!
まぁ、その大半が娼婦だったり、スリだったりするがそれは言わねぇでおくか……
……
どしたソートク?
もめているな……
おいソートク!!
ワタクシが入れないというのはどういうことですの!?
ですから、当コロッセオは現金のみ扱っておりまして……
お金ならここにあると言っているではありませんの
いえ、あの、金塊でのお取り扱いは……
すげぇ……ありゃ本物の金塊だ。あんなデカいの見たことねぇ
あんなのどこで手に入れたんだよ……あの嬢ちゃん
この金塊は、ルドル金貨数千枚の価値がありますわ!
さ、分かったのならお通しなさい。
早くお馬さんのかけっことやらを見たいんですの!?
ですから、換金して頂かないと……
……
話の通じない人ですの……
依頼人以外の殺生は禁じられていますが、要は殺さなければいいんですの
へ?
『首薙ぎ』なら『人裂き』と違って半殺しで済みますわね――!!
……
すまない美少女。
ついその美しき手に触れてみたくてな
どちら様ですの?
ワタクシの腕を掴むのは
ちょっと待ってくれお嬢さんよ。
いくら無法の地だからって、護るべきルールが皆無ってわけじゃねぇんだ
あ、あのー……
おう、すまねぇな。
ちょとこれで多めに見てくれよ
ルドル金貨二枚、迷惑料でとっとけ。
ついでにあと一枚付けるから、広い席頼むわ
(ヒソ)
おお!
あなたは話が分かりますね。
(ヒソ)
これは、VIP会員様のお知り合いでしたか。ささ、こちらに席をご用意してあります
ヴァルキリー……。
袖の下というやつか?
まかり通るなら、通らしてもらおうぜ
な、なんだかよくわかりませんが……
ついて来いよ、お嬢さん。
特等席でお馬さんの駆けっこが見れるぜ?
御供致しましょう、麗しき美少女よ
あら、見られますの!?
ワタクシ、嬉しいですわ!!
はっはっは。
あまりハシャぐと、危ないですよお嬢さん
なんつー適応能力見せてんだよ……
あら、レディの扱い方を知っていますのね♪
レディ……ねぇ
一瞬見せた凄まじいまでの殺気……
ただのレディじゃ出せねぇよなぁ?
―ポートビダ・とある居酒屋―
くっそ、つまんねぇな!
どしたのですか?
タンスの角に小指でもぶつけたですか、勇者サマ?
ああ?
ちげぇよ!
さっき、居眠りしてたら急に神託が来やがってよ……
駆け出しの勇者が、偏差値50代になったんだとよ!!
しかもそいつがこの街にいるらしいんだよ!!
おー、勇者サマ、へんさち39ですもんね
ふざけんじゃねぇ!
こちとら全然上がらねぇのによ!
毎日魔物を狩ってやってるってのに
それは、『深緑の大地』の魔物が弱いからじゃないでしょか?
そろそろ仕える人変えましょか……
おい、俺様を見限るつもりじゃねぇだろな?
どーでしょね
へっ、てめぇらはそうもいかねぇんだ。
見ろこの大金を!!
へへっ、今日も『ベンハのコロッセオ』で大金稼いでやったぜ
コイツがあれば、てめぇらはついてくる……違うか?
……
勇者サマ、その気に入らない勇者どうします?
殺しますか?
いや、それには及ばねぇ
すでに、あの世間知らずお嬢様が探しに行ったからな
――……