この世界の原理を知っているのは、実はこの世でたった1人。
この僕しかいないのだ。
これは大変悲しい事実ではあるが、いつからかは忘れたけれどそうと決まっているのだから仕方がない。
この世界の原理を知っているのは、実はこの世でたった1人。
この僕しかいないのだ。
これは大変悲しい事実ではあるが、いつからかは忘れたけれどそうと決まっているのだから仕方がない。
何十回前か、はたまた何百回前かはもう忘れたけど……。
僕はその事実を彼女には言わないでいる。
この世界の存亡は柊ユウというたった1人の少女に委ねられている。
スイッチは、彼女がこの世界を必要とするかしないか。
たったそれだけ。
彼女がこの世界が要らないと判断すれば、たちまちこの世界は崩壊し跡形もなくなる。
その感情が強ければ強いほど、その崩壊の仕方はどんどんエグくなっていく。
ま、その光景を僕が見たことは一度もないんだけど……
そしてそれでも、世界には必ず僕と彼女が存在している。
一度崩壊した世界が、どうして何事も無かったかのように存在しているのかという疑問については……
また次にしよう。
謎は引っ張る方が面白いしね。
はい、数学の教科書
はいじゃないでしょ? もう……何回目?
ごめんなさい
放課後になってから、僕は彼女に借りた教科書を返しに行った。
相変わらず忘れ物の癖は直せないでいる。
綾人は、もう帰る?
うん、もちろん。何で?
え、……えーっと……
柊ー!
!
?
隣のクラスから顔を出して柊を呼んだのはサッカー部のエースだった。
去年のバレンタイン頃から、あのエースは柊の事が好きらしいという情報がよく流れてくる。
今日さ、皆とカラオケ行くんだけど……どう?
あ……えっと……
?
エースに誘われるなんて、周囲の女子達からの視線がさっきから痛いというのに、柊は返事を中々しない。
この学校でエースが柊に片想いしてるパターンは何回かあったけど、これは初めてだな……
ごめんなさい。今日はお母さんとの用事があって……
あー……そっか。わかった。じゃね
うん、さよなら
エースはそうやってあっさり身を引いたが、僕に目もくれないのは恐らく当て付けだろう。
別に何とも思わないけど……。どうせ皆明日には死ぬんだから
じゃあ綾人。帰ろ?
えっ……あ、うん
それでも、何度彼女にこうして帰りを誘われていても僕はいつだって嬉しいのに違いはない。
いつどんな時間軸まで辿り着いても彼女が周囲から好意を引く存在であるように、僕はいついかなる時でも彼女に恋をしている。
でも、思いを告げられることは滅多にない。
ねえ、聞いてる?綾人
え、……あ……うん、聞いてる聞いてる
……聞いてなかったでしょ
……はい
柊と一緒に下校しているんだ。集中出来るはずがないだろう……全く。
僕の肩あたりまでしかない彼女の身長が、視界の端でユラユラと揺れる。
皮肉な事だが、やはり僕はこの瞬間が一番大好きだった。
今日読み終わった本のね、中に書いてあったエピソードから思い付いたんだけど
本? 何のジャンル?
SF
SF……? 柊って、そういうの読まないはずじゃ……
今日は初めての場面や台詞が多いなぁと思いつつも、明日、どうやって僕は死のうかとそればかりを考えていたので大して気にならなかった。
むしろラッキーとも思っていた。初めてがまだあることは凄く嬉しい。
SFって言っても、ちゃんと恋愛ものだったよ? 凄く素敵だった
へぇー……それで?
あぁ、そうそう。あのね
柊は歩みを止めて、下から僕を覗きこむように振り返った。
その仕草に心臓が跳ねる。
もしも、私達がこの地球上で“ループ”していたとして。この地球を滅ぼすキーを私が持っていたら……
綾人はどうする?
心臓が、もう一度跳ねた。