―ソートクの夢・神託―

神官

ソートク……ソートク。
私の声が聞こえますね

ソートク

zzz

神官

……

神官

やっぱり……

神官

なんでこの人は、夢の中で眠ってるんだろう

神官

はぁ……

神官

かと言って、無理に起こそうとすると神託自体から起きちゃうしなぁ……

ソートク

zz……ふご

ソートク

何だ……?
また神託か?

神官

やっぱり辞めちゃおうかな……座りっぱで教典の読み聞かせも腰にくるし……

ソートク

おい神官、聞こえているぞ。未だ腰痛が治っていないこともな

神官

あ、起きました!?

神官

と言っても起きたわけではないんですけどね

ソートク

ややこしいな……。

神官

それでは早速……

神官

私はエルエット大教会の神官。私にはすべてが見えています

ソートク

それはもういい……

神官

でも、これがないと締まらないじゃないですか……

ソートク

あろうとなかろうと、締まった試しがないだろう

神官

またまたご冗談を――

ソートク

至極真面目だぞ?

ソートク

で、今日は何だ?

神官

あっ、そうでした!
ソートクさん、朗報ですよ!

神官

聞いて驚かないで下さい

ソートク

……

神官

……

神官

いえ!
今回は驚いて下さい!!

神官

なんと――!!

神官

また勇者偏差値が上昇しました!!

ソートク

そうか

神官

ええー……

神官

驚いてくださいよ……。
演出班もテンション下がってますよ……

ソートク

あいにく驚くことに関して不器用でな

神官

まぁ、今回は急上昇ってわけじゃないんですけどね

神官

それでも、この短期間での連続した上昇は珍しいんですから、もっと驚いて下さい

ソートク

努力しよう

神官

それで、肝心の勇者偏差値ですが、52になりました

神官

これは中堅どころの勇者でも実力派の連中が多いですね

ソートク

魔物は倒していないが……

神官

タニリタ国の皇女救出及び盗賊団の壊滅!

神官

一国を救ったんですよ!流石です!

ソートク

なるほどな

ソートク

諸国とエルエット大教会は、折り合いが悪いと思っていたが……

神官

そんなことはありません!
どんな国だって平和が一番であり、教会側も同じ考えです

ソートク

だが、上昇率は以前に比べると落ち着いているようだが?

神官

そこは……

神官

数が増えるに連れ、上がりにくくなっていますから……

神官

と、いうことにしてください……

ソートク

大人な事情か……

神官

と、とにかく上がったことは事実です

神官

やっぱりソートクさんは期待のルーキーですね。神託担当として鼻が高いです

神官

国を救うなんて、勇者の本懐ですね

神官

行って良かったですね、タニリタ国!!

ソートク

……

神官

あまり嬉しそうでないですね……。
何かありました?

ソートク

……そもそも

神官

はい?

ソートク

俺がタニリタを目指したのは馬車が欲しかったからだ。

神官

あー、言ってましたね

ソートク

無論、盗賊団の壊滅が煩わしかったとか、姫の救出が面倒だったということは断じてない

ソートク

それはやってよかったと、心の底から思っている。

ソートク

だがな……

ソートク

よもやあんなことになろうとは……
















それは、タニリタを出て最初に迎えた夜だった。

馬車を手に入れた今、夜を迎えるのも明かするのも、美少女と一緒だということだ。

馬車のスペース上、同時に横になれる人数は二人。

しかし、それは誰かと二人っきりで寝られるということだ

ソートク

まさに選べる贅沢!!

ソートク

誰だ!?
誰と寝る!?

ソートク

ソートク・アイ!!

ソートク

キュイーン(小声)

ヴァルキリーは、何と言ってもその胸の豊満さだ。中には夢が詰まっているのか、希望が詰まっているのか。
バストは90代、それも後半か……。
引き締まった体に健康的な褐色肌。
自らの美貌に対しては疎いようだが、あのビキニアーマーに形状が近い黄金の鎧は、防御性はさておき、男に対しての攻撃力が異様に高く、そのプロポーションをいかんなく発揮している。

シューの胸はヴァルキリーに比べればやや小ぶりだが、スカートとハイソックスの合間に見える露出された太ももが絶対的な破壊力を持っていることに違いは無い。
大きめのローブからチラチラと見えるその おみ足は間違いなく美脚。
早く全貌を見てみたいものよ。
普段は柔和な態度に毒気を混じらせる印象が強いが、その毒気が抜かれる就寝時には一体どんな姿を見せてくれるのだろうか。

パッフは……。おお、意外に見えない!?ガードが堅いということか……。

ソートク

だが――

ソートク

それでも見たい美少女がいる――!!

ソートク

ソートク・アイ!!
ハイリボルブースター!!

その胸は平原に例えられ、不毛の地と評されているようだが、胸で判断するのはあまりにも浅ましい。
彼女のビジュアルの真価は臀部にあると見た!
騎士の重厚な鎧に包まれた二つの美尻は胸に比べると確かに豊満!
そしてその尻の前をヒラヒラと踊る一房の金髪ポニーテール……。
タダでさえ扇情的な髪だが、就寝時はきっと髪が下されるだろう。時限な髪型を見られるチャンスでもある

ソートク

こんなところか……

ソートク

つまり、誰を選んでも後悔は無いということだ!!
贅を極めし選択肢がここにある!!

それがソートクの就寝に対する意気込みであった。

誰を選ぶか、究極的な選択を迫られている。

だがソートクは、あえて誰を選ぶかすぐには決めなかった。

選ばなければならないという苦悩はソートクにとっては最高の贅沢でもあったからだ。

その贅を楽しんでいた最中であった。

ふと、一つ提案が出された。

誰が言い出したのかは覚えていないが問題ではない。

問うべきは、その質問の真意であった。

だからソートクは、オウム返しになると分かっていながらも聞き返す。

ソートク

俺一人で寝る……だと?

ゼリィ

おう

シュー

馬車自体は大きいですけど、全員が横になれませんしぃ

ソートク

いや、それは百も承知だ

パッフ

もちろん、ローテーションをとります。見張りも必要ですからね

ソートク

それも百単位で承知済みだ

ソートク

俺が言っているのは、何故俺一人で寝るのかということだ!

パッフ

は?

ゼリィ

おいおい、ソートク。
まさかオレ達と一緒に寝ようってのか?

ソートク

当然で――

ソートク

おぅふ……

パッフ

ななななに考えてるんですか!!

パッフ

御身と一夜を共にしなければならないのです!!

ゼリィ

別にいーじゃねぇの

シュー

素敵なお誘いじゃないですかぁ

パッフ

黙っていてください!!

ソートク

何故断る?
ヴァルキリーとシューは構わんと言っているのに……

パッフ

ほら見てください!
お二人の冗談を真に受けてしまっているじゃないですか

ゼリィ

本気だもーん

シュー

ですよ〜

パッフ

また適当言って……!!

ソートク

抵抗を示しているのはパッフくらいだが――

ソートク

おぅふ……

パッフ

と・も・か・く!!

パッフ

馬車で寝るときは、御身一人で寝てください!!

パッフ

いいですね!?

ソートク

しかし――

パッフ

い・い・で・す・ね!?

ソートク

……
















ソートク

結局、一人寂しく眠ることになってしまった。

ソートク

今日も一人寂しく眠っていたのだが……。
一緒に眠っていれば、もう二週目に入るところだったのに

神官

ソートクさん?

ソートク

気にするな

ソートク

それより、今日はどうしたというのだ?

神官

ええ、それが……

神官

それが、今日は悪い知らせの神託でして……

ソートク

悪い知らせ……?

神官

ええ。
先日、ソートクさんが遭遇したソーリヨイの街の件もそうなのですが……

神官

魔王軍の動きが活性化しています……

ソートク

魔王軍が……

神官

正確には魔王軍の配下、魔将四天王が率いる軍ですが……

神官

ひとつの国が壊滅に追い込まれました……。
前の神託のあとすぐのようで――

ソートク

……そうか

神官

壊滅した国はマホコーン国……。
大陸『凍青の大洋』の国です。

ソートク

『凍青の大洋』か……

神官

それで、ソートクさん。
一つお願いがあります。

ソートク

クエストか?

神官

いえ、それに近しいものではありますが……

神官

是非、ソートクさんには急いで他大陸へと渡って欲しいのです

ソートク

……

神官

やはり、『深緑の大地』の魔物に比べ他大陸の魔物の侵攻は激化しています

神官

駆け出しのソートクさんには過酷な旅になるかもしれません

神官

それでも、連合軍や国軍、ギルドがいくら集まっても魔物に優位に立てないのが現状なのです

神官

ソートクさんは勇者偏差値で見れば、中堅並の実力者――

神官

どうか活躍の場を他大陸に移して下さい

ソートク

……

ソートク

分かった

神官

本当ですか!?
ありがとうございます!!

ソートク

元来、目指す場所は定まっていない旅だ

ソートク

目指す野望は不変を貫くがな

ソートク

幸い、大きな港町が近い。
行ける大陸へと行こう。

ソートク

だが、一つやるべきこともある。
そしてこれはこちらから聞きたかったことでもある

神官

な、なんですか……

ソートク

『口笛石』というものを知っているか……

ソートク

実は――











神官

そんな邪悪な石があったとは……

ソートク

タニリタとソーリヨイの元凶でもある。
仲間が言っていた『木馬の商人』という者がカギを握っていると思うのだがな

神官

『口笛石』『木馬の商人』……。
どちらも聞かない名です

神官

どちらも、エルエット大教会を通じて、全大陸の勇者に知らせましょう

神官

どちらも、まかり通ってならない存在です

ソートク

次の街でなにか情報が得られれば、それに沿って進むかもしれない。

ソートク

何も情報が得られなかったときは、神官が言う通りに他大陸の戦力となろう

神官

ありがとうございます

神官

重ねて言いますが、どの大陸へ行っても今より危険なことに変わりはありません。
お気をつけて。

ソートク

安心しろ。俺はともかく頼りになる仲間がいる

神官

期待しています、ソートクさん。

神官

では、コホン――

ソートク

……やるのか?

神官

……

神官

……ええ

神官

もうそろそろ、貴方もこの眠りから目覚めることでしょう

神官

私はエルエット大教会の神官。
私には全て見えています

神官

さぁ旅立つのです!!
勇者ソートクよ!!

そしてソートクは目覚めた。











ソートク

……他大陸がそんなことになっていたとはな

ゼリィ

おう、ソートク起きたか!

ソートク

ん?

パッフ

シュー殿、上流の方は?

シュー

いませんでしたねぇ〜

パッフ

下流にもいませんでした……。
来た道を探してきますっ

ソートク

どうした?

ゼリィ

いや、それがよ――

ゼリィ

逃げちまったんだよ!
馬車引く馬がよ!!

――……

31、 神官 ソートクに提案をする

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