その日おばあさんへのお使いも済まして暇を持て余した赤ずきんは、
その日おばあさんへのお使いも済まして暇を持て余した赤ずきんは、
う~ん…
何やら思案し、
へへっ
気持ちの悪い笑いを発すと、辺りが急に光に包まれる。
眩しくなったかと思うと、赤ずきんは森ではなく海の中にいた。何事もないかのように門の前に立つと、大きく息を吸い込む。
おい! 誰かいるか!!
肺呼吸という概念を無視して赤ずきんは海の底で大声を張り上げる。
はい。竜宮に何か御用ですか?
出てきたのは竜宮の使いだった。使い女は赤ずきんを見ると驚く様子もなく来訪理由を尋ねる。
あのさ、マヤちゃん、いる?
え? マヤ様、ですか?
使い女は客人の前で動揺を露わにした。竜宮の中でも、「ちゃん」付けでその名を呼ぶ者は誰もいない。なにしろマヤとは、”竜宮の鬼軍曹”として竜宮中から恐れられている乙姫の側近の名だ。
そう、マヤちゃん。いる?
それを知ってか知らずか、赤ずきんは続けてその名を口にした。「ちゃん」付けで。
数分後、竜宮の鬼軍曹マヤちゃんは、颯爽と現れた。
やあ! 髪切った?
いんや
爽やかなギャグをスルーして、赤ずきんは本題に入る。
ゴホンッ
乙姫、いる?
いんや
気合を入れた赤ずきんの質問は軽くスルーされた。
……
ショックで言葉が出ない赤ずきん。
なんで!? どこ行ったの!!?
う~ん、多分…スミスのとこ
あンの いかれぽんちが
赤ずきんは鬼軍曹も引くほど静かに怒っていた。
木製の可愛い椅子に座って、お絹が暖炉に当たっていると、奥からとめ蔵がカップを二つ手にして来た。
どうぞ
それは、湯気の立つコーヒーだった。
ありがとう
その時、とめ蔵の血走った目を見てお絹は驚く。とめ蔵が、どれほどの恐怖を背負って、暗い森の中をここまで走ってきたのか、お絹には想像も及ばないことで、ただお絹には謝罪を言うことしかできなかった。
ごめんなさい
え?
お絹は努めて明るく言った。
見捨てないでくれて、ありがとう
……
お絹が神妙になってそんなことをいうので、とめ蔵は居心地が悪くなって、食べ物を探しに奥へ引っ込んで来てしまった。
スミス…
勢いでトマトスープを煮込むとめ蔵。
おたまを手にしながら、とめ蔵は森でお絹が言いかけた男の名を口にする。
もし、それがとめ蔵の知る男なら、お絹はこの国の王女ということになる。
マズい。激しくマズい
トマトスープは死ぬほど美味しく出来たが、とめ蔵の心は重かった。それが事実ならば、今まさにとめ蔵は国の禁を犯していることになるからだ。苦々しく、とめ蔵はつぶやく。
”再会の禁止”……
お待たせしました
とめ蔵がトマトスープを持っていくと、お絹は机に突っ伏して寝ていた。
……
とめ蔵はお絹を客室に寝かせると、自分も床に就くことにした。
このババロア
超~うまいね!!
鰓呼吸とかその他諸々の事情を完全無視して乙姫は、晩餐のデザートにまんまとありついていた。
だろ?
得意げに答えたのは、この城のコックであるセサミ。体は小さいしケモミミだが、腕は一流で、たった一人でこの城の調理場を仕切っている。不思議なことに誰も、彼が仕事をしているところを見たものはいない。
ああ。本当にうまい!! 世の中にこんなにうまいものがあるなんてな。いつも生のイカとか海老とかばっかだからさぁ。
うわ~
コック・セサミは、乙姫が哀れで仕方なかった。
え~そうなの? そりゃ大変だ~
ほろ酔いの男がワイングラスをテーブルに戻しながら言う。
そうなんですよ、王様。
ま、鮮度は抜群ですけどね!!
たしかに
がははははははははははははっ
国王は乙姫とよろしくやっていた。
王女が魔法を…?
いやまさか。今になって?
いやでも…
スミスは乙姫の言ったことが気になっていた。