風の子

子どものころは
今より背も低かったし
体重もなかったし
代謝もよかったし
風の子だった

とても身軽で自由で
疲れ知らずで
どんなに走ったって息は切れないし
転んだって我慢せず大泣きする
飛行機に乗らなくたって空を飛べるし
サンタクロースがプレゼントを持ってきてくれる

自分が一番正しいと信じていたから
自分と違う友達とよく大喧嘩して
泣きながら布団に入った
朝になれば気が変わり
恥もなくぺこっと謝って許し合う

作り笑いなんて知らず
全部顔に出した

疑う気持ちなんてなく
見えるものすべてが本物だと信じてた

大人になったら
なんでも出来るようになるんだと信じてた
行きたい処なら何処へでも行ける
好きなお菓子を好きなだけ買える
夢がすべて現実になる

そう信じてた









あっという間に子どもは大人になった
大人はみんな石像みたいに重くて動かない
体中が軋む
笑顔で怒っていたりする

世界は嘘ばかりで
鏡の中の自分さえ簡単には信じられない
何も信じられない

夢なんて滅多に叶うもんじゃないと
変な慰めばかりしてくる
騙されてるのかも…

何処かへ行くのにも
好きなお菓子を買うのにも
生きるのにも
金が必要だ
幸せは金で買うものではなかったはずなのに
みんな金と時間を天秤にかけてる
金がくれるちっぽけな幸せに満ち足りて
当てもなく生かされてる

誰かのくだらない喧嘩で
関係のない人がたくさん死んだりする
寝て起きれば後悔ばかり
いつまでも自分のことしか
考えられないから誰も許せない
人生にタイムリミットがあると知ってから
毎日布団の中でカウントダウンをしてる

ところで
サンタクロースは本当にいたんだ
あれは未来の自分だった

葉擦れの音に懐かしさを覚え微笑んで
遠い波音に孤独を突きつけられ涙する

昔は良かった
空っぽな言葉ばかり
口から垂れ流している

いつしか風は止む

邪魔な壁に遮られ弱っていく者
出口を見失い同じ所をぐるぐる回り続ける者
窮屈な箱に自ら飛び込み嵌ってしまった者

その隙間を通り抜け
生き残った風の子が
今日も木の葉を揺らしている
果てのない静かな海に波が立つ

その音で
誰かの心がまた動き出す













-終-

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