―タニリタ城下〜盗賊団アジト―

ソートク

駆けよ!!

『深緑の大地』が象徴する草原。

それらをえぐる勢いで駆ける駿馬がいた。


四肢が小気味よい音を連続させて鳴らし、その足の速さを強調させる。

向かうは丘を抜けた先にある盗賊団のアジトである洞窟だ。

悪逆の限りを尽くしている彼らから、攫われた姫を取り返すためだ。

急がなければならない。

その意思を手綱と鞍を通じて伝える。

すると、どんな悪路でも突き進む馬の脚力と精神力が手綱から返ってくる。

風を切る疾走感を体で感じさせる馬の足は丘へと差し掛かる。

ソートク

まるで大地を我が物顔で走るではないか。
さしずめ天馬の境地か?

馬は答えないがそれでいい。

馬は無心。

ただ突き進むのみ。

ならば、自分も絶対の信頼を寄せて己の進路を馬に委ねる。

人馬一体がなされているのである。

ソートク

む?

そんな境地の中で、ソートクは腰に違和感を感じた。

胴回りを包むようなゆるい圧力がある。

そして背中にも熱があった。

その正体に気付き、前方向を向いたまま、やや大声でソートクは声を出す。

ソートク

なぜ、俺の後ろにパッフが乗っている?

パッフ

えっ!?
今頃気付きます!?

ソートク

馬上は人を無心にさせるからな

パッフ

いや、そういう問題ではないと……

ソートク

それよりなんで乗っている?

パッフ

わ、私に聞かないでください!!

パッフ

私は被害者側ですから!

ソートク

なら誰に問えばいい?

パッフ

あのお二方に決まっているでしょう!!

ソートク

だ、そうだが?

ゼリィ

だってよー、冷静に考えたらあの兵士長、馬三頭しかよこさなかったしな

シュー

シューがいることを〜言わない方が悪いのではぁ

ゼリィ

いや、てっきり知ってるもんだとばっかり……

ソートク

らしいぞ?

パッフ

あれが答えになっているとでも!?

ソートク

馬の数が足りなかったのだ。
仕方あるまい

パッフ

なら案内係と御身で二人して乗ればよかったのです!!

国王軍・兵士

若干、俺のせい感出てねぇかな……

ソートク

お前こそ、二人に乗せて貰えばよかったのではないか?

パッフ

あの二人がそんな暇を与えるとお思いですか!?

パッフ

宿前に馬が来るなり、躊躇いなく乗っていきました!

パッフ

案内係の方も遅れてはいけないと、お二方を追いかける始末で――

国王軍・兵士

やっぱ俺のせい感出てるなぁ、天空騎士様……

シュー

まぁまぁ、片道だけですからぁ〜

シュー

ソートクさんもぉ、役得ですよねぇ?

シュー

というかそれが目的ですぅ

ゼリィ

そうだそうだ、良く似合ってるぞ〜

ゼリィ

というかそれが目的だしな

パッフ

な、何を――!?

国王軍・兵士

皆、気を付けてくれ!
岩があるぞ!!

ソートク

む、飛び越える!

ソートク

舌を噛むなよ、ハイやぁ!!

パッフ

きゃあっ!

ゼリィ

おおーっとパッフがソートクにしがみつき――!!

シュー

胸が押し付けられてますぅ――

ソートク

ゼリィ

しかぁし残念!!
パッフの胸は平原が如し!!

シュー

自己主張の手段に乏しかったのですぅ

パッフ

ちょっとそこ!?
絶対失礼なこと考えてますよね!?
そういう顔してますね今!?

パッフ

しかし、殿方と乗るのは初めてなんですよね……。
二人乗りって意外と安定するものなんですね……

ソートク

そういえば、俺は初めて美少女を後ろに乗せているのではないか……

ソートク

これが姫救出と無縁であれば、どんなに嬉しかったことか……





















国王軍・兵士

もうそろそろだ!
この森を抜けたらすぐだぜ!!

ソートク

そうか、ならばここからは馬を下りて歩くとしよう

パッフ

近くに見張りはいませんか……?

国王軍・兵士

この道からなら大丈夫だ。

国王軍・兵士

あとは草木に隠れて行けばバレねぇだろうよ

ソートク

分かった。
道案内、感謝する

国王軍・兵士

へっ、これから国の英雄になろうとしている人間が、一兵卒に気を遣うなよっ!

ゼリィ

つうかお前、足治ったのか?

国王軍・兵士

……

国王軍・兵士

え、姐さん、覚えてくれてたのか!?

ゼリィ

姐さんて……

シュー

お知り合いでしたか〜

ゼリィ

城壁の防衛の時にな

国王軍・兵士

へへ……

パッフ

であれば、この方が我らを兵士長殿に紹介してくれたのですね

パッフ

何から何までありがとうございます

国王軍・兵士

いいってことよ!!

ソートク

それより、お前はどこかに身を隠せ

ソートク

ここから先は勇者一行の仕事だ

国王軍・兵士

本当なら俺も手伝いてぇが……

ゼリィ

気持ちだけでいいっての。
お前さんは足を治しな

パッフ

それと、馬を隠させなければいけません。
ここに来たことを知られる訳にはいきませんので

国王軍・兵士

わかったぜ!
アンタらの無事を祈ってるからな

ゼリィ

お前さんもな。見つかるんじゃねーぞ

国王軍・兵士

ありがとな姐さん!
じゃあな!!

ソートク

良く知り合いだと わかったな

ゼリィ

樽型だろうが、バケツ型だろうが、どんな兜をしてても誰が誰だか分かるようになるぜ?
なぁパッフ?

パッフ

まぁ、騎士団でも一年くらいすれば、顔が見えなくてもわかりますが……

パッフ

私も含めて普通は、昨日今日会った人間を鉄仮面越しに区別できるものではありません

シュー

ゼリィさんはぁ、野生のカンを働かしてるんですよぉ

ゼリィ

褒めるときはもうちょっと言葉を選べよ

ゼリィ

でもまぁ、『氣』とか『丹田』とかで判断することはあるか……

ソートク

『キ』?

パッフ

『タンデン』?

シュー

ずぅっと遠くの異国の言葉ですぅ

シュー

その人が持っている不可視の力ですねぇ。
魔力みたいなものですぅ

ゼリィ

まぁ、大したもんじゃねぇよ

ゼリィ

お前さんらにも しっかり備わってるからよ

ソートク

なるほど……

ソートク

ならば『氣』とやらを駆使して盗賊相手から、姫を救うとするか……

パッフ

オカルト的ですね……

パッフ

ですが今は気を引き締める時です

ソートク

む、それは……?

ゼリィ

お、円錐型の槍じゃねぇか

シュー

しかもバンプレート付きの馬上槍仕様ですねぇ

パッフ

ええ、昨夜なんとか新調しました

パッフ

本来は馬上でこそ輝くと言われていますが――

パッフ

私の『ランス・メソッド』は時と場所を選びません――!!

ソートク

乗り気だな……

ゼリィ

普段は真面目で控えめなのに、新しく手に入った武器にテンション上がっちゃってるパッフ愛くるしい……

シュー

『ランス・テクニック』で良いのに、あえて『ランス・メソッド』と言ってドヤ顔作っているパッフさん、愛くるしいですぅ

ソートク

まぁ……集中力が上がるならいいことだ
















ふわぁ……

おい、気を抜くなよ。
国王軍が攻めてくるかもしれんのだぞ?

へへっ、こっちにゃ姫がいるんだぜ?
人質にしてる限り手出しできねぇよ

上物の美人だが、俺らも手出しできねぇけどな……

それに、頭目だって今は留守にしてんじゃねぇか。ちったぁサボったってバレやしねぇよ

馬鹿!
頭目は留守だが、アイツらがいるだろ……

げ、そうだった……。

同情はしねぇが、あんなのと一緒にいる姫さんも可哀想なもんだぜ

ったく、頭目もなんであんなのとつるんでるんだ……?

さてな

だが、アイツらが来てからことはうまく進んでいるのも事実だ……

明日にでもまた、タニリタを攻めるらしいぜ

そいつはいいな……

ふわぁ、眠ぃ……

昨日仕事したのに何で今日も仕事があんだよ……

なんだ、お前昨日の生き残り組かよ

生きた心地しなかったけどな……。
途中まではいい感じに攻めれたんだぜ?

なんだったんだ……あのメスゴリラみてぇな怪力剣闘士は……

だが、助かったんだからいいじゃねぇか

う、動きはトロかったからな

あんなところで死ねるかよ――

ゼリィ

ならここで死ぬか?

!!??

ゼリィ

ここも死に場所としては華やかじゃねぇと思うけど……

き、昨日の……

ソートク

美少女を動物に例えるなら、小動物が常套――。
ゴリラは以ての外だろう、愚か者

……

パッフ

……

ひっ……

シュー

今際の際の言葉を待つまでも無いですよぉ

ゼリィ

だな

ソートク

気付かれたか?

パッフ

いえ、まだでしょう

ソートク

よし……行くぞ、姫を我が手に!!

太陽が大地と垂直になろうとする頃。

四人の人影が洞窟内を進んでいく。

まるで、日の当たらない洞窟の闇に紛れるように――。

静かに、それでいて疾く、だ。

――……

23、 ソートク パッフと二人乗りをする

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