―タニリタ城下〜盗賊団アジト―
―タニリタ城下〜盗賊団アジト―
駆けよ!!
『深緑の大地』が象徴する草原。
それらをえぐる勢いで駆ける駿馬がいた。
四肢が小気味よい音を連続させて鳴らし、その足の速さを強調させる。
向かうは丘を抜けた先にある盗賊団のアジトである洞窟だ。
悪逆の限りを尽くしている彼らから、攫われた姫を取り返すためだ。
急がなければならない。
その意思を手綱と鞍を通じて伝える。
すると、どんな悪路でも突き進む馬の脚力と精神力が手綱から返ってくる。
風を切る疾走感を体で感じさせる馬の足は丘へと差し掛かる。
まるで大地を我が物顔で走るではないか。
さしずめ天馬の境地か?
馬は答えないがそれでいい。
馬は無心。
ただ突き進むのみ。
ならば、自分も絶対の信頼を寄せて己の進路を馬に委ねる。
人馬一体がなされているのである。
む?
そんな境地の中で、ソートクは腰に違和感を感じた。
胴回りを包むようなゆるい圧力がある。
そして背中にも熱があった。
その正体に気付き、前方向を向いたまま、やや大声でソートクは声を出す。
なぜ、俺の後ろにパッフが乗っている?
えっ!?
今頃気付きます!?
馬上は人を無心にさせるからな
いや、そういう問題ではないと……
それよりなんで乗っている?
わ、私に聞かないでください!!
私は被害者側ですから!
なら誰に問えばいい?
あのお二方に決まっているでしょう!!
だ、そうだが?
だってよー、冷静に考えたらあの兵士長、馬三頭しかよこさなかったしな
シューがいることを〜言わない方が悪いのではぁ
いや、てっきり知ってるもんだとばっかり……
らしいぞ?
あれが答えになっているとでも!?
馬の数が足りなかったのだ。
仕方あるまい
なら案内係と御身で二人して乗ればよかったのです!!
若干、俺のせい感出てねぇかな……
お前こそ、二人に乗せて貰えばよかったのではないか?
あの二人がそんな暇を与えるとお思いですか!?
宿前に馬が来るなり、躊躇いなく乗っていきました!
案内係の方も遅れてはいけないと、お二方を追いかける始末で――
やっぱ俺のせい感出てるなぁ、天空騎士様……
まぁまぁ、片道だけですからぁ〜
ソートクさんもぉ、役得ですよねぇ?
というかそれが目的ですぅ
そうだそうだ、良く似合ってるぞ〜
というかそれが目的だしな
な、何を――!?
皆、気を付けてくれ!
岩があるぞ!!
む、飛び越える!
舌を噛むなよ、ハイやぁ!!
きゃあっ!
おおーっとパッフがソートクにしがみつき――!!
胸が押し付けられてますぅ――
?
しかぁし残念!!
パッフの胸は平原が如し!!
自己主張の手段に乏しかったのですぅ
ちょっとそこ!?
絶対失礼なこと考えてますよね!?
そういう顔してますね今!?
しかし、殿方と乗るのは初めてなんですよね……。
二人乗りって意外と安定するものなんですね……
そういえば、俺は初めて美少女を後ろに乗せているのではないか……
これが姫救出と無縁であれば、どんなに嬉しかったことか……
もうそろそろだ!
この森を抜けたらすぐだぜ!!
そうか、ならばここからは馬を下りて歩くとしよう
近くに見張りはいませんか……?
この道からなら大丈夫だ。
あとは草木に隠れて行けばバレねぇだろうよ
分かった。
道案内、感謝する
へっ、これから国の英雄になろうとしている人間が、一兵卒に気を遣うなよっ!
つうかお前、足治ったのか?
……
え、姐さん、覚えてくれてたのか!?
姐さんて……
お知り合いでしたか〜
城壁の防衛の時にな
へへ……
であれば、この方が我らを兵士長殿に紹介してくれたのですね
何から何までありがとうございます
いいってことよ!!
それより、お前はどこかに身を隠せ
ここから先は勇者一行の仕事だ
本当なら俺も手伝いてぇが……
気持ちだけでいいっての。
お前さんは足を治しな
それと、馬を隠させなければいけません。
ここに来たことを知られる訳にはいきませんので
わかったぜ!
アンタらの無事を祈ってるからな
お前さんもな。見つかるんじゃねーぞ
ありがとな姐さん!
じゃあな!!
良く知り合いだと わかったな
樽型だろうが、バケツ型だろうが、どんな兜をしてても誰が誰だか分かるようになるぜ?
なぁパッフ?
まぁ、騎士団でも一年くらいすれば、顔が見えなくてもわかりますが……
私も含めて普通は、昨日今日会った人間を鉄仮面越しに区別できるものではありません
ゼリィさんはぁ、野生のカンを働かしてるんですよぉ
褒めるときはもうちょっと言葉を選べよ
でもまぁ、『氣』とか『丹田』とかで判断することはあるか……
『キ』?
『タンデン』?
ずぅっと遠くの異国の言葉ですぅ
その人が持っている不可視の力ですねぇ。
魔力みたいなものですぅ
まぁ、大したもんじゃねぇよ
お前さんらにも しっかり備わってるからよ
なるほど……
ならば『氣』とやらを駆使して盗賊相手から、姫を救うとするか……
オカルト的ですね……
ですが今は気を引き締める時です
む、それは……?
お、円錐型の槍じゃねぇか
しかもバンプレート付きの馬上槍仕様ですねぇ
ええ、昨夜なんとか新調しました
本来は馬上でこそ輝くと言われていますが――
私の『ランス・メソッド』は時と場所を選びません――!!
乗り気だな……
普段は真面目で控えめなのに、新しく手に入った武器にテンション上がっちゃってるパッフ愛くるしい……
『ランス・テクニック』で良いのに、あえて『ランス・メソッド』と言ってドヤ顔作っているパッフさん、愛くるしいですぅ
まぁ……集中力が上がるならいいことだ
ふわぁ……
おい、気を抜くなよ。
国王軍が攻めてくるかもしれんのだぞ?
へへっ、こっちにゃ姫がいるんだぜ?
人質にしてる限り手出しできねぇよ
上物の美人だが、俺らも手出しできねぇけどな……
それに、頭目だって今は留守にしてんじゃねぇか。ちったぁサボったってバレやしねぇよ
馬鹿!
頭目は留守だが、アイツらがいるだろ……
げ、そうだった……。
同情はしねぇが、あんなのと一緒にいる姫さんも可哀想なもんだぜ
ったく、頭目もなんであんなのとつるんでるんだ……?
さてな
だが、アイツらが来てからことはうまく進んでいるのも事実だ……
明日にでもまた、タニリタを攻めるらしいぜ
そいつはいいな……
ふわぁ、眠ぃ……
昨日仕事したのに何で今日も仕事があんだよ……
なんだ、お前昨日の生き残り組かよ
生きた心地しなかったけどな……。
途中まではいい感じに攻めれたんだぜ?
なんだったんだ……あのメスゴリラみてぇな怪力剣闘士は……
だが、助かったんだからいいじゃねぇか
う、動きはトロかったからな
あんなところで死ねるかよ――
ならここで死ぬか?
!!??
ここも死に場所としては華やかじゃねぇと思うけど……
き、昨日の……
美少女を動物に例えるなら、小動物が常套――。
ゴリラは以ての外だろう、愚か者
……
……
ひっ……
今際の際の言葉を待つまでも無いですよぉ
だな
気付かれたか?
いえ、まだでしょう
よし……行くぞ、姫を我が手に!!
太陽が大地と垂直になろうとする頃。
四人の人影が洞窟内を進んでいく。
まるで、日の当たらない洞窟の闇に紛れるように――。
静かに、それでいて疾く、だ。
――……