周りからの好奇や不信の目に苛立つヤーコプの様子をちらりと見たルイスは、頬を掻きながら狼へと声を掛けた。

ルイス

まだ見つかんねーのかァ?

向こうがめちゃくちゃな移動をしていますからね。追いつけない――

 狼が言葉を言いかけたと思うと、彼は突然目の前に現れた人影に飛び掛かっていた。人影はもがくでもなく、ただされるがままになっている。ルイスが人影の顔を見てみると、確かにそれは迷子の彼女であった。

ルイス

おっと、アリス

アリス

ああ、ああ、ルイス。それともチャールズ? それともよその誰かさん? こんにちはそしてさようなら。腹を空かした狼が、きっと私を食べてしまうわ

 特徴的な言い回しとどこか節の付いたセリフを歌うように話すアリス。狼はそんな奇抜な彼女にどうしたらいいのかとルイスに目線で助けを呼ぶ。すると、ルイスは無言でマッドハッターを手招きする。

マッドハッター

ああ、帰る時間なのですね。お茶会を途中で抜け出してしまいましたから、非常に助かります

アリス

お終いなのね。私はとっくに帰る時間だから。それじゃあまた今度、不思議の国にいらっしゃい。余所行きの服を着て、お家へお邪魔するわ

ルイス

正直な話、お前さんにゃァ少し落ち着いてて欲しいんだがな

 ルイスがやれやれと肩を竦めて本を開くと、アリスとマッドハッターは淡い光を纏って消えてしまった。そうして、自分の本にあの美しい挿絵が戻ったことを確認したルイスは大きく伸びをしてヤーコプの方を向いた。

ルイス

グリム兄、いやァ助かったぜ。オレはまともな奴らを持っちゃァいねェんでね

ヤーコプ

その辺はお互い様だろう。ほら、帰れ狼

私に報酬や労いは無いのですか?

ヤーコプ

帰れ

非情め


 

ヴィルヘルム

お帰りなさい、兄さん。

ハンス

無事、アリスは見つかりましたか?

ヤーコプ

ああ、狼の野郎もたまには役に立つ

 ヤーコプがそういうと、ヴィルヘルムは成程ね、と笑うとルイスの方をちらと見る。見た様子から、彼がまだチャールズではなくルイスなのだと理解した彼はすっと無言で自身の本を振りかぶろうとする。その動作に、ルイスは全力で首を振りながら後ずさった。

ルイス

荒っぽいマネはやめて欲しいなァ! 殴られる前に退散すッからよォ!

 そういうと、ルイスは椅子に座り、そのまま頭を力なく落とす。その動作にヤーコプは不満げに本を置くと、ハンスを睨んだ。

ヤーコプ

消化不良だ、殴らせろ。素手でいいから

ハンス

ふぇ、ふぇええええ!?

ヴィルヘルム

兄さん!

 そんなやりとりに、ルイス――チャールズは目を擦りながらきょとんと彼らのやり取りを見る。ハンスは今がチャンスとばかりに「お茶淹れ直します!」と立ち上がって逃げてしまった。

ヤーコプ

チッ

ヴィルヘルム

舌打ちしないの!

チャールズ

す、すみません、ご迷惑を……

ヴィルヘルム

いやいや、チャールズさんのせいじゃなくて、うちの兄の性格が悪いのがいけないんですから!

ヤーコプ

ああ?

 今にも喧嘩が始まりそうなこの空間に、本来の家主であるハンスは戻ることも出来ず無心でお菓子を作り始めていたのだとか。

第一話 了

第一話 ⑥ 童話達は帰りゆく

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