森を駆け抜けてやっとの思いで辿り着いた泉で王女は、危機に直面していた。
誰だ
……
森を駆け抜けてやっとの思いで辿り着いた泉で王女は、危機に直面していた。
恐る恐る振り返るとそこには、
……
警戒心むき出しの男が木の枝を王女の背中に向けながら立っていた。
盗賊の類だったらと恐怖していた王女は拍子抜けしてしまった。
青年だわ。わりとフツーの
歳の頃は王女とそう変わらないようだ。こんな優男と森で遭遇するとは思っていなかった。とりあえずこの人の警戒を解かなければ。
怪しい者じゃないわ。
そして王女は道に迷ったこと、水を探し求めてここまでたどり着いたことを青年に説明した。自分が王女であることはなんとなく言わない方がいいかと思い、「お絹」と名乗ることにした。
私はお絹。あなたは?
……
青年は思った。
どう考えても怪しいだろ、と。
身なりからして恐らく村里の人間ではなさそうだということくらいは青年にもわかった。
もとは美しかったのであろうことが伺える裾の長いドレスが、泥や木の枝でひどく汚れていた。髪にも土や葉が付き、汗で乱れてしまっている。
何か事情があって偽名を使っていことは容易に想像できた。だが、もうすぐ日が暮れる。
こんな身なりの人を夜の森に置き去りにするのは、気が引けた。
しかし、青年にも本名を告げられない事情があった。
どうしよう
センスの良い偽名が浮かばない。
青年は、森でいきなり偽名を名乗るほどの気転の良さは持ち合わせていなかった。
一つ、思いついたが正直”お絹”よりセンスが悪い。
信じるかな…
しかし偽名で迷っていては日が暮れてしまう。思い切って名乗ることにした。
お、俺の名前は
名前は?
と、とめ蔵、です///
……
……
そう。とめ蔵ね。よろしく♪
信じたのか……
こんな雑な偽名をあっさり信じるなんて、どこかのお姫様とかじゃないよな。まさかそんなわけないだろ俺っ。それこそ一大事だわ…。
泉を後にして再び森を歩きながらとめ蔵は、後ろをついてくるお絹が人を信じすぎる件について心底心配していた。なぜなら、そういう人を一人、とめ蔵は知っていたからだった。
それは、遠い記憶…。
しかしとめ蔵は、その記憶を早々に思い出すことになる。
そこは深い海の底、竜宮城。
美しい魚が泳ぎまわっている。
あ~ヒマひま。暇だな~
乙姫(♂)もまた、暇を持て余していた。