少し幼さの残る顔に笑みを浮かべて、サキエルがやってくる。
司長様、何か御用ですか?
少し幼さの残る顔に笑みを浮かべて、サキエルがやってくる。
ああ、少し話があってな
私は長いすに座ったまま、近くに来た彼を見上げた。
彼のサラサラとした金髪は穏やかな風に揺れ、赤い瞳は陽の光を受けて煌めいている。
その綺麗な顔立ちに、私はなんとなく視線を逸らすと隣の席を彼に勧めた。
彼は礼儀正しく一礼すると隣に座る。
ここは空中庭園でも幹部クラスしか入れないプライベートスペース。
天からは柔らかい光が差し込み、穏やかな雲がゆっくりと流れている。
円形に植えられた桜の木には花が咲き乱れ、時折強く吹き付ける風に、小さな花びらは雪のように舞っていた。
独り暮らしには、もう慣れたか?
私は庭園を見ながら、ゆっくりと話し始める。
はい、少しずつですが……。
必要な物は全て揃えていただきましたので、とても助かりました
そうか。ほかにも何か困ったことがあったら、遠慮無く言ってくれ
はい、司長様
それから……その、なんだ……
もどかしさと恥ずかしさ、そして躊躇いがない交ぜになって、言葉がうまく出てこない。
はい。なんでしょうか?
そんな私を、彼は疑うことのない意志の強い瞳で見つめてくる。
できれば、そのだな……司長としてではなく、友人として頼ってくれると嬉しいんだが……
ぎこちない笑みを自覚しながら、それでも私は嘘でないことだけは伝えようと、彼へと顔を向ける。
すると視線の先のサキエルは、少しだけ困ったような笑顔を浮かべ——
すみません
と、消え入りそうな声で言った。
……謝るのは私のほうだよ
小さく溜息をつきながら、私は一面に広がる空を見上げる。
司長様?
そんな私に、サキエルが心配そうに声を掛けてくる。
しかし、私は振り向くことなく話を続けた。
サキエル。私は……
今から私は、彼を奈落の底へ突き落とそうとしている。
しかし、私が絶望という名の刃をサキエルに向けようとした時、庭園内に警報とともに暑苦しい男の声が響いた。
ミカエル、すまん!
厄介なヤツを起こしちまった!
目の前の空間に情報フレームを展開すれば、そこにはケルベロスの群れが映し出されている。
まったく……あいつは、いつもいつも……
私は苛立ちながらも、どこか安堵している自分に気付いて内心呆れた。
そして、それを誤魔化すように司長としての顔をつくると、サキエルへと振り向いた。
悪い、サキエル。話は、また今度にしよう
あ、はい。わかりました
ありがとう。それでは失礼するよ
今度とは、一体いつのことだろう……。
サキエルを背に庭園の出口へ向かいながら、私は自分で言ったその言葉を、どこか他人事のように感じていた。