早朝の肌寒い空気の中、目の前を何台もの車が通り過ぎていく。

 僕は、手にした缶コーヒーの温もりを感じながら、コンビニの駐車場で溜息をついた。

早樹(サキ)

はぁ……

 隣では黒ずくめの鳥たちが、ギャーギャーと喚きながら我先にとゴミを漁り、大きな翼を広げてはザラついたノイズを響かせる。

早樹(サキ)

クソッ! なんで、こんな事に……

 僕は缶コーヒーを握りしめながら、うるさいカラスどもを睨みつける。

 しかし、奴らは食事に夢中で気づかず、そのことに僕は怒りを覚え——

早樹(サキ)

あ……

 潰れた缶から漏れ出た生暖かいコーヒーが、両手を黒く濡らしていく。

 僕は、その感触に昔のことを思い出す。

早樹(サキ)

……すまない……か

 ふと浮かんだ親友の短い言葉。

 手を拭き、ゴミ箱に空き缶を放り投げるが、カラスはひょいと避けるだけで再びゴミを漁り出す。

 きっと、彼にもいろんな想いがあって、僕の独りよがりな望みなど届かないのかもしれない。

 そんな、すれ違いのような寂しさに再び溜息が漏れる。

 彼の伝えたかったこと、僕の望んだ答え。その両方を何度も考えるが、そのたびに思考は彷徨い、ぐるぐると渦を巻いては闇の中へと落ちていく。

 その繰り返しにうんざりしながらも、それでも僕は考えずにはいられない。

 それは彼の……いや、僕らにとって大切な……。

早樹(サキ)

………………

早樹(サキ)

……?

 そんなまとまらない思考を断ち切ったのは、やる気のなさそうなコンビニのチャイムだった。

 続いて背後の自動ドアが開いて、一組の男女が出てくる。

 女のほうはピンクの髪を大きなリボンで結んだ小柄な少女。

 そして男のほうは、黒髪黒服で長身痩躯の……。

早樹(サキ)

……琉史?

 思わず呟いた名に男は振り返り、そして——

琉史(ルシ)

ぷっ、ふはははは!

 いきなり笑い出した。

早樹(サキ)

なっ⁉ なんだよ! いきなり笑うことないだろ? こっちは、凄く心配したっていうのに……

琉史(ルシ)

悪い悪い。いやー、まさかこんなタイミングで見つかるとは思っていなかったからさ

 こっちの気持ちなど知らずに笑いを堪える琉史から目をそらせば、そこには見知らぬ少女が無言で首をかしげてこちらを窺っている。

???

……?

早樹(サキ)

……?

琉史(ルシ)

ん? この子か? 俺もさっき会ったばかりで名前も知らないんだが、変な奴等に絡まれててな

 少女がペコリと軽く頭を下げると、それにつられて大きなリボンがふわりと舞った。それは朝日に照らされ、蝶のように柔らかな光を反射する。

 次の瞬間、僕の横を生臭い風とともに黒い影が通り過ぎ、それは少女の頭上目がけて黒光りする爪を振り下ろす。

???

きゃっ⁉

 驚いた少女は慌てて逃げ出す。

 しかし、その方向には、今まさに大型トラックが向かってくる道路があった。

早樹(サキ)

危ない!!!

 叫び掴んだ彼女の腕を引き寄せれば、胸に転がり込んできた彼女が何かを呟く。

 その小さな唇から紡がれた音は叫びのようで、しかし、どこか懐かしい歌声のようでもあり……。

早樹(サキ)

!?

………………………………。

……………………。

…………。

 そして気がつけば、僕の世界は完全なる静寂に包まれていた。

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