ピンポーンという、間の抜けたチャイムとともに、客は店の外へと何も言わずに出て行く。
ピンポーンという、間の抜けたチャイムとともに、客は店の外へと何も言わずに出て行く。
ありがとうございましたー
僕は誰もいなくなったコンビニの店内から外へ、一面ガラス張りの壁の向こうへと視線を向ける。
そこには通りを挟んで様々な建物が並び、空にはさっきまで雨を降らせていた雨雲がうっすらと広がっていた。
遠くから雲は徐々に薄くなり、雲間からは幾筋もの光が地上へと差し込んでくる。それは天に続く廻廊のようで……。
……
ほとんど客の来ないコンビニで僕は、そんな空をぼんやりと見上げていた。
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…………。
相変わらず暇そうだな、早樹
落ち着いた声とともに、銀髪の長身痩躯が店内に入ってくる。
少し近寄りがたいほどの冷たい雰囲気を身にまとった彼は、学生服を着て、その大人が子供の服を着ているような違和感に、僕は少し居心地の悪さを感じた。
深架こそ、学校帰りに鶫ちゃんとデートか?
彼の隣には、ピンクの髪と後ろに結んだ大きなリボンが印象的な、その名のとおり小鳥のような少女がいた。
……
そんなわけないだろう。鶫の学校へ球根を届けたついでに一緒に帰ってやってるだけだ
鶫の家はフラワーショップで、深架をそこで住み込みのアルバイトをしている。
……
?
深架のそっけない返事に、隣の少女は頬を膨らませて抗議の表情を向ける。
しかし、深架は何でそんな顔を向けるのかと鬱陶しそうな視線を向けるだけだった。
……
鶫は深架の態度に諦めの表情を作ると、こちらへとやって来てレジの隣にある蒸し器に入った肉まんを指さした。
下校途中の買い食いは校則違反じゃなかったっけ?
……
意地悪で言ってみた僕に、鶫は無言で悲しそうな表情のままじっと見つめてくる。そう無言で……。
……
彼女は話せない。失声症と言うそうだが、昔大きな事故に巻き込まれたとかで、それ以来、彼女は自分の声を失っていた。
おまえと鶫は似てるよ
ふと、そんな琉史の言葉が脳裏をよぎる。
そうかもしれない。僕は鶫に自分を重ねているのかもしれない。
……おい、早樹。いい加減にしてやれ
……?
深架の呆れるような声に、我に返って前を見る。
……
すると、そこには指をくわえて肉まんと俺を交互に見つめる鶫の顔があった。