下校途中のファンテを見つけ、俺はじいさんとばあさんにファンテを迎えに行くよう言われた事を告げた。するとファンテは大笑いする。
下校途中のファンテを見つけ、俺はじいさんとばあさんにファンテを迎えに行くよう言われた事を告げた。するとファンテは大笑いする。
本当は立場が逆なのにね
それは俺も思った
俺もははと笑い、ファンテと並んで歩き出す。ファンテとこうして、普通に肩を並べて歩くなんて、今までそんなになかったので、妙に新鮮な気持ちだ。主従とは言わないが、守られる者と守る者という立場だからな、俺とファンテは。
今日、陰気女は学校来てなかったんじゃない?
桐原って言えよ。ああ、彼女はいなかった
だと思った。保健室をちょっと覗いてみたら、誰もいなかったから
牧野もいなかったんだろうか? まぁ、牧野の事はどうでもいい。保険医だからと、常に保健室に詰めてる訳ではないだろう。
俺は本当にとんでもない事をしたんだな
少しは頭が冷えた?
冷えた
ファンテはそれ以上を言わなかった。口にせずとも、早くこの町を去りたいと、態度が告げていた。ファンテにとっても居心地が悪くなったんだろう、この町が。
あまり身勝手に動いて、ファンテに負担をかけるのも申し訳ない。彼女の言うとおり、少しおとなしくしておこう。
今の俺は、桐原に懺悔する事と、ガーネットからもっと詳しい事情を聞き出す事を何より優先しなければならない。俺は事実を知らなければならないと、ガーネットを見て思うのだった。
そういえば学校でね
ファンテから学校の話題が飛び出すのも珍しい。
学校で、あのうるさい女の噂が飛び交ってたよ。夜な夜な夜遊びをする不良だったとか、上級生にもちょっかいを掛けてくる無神経だったとか
美晴は気が強かったからな
そういう気の強さが、今回の事につながったんじゃないの? 美晴が怪我してた時、怪我なんか気にしないで、あんたに出会う前にさっさと帰ってれば、とか考えちゃうんだよね。あんたが血のにおいにつられなければ、あの女が傷をハンカチで押さえてればって
確かに、血のにおいに酔ったのは、美晴の怪我のせいだった。だけど俺に吸血欲求が現れるなんて、そうそうあり得ない事じゃないか。あれはどういう理由があったんだろう?
あんた自分で言ってたじゃない。俺もヴァンパイアなんだって
それはそうだが、俺はあの少女の時以来、吸血欲求が現れなかったんだ。それが何年も立った今頃突然湧き上がるなんて。
美晴の話はもういい。俺はますます自分を責めたくなる
ごめん、エンリケ
ファンテはそれきり黙りこんでしまった。ファンテだって、俺のせいで随分精神を摩耗させてしまっているんだろう。ファンテを必要以上に消耗させたくない。
ファンテ。明日、桐原が学校に来なかったら、直接呼び出してみるよ
そうだね。一日でも早い方がいいと思う
俺はファンテと約束し、じいさんとばあさんの待つ棲家へと戻った。
夕飯時というには少し早い時間。俺は学校の課題をしていた。その時、家の電話が鳴り、受けたばあさんが俺を呼んだ。
エン君。この前の子だよ
美晴!? い、いや。桐原か。驚いた
俺は受話器を受け取り、桐原に話し掛けた。
お待たせ。桐原から電話を掛けてくるなんて珍しいな
ええ、わたし……どうしていいか分からなくなってしまって
桐原は少し泣いている様子だった。
どうしていいか分からないって?
美晴の事。仲直りする前にこんな事になってしまって、わたしは出来の悪い姉だって自分を責めてしまって、本当にどうしていいか分からないの
桐原が自分を責める必要ない。これは……通り魔のせいだろ
俺のせいだとは言えなかった。
桐原に懺悔はしなくちゃならないが、電話なんてお手軽なもので済ますなんて、あまりに桐原や事態を軽視してるし、許されない事だ。
明日は学校に行くわ。ダミルア君、話を聞いてくれる?
もちろんだよ。俺に話して桐原の気が晴れるなら
美晴……ぐすっ……美晴ともっと早く話をすれば良かった
受話器の向こうの桐原が泣いている。そして何度も美晴の名を口にした。
明日、か。桐原に正体を証し、懺悔したら、桐原はどういう顔をするだろう? 俺は責められても文句は言えない立場だが、それでも桐原に許してもらいたい。甘ったれた事を言うが、桐原に嫌われたくないんだ。
子供の頃から一緒に過ごしてきた美晴そのものの記憶は消せないが、まだ出会って間もない俺の記憶なら消せる。懺悔して、記憶を消す事が、一番いいんだろうが……それもやっぱり卑怯な気がする。
俺が許される事はないのか……。