ケンスケ

 『幸せ』とはなんだろうか

ケンスケ

 『幸せ』とは、『特別』であることだと、僕は思う

ケンスケ

 何かにとっての『特別』。
 誰かにとっての『特別』。
 何かを『特別』に思うこと。
 誰かを『特別』に思うこと。
 それはとても幸せなことなのだ

ケンスケ

 しかしそれは悲しいことに、『不幸』と表裏一体でもある

 ならば。

 それならば、僕の母さんはどうだったのだろう?

 僕にとってはとてつもなく、この上なく憎い親父。

 しかしそれでも、母さんにとって親父は特別な存在だった。

 息を引き取る直前まで、母さんは親父を信じていた。

 愛していた。

 ならば、

 ならば僕の母さんは、

 死ぬまで幸せだったのか――?
 

ケンスケ

 ……そんなわけ無いだろう

 朝である。

 イラっとした目覚め。

 こんなモヤモヤした朝は久しぶりだなぁ、と目覚まし時計を見る。

ケンスケ

 ぃやっべぇ~……
 朝食作るの忘れてた!

 現在時刻は6:55。

 姉ちゃんの起床時刻は7:00。

ケンスケ

 殺されてしまう……!

 姉ちゃんは低血圧オブ低血圧なので、朝はとんでもなく機嫌が悪いのだ。

 僕は急いで部屋を飛び出し、廊下を駆ける。

 ……と、そこで

 と、味噌汁の香りが漂ってきた。

ケンスケ

 なんやこれぇ……めっちゃ良い匂いするぞこれぇ……

 しかし、これはおかしい。

 何故なら姉ちゃんが料理を作るわけがないからだ。

 ……というか、姉ちゃんは料理が壊滅的に苦手だから、作らない。

 姉ちゃんが料理当番の時はコーンフレークオンリーとなる。

ケンスケ

 ……え、じゃあこれ、誰が作ってんの……?

 そう思いつつリビングを開けると、

縫姫

 あ、おはようケンスケ君

ケンスケ

 幼女が朝食を作っていた

ケンスケ

 そうだった……昨日、水晶を蹴っ飛ばしたらこの縫姫ちゃんとやらが出てきたんだ……
 完全に忘れていた……

 姉ちゃん曰く、僕たちの妹。

 義理の、妹。

 水晶から出現したとかいうファンタスティックな現象については、

 さあ?
 そういう体質なんじゃないですか?

 とか首を掻き毟りたくなるほどテキトウに流されてしまった。

 そういうもんなのか?

ケンスケ

 ……というか、どうして縫姫ちゃんが朝食を作っているのだろう……

 確か昨日は、気を失ったままの縫姫ちゃんを、姉ちゃんが自室に連れて行って寝かせていたような気がするが……

縫姫

 どうしたんやケンスケ君。なんで固まっとんの?

ケンスケ

 あれ!? なんかこの子めっちゃ訛ってる! 意外~!

 そんな風に戦慄する僕を不思議そうに見つめつつ、縫姫ちゃんはお椀を手にしてちょこちょことキッチンから出てくる。

縫姫

 朝ご飯の用意できたで、炬ちゃん起こしてきてくれる?

ケンスケ

 お、おふ、おうふ。
 わか、分かったよ

 やばい、完全に流されつつある……と実感しつつも、僕は縫姫ちゃんの言われた通り、姉ちゃんを起こしてリビングに戻る。

縫姫

 よし、皆揃ったなー

 縫姫ちゃんは僕と姉ちゃんがテーブルにつくと、元気に両手を合わせていただきますをした。

 ……眠い……まじ……眠い……です
 朝は……ダメです……朝は……敵です……

ケンスケ

 おい姉ちゃん、そんなこと言ってる場合じゃないって。
 結局この子は何者なんだ?
 どうして朝食作ってるんだ?
 というかなんで僕の名前まで知ってるんだ?

 ……朝からうるさいですねぇ……死にますか?

 と、姉ちゃんは箸を僕の口に差し込んだ。
 
 先端が喉元に触れる。

ケンスケ

 ご、ごめんなひゃい……

 様々な疑問は学校から帰った後に解決しよう。

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