宗冥という黒狐の妖力を辿るとこの辺りだと言うマキノさん。辺り一面荒れ地だ。
 荒れ地の中で一本だけ立つ木が見えた。その近くに人影が。もしや!

「ずいぶん遅かったじゃないか。寄り道でもしてたのかい?」黒い耳と尾がついた男が言った。どうやらこの人が宗冥みたいね。
 宗冥の後ろに隠れて咲さんが私と目を合わせないようにしてる。
「咲さん!帰りましょう!」

「おや、帰る予定なのかい?」と宗冥が咲さんを見下ろして言う。
「帰らないわよ」とぼそりと言う咲さんの声がきこえた。
「だろうねぇ。帰れないよねぇ」
 宗冥は春雷君に目をやり「とっとと済ませようか」と言い手から黒い火の玉を発してこちらに放ってきた。

 マキノさんの大きな狐が庇ってくれて怪我をせずにすんだ。
「どどどどうして私たちを狙うんですか!?」
「狙いはおそらく春雷様でしょう」とマキノさん。
「ちょっとあなた!子供いじめるんじゃないわよ!大人げないわよ!」
「香穂さん隠れててください!」

「威勢のいい人間の娘だこと」
「やめろ!香穂たちを傷つけないでくれ!」と蓮夜さん。
「傷つけるつもりはないさ。ちょうどいい、皆そろったことだし最後の別れの挨拶でもする時間をやろう」

 最後の別れの挨拶ですって!?まるでその後皆殺しにするような口ぶりじゃないの!

 蓮夜さん、リクさん、奏さんがこちらに来た。
「香穂、どうして来たんだ」蓮夜の口調がきつい。
「だって蓮夜さん、なにも言わず行っちゃうんだもの。もう会えないかと」
「ああ、あれはいつ帰れるか定かではなかったから」
 はあ!?
「ちゃんと言ってくれなきゃわからないじゃないですか」
 ほんとにもう会えないかと思ったんだから!
「マキノ、今すぐ香穂と春坊を連れて戻るんだ」とリクさん。
「待ってください!」今言わないと絶対後悔する気がする。みんないるけど、ええい!そんなのどうでもいい!

「蓮夜さん、私、蓮夜さんのこと」
 一同息を呑んで見守る。言うのか、ここで言ってしまうのかという空気だ。
「来世でもそのまた来世でもずっとずっとあなたの味方ですから!」

 ・・・

 私の言葉が予想外だったのかみんな黙ってる。
 向こうで咲さんのぷっと笑う声がきこえたような気がした。

「香穂、なに言って」
 私は蓮夜さんの言葉を遮って「たとえ蓮夜さんの心の中に誰がいようと私はいつもあなたの幸せだけを願ってます」
 これでいいんだ、これで。

 蓮夜さんはしばし黙考した後「香穂は俺のことが好きなのか?」
 私は顔が熱くてたまらず俯いてこくりと頷いた。人生初の告白が異世界で、しかも相手は妖狐。結ばれないならこれが精一杯の告白だ。私に素敵な時間をくれた人だもの。幸せになってほしいじゃない。

 蓮夜さんは私の頭にぽんと手を乗せ「ありがとう」と優しい声で言った。
 俺――とその先をきくことなく、蛇女がものすごいはやさで春雷君を奪い去っていく。
「春雷!」蓮夜さんが血相変えて叫ぶ。
「春雷君を傷つけないで!」私も必死に叫んだ。

「こんなちっちゃい狐にとんでもない力があるとはね」とじろっと春雷君を見る蛇女。
「ちょっとはやくこっちに渡しなさいよ。あんたを牢獄から出してあげたんだからそれでチャラでしょ」と咲さん。
 はいはい、と言い蛇女は春雷君を宗冥に渡した。
「いい子だねぇ。なにも怖いことはないからね」と宗冥。
 春雷君は宗冥をじっと見て黙ったままだ。
 宗冥が春雷君の額に手をやる。

「やめろおおおおお!!!!」蓮夜さんの張り裂けそうな声に呼応するように春雷君が光り出した。
 宗冥はその光をものともせずにやりと口角を上げる。そばにいた蛇女は気絶してしまった。
「最初から協力するつもりなんてなかったようね」と咲さん。
 咲さんは春雷君と宗冥を囲っていた金色の風に飛ばされてこちらに転げてきた。
「香穂、今こんなこと言うのも変だけど、まだ私のこと信じてくれる?」
「咲さんは私の味方ですよね」
「もちろん!私ね、もう一つ隠してた力があるの」
 そう言うと咲さんは片手を空に向けて稲妻を引き起こした。
 大きな稲妻は春雷君と宗冥に向かってる。すると咲さんは青白い渦を出して「さっきの、来世でもって蓮夜に言った言葉、あなたらしいわね!」そう言うと渦の中をくぐり宗冥の頭上に移動した。

「私が力を授かったのはこのときのためなのかもしれない」
「私を葬るためかい?」
「そんなことするわけないでしょうが!」
 よくきこえないが咲さんと宗冥がなにか話してるようだった。
 宗冥が黒い火の玉を出す。さっきよりも何倍も大きな火の玉だ。
「春雷、もう我慢しなくてもいいのよ。あなたの望むままにやりなさい」
 すると金色の光は大きくなり宗冥の黒い火の玉と入り混じり、辺り一面暗くなり金色の光の粒が降り注いだ。

 私も蓮夜さんもみんな宙に浮いて春雷君を囲う。気絶した宗冥のそばには咲さんがいた。
「香穂、そろそろお別れのときがきたみたい」

 突然すぎて思考が追いつかなかった。

26話 咲さんの目的とは

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