呆然としたまま電話をきり、脳みその情報を懸命に整理し始めた。

どうしました?

 サンザシがのぞきこんでくる。

トウコは、桃の子って書くんだって。桃の子なんて、ひとつしかない

 確定だ。

桃太郎だろ、この物語

 俺の答えに、サンザシはにこりと満足そうに微笑んだ。

正解です! クリア条件は、ご察しの通りかもしれません

 桃太郎は、鬼ヶ島に行き、宝物を取り返す物語だ。

宝物、つまり、ディスクの、奪還

その通り、です

 話している間も、するすると謎が解けていく。

 桃太郎の護衛は、四匹ではなく三匹だ。この状況は、おかしい。

 おそらくだが、あの中に鬼がいる。

名前がヒントだったんだ。他のやつらもそうだろ。縁、ケンケン、ケン、キサラギ……

 ほつれていた糸が、勝手にほどかれていくように、鮮やかに、あっさりと謎が溶けていく。

ケンは、犬だ。縁は、猿だ。両方、漢字の音読みだ……ケンケン、憲二は……

 音読みは違う、犬も違う、犬と猿は確定、残るはキジだ。キジ、キジ……。

 頭の中を、キジが飛び交う。

 そして、鳴く。

……おいおい、さっきの会話は、偶然か? それともサンザシが仕組んだのか?

偶然、ですね

たいした役者だね、サンザシ……そして俺も、強運なんだか、なんなんだか。

サンザシ、キジの鳴き声は

 サンザシが、楽しそうに笑う。

ケーンケン、ですね

憲二、あいつがキジだ。

……そんで、キサラギは二月

 すべてが繋がった、そのとき、インターホンが鳴った。

 俺は、誰が来たのか確認もせず、ダッシュで玄関へ急ぐ。

 扉を開けると、そこには鍋を持った姫様がきょとんとした表情で立っていた。

ど、どうしましたか、そんなに勢いよく。おなかがすきました、か?

 姫様を凝視する。

 ピンク色の――桃色の髪の毛だって、ヒントだったのだ。
 そして、姫様というあだ名はミスリード。

 ゲームマスターも、粋なことをしてくれる。

おなかがすいたけど、その前に桃子さん。ひとつ答えてくれ

は、はい。なんでしょう

二月の行事と言えば?

 眉を潜めながら、しかし姫様は、律儀に答えてくれた。

豆まき、ですね

……ですよね。突然すみません

あ、いえ、カレーを作りました。もしよろしければ

 おずおずと差し出される鍋を、静かに受けとる。

お米も炊いたんです。またすぐ、持ってきます

ありがとうございます。何から何まで

いえ……あの、大丈夫ですか? 顔色があまりよろしくないですが

大丈夫、大丈夫です

……何かあったら、いつでも言ってくださいね。では、すぐに戻ってきます

 不安そうな表情でその場を去った姫様の背中を見ながら、俺はどうやってディスクを取り替えそうか考えていた。

 犯人は確定だ。

キサラギ。二月。二月の行事、豆まきの主役は……鬼だ。そうだな、サンザシ

 サンザシは、俺から鍋を受け取って、ええ、と満面の笑みを浮かべた。

そういえばあいつ、俺に情報を探ってきたな……今考えれば、あれは敵の行動だったのか。

俺がもしディスクの情報を少しでも聞いて、うっかり話していたら……

 つまり、姫様の警戒心が吉と出たことになる。
 しかし、犯人が仲間側にいたとは。

さあ、いよいよ大詰め、ですね

 犯人が分かった上で、怪しまれないようにディスクを奪還なんて、そんなこと、できるのか?

作戦をたてようか、サンザシ

そうですね! お米が来たら

 うーん、どこまでも気楽、我がサポーター様。

 ま、変に真剣にされるより、心が楽になることは確かだけれど。

1 秘密のディスクと不思議な姫様(7)

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