王子、抜け出す〈1〉
王子、抜け出す〈1〉
アロン〜!今日こそ行こー!
……どこにですか、ハルト王子
どこって決まってんじゃん!この前出来た遊び場だよ〜!
ハルトは、どうしても隣の国にオープンしたビリヤード場に遊びに行きたいらしい。アロンとしては、王子の息抜きを全てにおいて否定しているわけではないが、年齢を重ねるごとに軽率な行動は自然となくなっていくだろうと期待している。なので、自分の期待に反した行動をとる王子に、疲れてしまうのであった。
アロンは読んでいた本の栞の場所を変えるとパタリと閉じて、椅子に座っていた腰を上げ、ハルトに向き直った。
ハルト、遊ぶなとは言わない。だが、王家の人間が気軽に市民の場に出歩くのは、もうそろそろ控えたらどうだ?
ええ!?アロンってそう言う考え持ってる人だっけぇ?今まで別にフツーに遊びに行ってたじゃん!それにイマドキ、王子が町中ウロウロしてたって、誰も不思議に思わないって
そういう問題じゃない。前も言ったが……。この世は平和だが、悪が完全に途絶えた訳じゃ無いんだ。拐われる危険性だってあるんだぞ?
だからーっ、アロンも一緒に行こうって
そう、惑星ウグディアは確かに平和な惑星である。ただ、犯罪が0と言うわけではない。犯罪のレベルは荒れ果てていた時代に比べれば、大したことないものにまでなってきているが、やはり人知れず盗む者や騙す者はいるのだ。そういう悪に対抗するため、武力に変わる、自衛のための集団は各国存在する。その集団は、悪に対抗するだけでなく災害に備えての集団でもあり、常日頃鍛えている強者が在籍しているのだ。実はハルトの国のその集団の指南役たちの中に、拳や足を使う武道の使い手としてアロンが居る。つまりアロンは素手でもめちゃくちゃ強い人と言うことである。
王子はと言うと……強くなるに越したことは無いが、本人はあまり興味はない上に、アロンが守れば事足りていたため、その状況に甘んじてしまい、全くもって強くない。だが、王子はこの惑星ウグディアにかつて存在していた、『妖精』という種族の血を受け継ぐ混血の人間のため、純血の人間には使えない『魔法』が使える。しかしその『魔法』のこともあまり真面目に勉強していない。アロンが王子に関してそう言った分野で褒めることが出来たのは、逃げ足が速いことだけであった。
(『妖精』と言う種族の血が惑星における一部の王族の証明であることの差別的概念や、血は非常に薄れており最早『魔法』の存続が危機に瀕していることの詳しい話はまた別である)
さ、行こー!
いつものノリで行けば、アロンは付いてきてくれるだろうと踏んでいたハルトは、部屋を抜け出しさっさと廊下へ出た。しかし、後ろを向いてもアロンが付いてこなかったので、もう一度戻ってアロンに話しかけた。
行かないの?
……ハルト。もうそう言うのは辞めにしないか
ええっ、なんで……急に
急じゃない。いつかは止めないといけないと思っていた、それがたまたま今日だっただけだ
いいよ〜、じゃあ俺一人で行くからさ〜
そう言うわけには行かないぞ。護衛にはすぐに話を通す。抜け出してもすぐ捕まえる。万一護衛が追いつかなくても俺が捕まえる
ええ〜!ちょっと待ってよ!急に厳しすぎない!?
ハルト、王が存命の間に、もっと時期王であることの自覚を育んで、もっと勉強に打ち込んでくれ。お前ももうすぐ18だ。結婚の話だって、予定通りに進めばお前が20になった歳に執り行われる。結婚すれば後継の話だって出てくるんだ……
ハルトは、そんな心の準備などしていなかったし、クロエ姫との結婚も、どれだけ色々な人物に聞かされても現実のものだと思えなかった。ハルトはギュッと心が締め付けられる思いがして、思わずその場から逃げた。
うるさいっ!俺の人生は俺が決めるんだーっ!
ハルト!!
アロンはハルトがその調子のまま城から逃げ出すものと思い、慌てて後を追っかけて行ったが、ハルトは城の外に行くことなく、自室がある上階の方へ階段を登って行ったので、追いかけるのをやめた。
ふぅ……分かってくれ、ハルト……
〈つづく〉