奏多

夢が知ったら、どう思うかね?


 私の耳元から顔を上げた奏多は、そう言ってニコリと微笑んだ。

奏多

もう、一緒にいられなくなるかもね?


 奏多の言葉を聞いて、私の背中にジワりと汗が滲み出す。

奏多

優雨だって、あの男が邪魔なんじゃない?

優雨

……

奏多

あの男を夢から遠ざけてくれるなら……。夢には、黙っててあげるよ?

優雨

……っ

奏多

あぁ……。勿論、夢には今まで通り優しくしてあげる。あの男が邪魔しないなら、ね

優雨

……

奏多

悪い話しでは、ないはずだよ


 私の肩にポンと手を置いて微笑んだ奏多は、再び私の耳元に顔を寄せると、

よろしくね、優雨

と言い残して立ち去って行った。

 ーーーーーーー


 ーーーーー

いやぁー。こんな美人さんに呼び出しされるとは、嬉しいね~

 目の前に立つ男は、金髪に染まった髪を風に靡《なび》かせてニコニコと微笑んだ。


 私は、隼人という男を学校の屋上へと呼び出したのだ。
 昨日、奏多に言われた事を実行する為に。

優雨

あなたに、お願いがあるの。夢には……もう、近付かないで

……はっ?

 突然そう切り出した私に、驚く隼人という男。

……なんで?

優雨

奏多が怒るから


 怪訝そうな顔をして質問してくる男に、私は真っ直ぐ見据えてそう答える。

はぁ……。そんなに奏多って奴が大事なーー

優雨

違うっ! 私は、夢の為に! 夢がっ……っ! ……奏多が怒ると……夢が怖い思いをするからっ……!


 言葉を遮って声を荒げる私に、一瞬驚いた顔を見せた男は一度大きく溜息を吐いた。

……夢ちゃんの為、ね。……わかったよ。けど、何かあったら、俺は迷わずに助けに入るからね?

優雨

っ……ありがとう

うん……。だからさ、頼むから泣かないでよ

 そう言われて、初めて自分が涙を流している事に気が付く。

 私は頬に流れる涙をそっと拭うと、これで夢を守る事ができたのだと、心から安堵した。

 ーーーーーー


 ーーーーーーー

pagetop