――翌朝、修練場。

シェルナ

それじゃ始めるけど
なんか思ったより
人数多くない?

ハル

まぁ~まぁ~
気にしなくっていいっす。

ランディ

ってかそりゃ
教える側が言う事だろ。

ジュピター

オイラ達も
シェルナの棒術見たくてな。
いいだろ?
邪魔しないからさ、多分……。

 ジュピターは騒がしくしそうなハルを見てから、語尾を濁らせた。



 そう、今日は探索を休みにしている日で、シェルナの棒術の極意を習おうと何人か集まってきたのだ。

ツバキ

シェルナさん、
よろしくお願いします。
すっごく楽しみです。

メナ

よろしくお願いします。
上手く出来ないかもしれないけど
頑張ります。

ハル

自分も頑張るっす!

ジュピター

はいはい、分かったから
メナ達の邪魔すんなよ、ハル。

 事の発端は、メナと同じパーティのツバキが、シェルナの棒術に興味を持ったところからだ。相手の力を受け流したり利用して戦うその技術を教えて欲しいと、昨晩酒場で願い出たのだ。そこにメナも乗っかると、一晩明けたらハルとジュピターとランディもこの場に来ていたのだ。

シェルナ

っま、人数多い方が
楽しいっか。
それじゃあ、ツバキから
手合わせいくよ。

ツバキ

え!?
いきなり?

シェルナ

レイマール伝統棒術
十六転圏導は全てにおいて
実践を重視するの。
ほら構えて。

ツバキ

は、はい。

 ツバキは木剣を構えると顔付きが引き締まり、少し浮足立っていた感じだったのが、落ち着きを取り戻した。流石、四階層を攻略したパーティの剣士だ。

 シェルナは嬉しそうに目を輝かせ開始の合図をする。レイマールから掠め取ってきた国宝のロッズステッキが、その手にはあった。

ツバキ

な、何!?

シェルナ

さぁ、もっともっと。
実戦のつもりで、
フェイントとかも入れて
いいんだよ。

ツバキ

よぉーっし!

 ツバキの顔付きが険しくなる。シェルナの言うように、まさに実戦かと思う迫力で攻め立てた。




 だが、シェルナに当てるどころかかすりもしない。それどころか、ロッズステッキは華麗に翻り、ツバキの手足を何度も打った。軽い痛みはシェルナが本気で打ってない証明で、ツバキも勿論感じていた。

シェルナ

今度は強く当てるよ。

ツバキ

くっそー!!

 初めてシェルナが自分から攻撃を仕掛ける。が、それはかなりの大振りで、ツバキに弾かれる。と思った瞬間、ツバキの足元はすくわれて、首元にロッズステッキが寸止めされていた。

メナ

えっ!?

ハル

す、凄いっす……

ランディ

おいおい、これは
ちょっと舐めてたかもな。

ジュピター

やるじゃん。

ツバキ

あたたた。
何がどうなったのか
分かんなかったよ。
なんか弾いたと思ったら
宙に浮いてた感じ……

シェルナ

『息を合わせ勢を併せば
掌中に敵あり』
相手の呼吸すらも感じ取り
その呼吸に合わせ、
相手の渾身の力と同じ方向に
自分の力を加える。
今回はツバキが弾く力を
利用したっってことだね。

ツバキ

も、もう一本!
もう一本お願いします!!

シェルナ

次はメナだね。
ツバキ、見るのも
修行の内だよ。

ツバキ

は、はい。

シェルナ

よっし、
メナも本気で来てよぉ~。

メナ

い、いきます!

 今、目の前で見ていたにも関わらず、メナはツバキの二の舞になった。

ツバキ

次いきます!

シェルナ

大切なのは
相手の中心を見極める事。
十六転圏導では
相手の心の中心も含めて
『中点』と言うの。
魔物に心があるか不明だけど
性格的な感情はある。
その感情の傾向と、
身体の中心点を見極めれば
貴方にだって出来る。

ツバキ

心……

シェルナ

いくよ。

シェルナ

『人に四柱、それに四形あり』
心を表す四水・体を表す四師
徳を表す四世・時を表す四層。

シェルナ

中点を把握し
体術に関わる四師を縦横無尽に
コントロール出来れば、

シェルナ

『師点一体』となり
いかなる障害も乗り越えられる。
そう言われているわ。

ツバキ

くぅ~。
何やっても敵わないな。

メナ

凄い…………
体格はツバキの方が良いのに。
それに綺麗……

シェルナ

わぁ~ぉ♪
綺麗だなんて嬉しい~♪
大丈夫、二人にも出来るよ。

 女子三人の訓練を見て、ハル達も身体が疼いてきた。すぐにジュピターとハルが手合わせする事になった。

ジュピター

ほいっと。
よっと。
そらっと。

ハル

うげげげげ!

ジュピター

まぁ、剣術にも
似たような感じの技は
あるからなっっとぉ。

ハル

ぽぺぇっ!

ハル

駄目っす。
全然真似できないっす。
ランディとやるっす。

ランディ

なんだ?
俺相手なら出来るっての?

ハル

ぃでぇっ!!

ランディ

確か『中点』ってのは……
なるほどなるほど。
『四師』っつーのは多分
これのことで、
こーしてあーして……

ハル

二人共、
ヒドイっすぅ~。

ツバキ

うわ、
あの二人出来てる。
すごい、聞いて見ただけで……

シェルナ

ジュピターの言った通り
剣術にも似た技術は
あるみたいだから。
ジュピターはそもそも
出来たみたいだけど、
多分ランディの方は
センスが抜群なだけかも。

メナ

センスだけで出来ちゃうのね。
私に圧倒的に足らないもの……

シェルナ

それにしても
ハルのやられっぷりは
気持ち良いくらい。

 この後、打たれ強いハルは強がって二人に向かっていった。ランディとジュピターは躊躇うことなく返り討ちにした。


 メナとツバキもシェルナに手合わせを一日中付き合ってもらった。陽気に包まれた休日の修練場に、二人の威勢の良い声は響き続けた。

 ~諷章~     167、心の中心

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