トーヤ

――あっ!

マイル

…………。

 
 
マイルさんはその場に立っていた。

服は少し破れた箇所があるし、
あちこちが埃で汚れているけど
余裕たっぷりの表情を浮かべている。
足もしっかりとしているみたい。

あの攻撃を耐えきったなんてすごい……。
 
 

マイル

……やるね……っ。

アーシャ

あなたも。
まさかあの攻撃を
魔法力で作った壁で
緩和させて耐えきるとは。

アーシャ

お見事です。

マイル

お褒めにあずかり
光栄だよ。

アーシャ

ですが形勢逆転です。
障害物がなくなり、
これで私は大剣を
充分に振るえるように
なりましたので。

マイル

それはどうかな?
私の使い慣れた武器も
使えるように
なったのでね。

 
 
マイルさんは再びポケットに手を突っ込み、
先ほどと同様に拳を取り出して
何かを呟く。

するとその手に現れたのは、
長槍のようだった。
ただ、僕の知っている長槍とは
少し形が違う。


セーラさんなら分かるんだろうけど。
 
 

エルム

長槍のようですね。
でも形が少し特殊ですが。

アポロ

そうだな。先端が
シャムシールみたいに
わん曲してやがる。

アーシャ

……薙刀ですか。

マイル

っ!

 
 
アーシャさんの言葉に
マイルさんは感心したような顔をする。
つまりそれが正解ということなんだろう。

そうか、あれは薙刀というものなのか。
 
 

マイル

ご存じだったか。
では、その身を持って
我が刃の味を
噛みしめたまえ!

 
 
 
 
 

 
 

 
 

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
手槍よりも長くて重さもあるはずなのに
その動きは何倍も素速かった。
まるでハヤブサが舞っているかのように
切っ先がアーシャさんに迫る。


さすがに今回は何回かヒットしているけど
あれでは浅すぎて
致命傷にはならないだろうな。

アーシャさんの自己治癒能力を考えれば
なおさらだ。
 
 

アポロ

スゲェ、マイルさん。
どこから刃が飛んでくるか
見えねぇ。

エルム

並の相手なら
気が付いた時には
首と胴体が離れている
でしょうね。

トーヤ

そうなっていない
ということは、
アーシャさんも同じくらい
実力があるってことだね。

エルム

あっ!

 
 
マイルさんが足下の瓦礫にひっかかり
わずかにバランスを崩した。

もちろん、瞬時に立て直したんだけど、
アーシャさんはそんなわずかな隙も
見逃さない。
 
 

マイル

しまっ――!?

アーシャ

っ!

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

マイル

がっ……。

 
 
 

 
 
 
マイルさんは反射的に体を捻って
アーシャさんの攻撃を
かわそうとしたんだけど、
間に合わなかった。

胴体に一撃を食らってしまい、
マイルさんはその場に倒れ込む。
そして床には血溜まりができていく。


まだ生きているけど、
早く手当をしないと死んでしまう!
 
 

トーヤ

マイルさんっ!

アーシャ

勝負ありです。
彼の体力が万全なら
負けていたのは
私だったでしょう。

アーシャ

でも先ほどの
エネルギー波によって
ダメージが蓄積していた
ようですね。

アポロ

トーヤ、下がれっ!

エルム

兄ちゃん、
ここは僕たちが!

 
 
アポロとエルムは僕の前に出て
アーシャと対峙した。

でもそれに対してアーシャさんは
大剣を振るって刀身に付いた血を振り払い
そのまま背負ってしまう。


戦う気はないということなのか?
 
 

アポロ

なぜ剣を収める?

アーシャ

あなたたちは弱い。
私がこの剣を使うまでも
ありません。
そういうことです。

アポロ

舐めやがって……。
そう簡単には
やられねぇーっ
うぉおおおおおぉーっ!

アーシャ

実力差を見抜けない時点で
あなたは私よりも
劣っています。

アーシャ

そんなにいきり立つのは
単なる強がり
ということでしょうか?

アポロ

強がり?
……ふっ、違うな。
答えを知りたいか?

アーシャ

はい。

アポロ

それはな――
時間稼ぎだよっ!

 
 
気が付くと
エルムは魔法の詠唱を終えていた。
あれは正確には特殊能力の
ラーニングだけど。

そしてエルムがストックしているのは
ライカさんが使った光系の魔法!
 
 
 
 
 

エルム

神魔光滅陣!

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
エルムが放った魔法はアーシャさんに
命中した。
間髪を入れず、
今度はアポロが魔法の準備を整える。

初めて共闘するのに息はピッタリだ。
 
 

アポロ

時間稼ぎのおかげで
俺も魔法が使える状態に
戻ったぜ!
続けてコイツも食らえ!

 
 
 
 
 

アポロ

破魔爆裂弾!

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
アポロが放ったのは破邪魔法の中でも
最上位に位置するものだ。

クリスさんが最も得意としている魔法で、
上位の魔族でも直撃すれば
ただでは済まない。


そもそも魔族が対魔族用の
破邪魔法を使えること自体が
イレギュラーなんだけどね。
 
 

アポロ

は……ははは……
やったぜ!

エルム

兄ちゃん、
早くマイルさんの
治療を!

トーヤ

そ、そうだね。

 
 
 

 
 
 

トーヤ

これ……は……。

 
 
僕はマイルさんに駆け寄り、
傷の度合いを確認した。


……確かに胴体の傷口は大きい。

それにショックで
意識は失っているみたいだけど
この傷なら充分に間に合う。



僕は腰に下げていた布袋から
即効性の回復薬をマイルさんに飲ませた。
そして傷口が塞がるように
外傷に効く回復液を振りかける。

これで一命は取り留めたはず。
すぐには動けないかもだけど。
 
 

アポロ

がはっ!

エルム

あぐっ!

トーヤ

っ? アポロ? エルム?

 
 
 

 
 
振り向くとアポロとエルムは
床に倒れ込んでいた。
でも血は出ていないみたい。
つまり気を失っているだけだと思う。

当て身でも食らったんじゃないかな。
骨や内臓に損傷を受けた可能性は
あるかもだけど。


そのかたわらに佇んでいるのは
アーシャさん。
あれだけの魔法を食らったのに
ボロボロなのは服だけなんて……。

いや、確実に効いている。
でもそれ以上に回復力が高かったんだ。
 
 

アーシャ

……油断大敵です。
トドメを刺すまで
見届けなかったことが
あなたたちの敗因です。

トーヤ

アーシャさん……。

 
 
こんなに短時間で回復するなんて
想定以上だ。
その回復力はロンメルに
匹敵するかもしれない。


アーシャさんは無表情のまま
僕に歩み寄ってくる……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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