最終話
鬼も十八番茶も出花

窪中いにお

またそんな悪趣味なコインなんか眺めてどうしたんですか?
まさかまたとんでもない額で買取したんじゃないでしょうね!?

二岡 アライヲ

いえいえ、これはちょっと知り合いの職人に特別に作ってもらってる記念コインなのですよ。

彼の仕事が空いたときに、余った素材で遊び心でちょくちょく作ってくれているんです。

二岡 アライヲ

それを父に見せたらかなり気に入ってくれたようでして、熱心に蒐集しているようだから近々プレゼントしているわけです。

窪中いにお

へぇ~、それは知りませんでした。
僕が郵送しておきましょうか?

二岡 アライヲ

大丈夫、自分でやります。
そうでもしないと一日の暇つぶしが減ってしまいますので。

窪中いにお

呑気だなあ。
頼みますからその時間を仕事に変える努力をして下さいよ~。

窪中いにお

そういえば聞きましたか?
昨日、楊様の中華屋が夜中にボヤを起こして全焼して、そのまま意識不明の重体になってしまったって話!?

二岡 アライヲ

ああ、そうらしいですね。
始めは耳を疑いました。
今でもとても信じられません。

窪中いにお

そうですよねえ。
何でも発火条件が不自然だったらしく、
もしかしたら借金を苦に自殺を図ったのではないかという話も出ているそうですよ?

二岡 アライヲ

ということは僕たちが最後の絶品ワンタンスープのお客さんになってしまったわけですね。
何ともやり切れません。

窪中いにお

こんな事になるなら前金の100万円渡さなければよか…ああ、すいません。
僕ったらなんて不謹慎なことを。
失言でした。

二岡 アライヲ

…いえ。
経理のいにお君の立場ならそう思う気持ちはわかります。

もしお葬式が開かれるようでしたら僕たちも参列させていただきましょう。

窪中いにお

はい、そういたしましょう!

二岡 アライヲ

ところでいにお君、僕はあなたに謝罪しなければならないことがあるんです。
お時間いただけますか?

窪中いにお

おおその様子、やっと悔い改めて仕事をやる気になって下さいましたね!
聞きます聞きますとも!

二岡 アライヲ

『エリーゼのために』の後に入る適切な解釈をひらめいたのです!

窪中いにお

ええ、またその話ですか~
簡便して下さいよ。

二岡 アライヲ

実はあの曲は恋の成就やいっときの感情、ましてただの贈り物ではなく彼の“魂の決意”だったと思うのです。

窪中いにお

すいません、単刀直入にお願いします。

二岡 アライヲ

エリーゼのために“来世にこの曲を送る”ということではないでしょうか?

二岡 アライヲ

この恋が実ろうともそうでなくとも、
そしてたとえ僕が死んだとしても、
僕に代わりにこの曲を誰かが引いてくれるし、

もし今度同じ時代に生まれ変われたとしたら、この曲を目印にまた君のために僕はピアノを弾くよ。

二岡 アライヲ

それが彼の永遠の愛の証明だったのです!

窪中いにお

なるほど。
ロマンティックな解釈ですね。
たしかにそうであると願いたいです。

二岡 アライヲ

だからヴェートーベンとエリーゼは前世の記憶が無くとも未来永劫ずっと繋がっている。
そんな気がするんです。

窪中いにお

なんでそんな風に思ったのですか?

二岡 アライヲ

それは…

坊野香奈子

誰も来なかったのでたまには店長描いてみましたドーン

二岡 アライヲ

That's Demonic!!
…なのだけれども、えーっと

坊野香奈子画伯作 アライヲのデッサン画

二岡 アライヲ

ありがとう、香奈子さん!
一生大事にします。

ただその…

こんなに尖った角を立ててますけど、僕ってこんなに印象悪いですか?

君はもしかしたら本能的に
わかっているのかもしれないね。


どうして俺たちがここにいるのかを。


君はずっと昔からの笑えない
ジョークに付き合わされているんだぜ?

坊野香奈子

あ!時報だ。
今日のところはこの辺で失礼します。

ばーい!

坊野香奈子

ぼうのかなこ

棒の金こ


この金棒

人間ニナッテ一緒ニイタイヨ
赤鬼様

千年前

この夕焼けに似た
あの血染めの地獄で
君は殺人鬼の俺に語り掛けてきた
最初のデモニキュリオだったね。

二岡 アライヲ

明日だって、
明後日だって待つさ。

君が人間に転生するまで千年待ったんだぜ。


死ねない俺の永遠の孤独を
癒してくれるのは君の魂だ



だから君が鬼籍に入るまでの数十年
俺はめいっぱい甘やかすよ



君が何に生まれ変わろうとも
俺は心を鬼にして
この宿命と共に流れ続けよう

でもそんな大昔の事など忘れて
彼女は呑気に
俺にこう言うんだ。

坊野香奈子

鬼さんこちら♪
手の鳴る方へ~


デモニキュリオの鑑定士

二岡アライヲ

終幕

最終話 鬼も一八番茶も出花

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