一切私の方を見ない要くんに、なんて声をかければいいかわからなくてソッと隣に腰掛ける。

雨宮 要

……なんだよ。噂でも聞いて笑いにきたのか…

間宮 朱里

……ううん。落ち込んでるって耳に入ってきたから…探してて…

雨宮 要

なら目の前から消えろ。……それだけで元気になる…。



悪態ばかりついているけれど、やっぱり今日の要くんは歯切れが悪い。


何があったの?

そう聞いたって無駄だよね…

元気を出して。

一体何に対して…そう言えばいいの。


どうやって彼にいつもの調子を取り戻してもらおうかと悩めば、自然に沈黙が続いた。


このままじゃ来た意味ない。




間宮 朱里

……要くん…この前怒ってたけど、石川くんのこともう尊敬してないの?

雨宮 要

………なんだよ。いきなり

間宮 朱里

だってあんなに尊敬オーラ出てたのに、そうじゃなくなったら、同じ弟子として寂しいなぁなんて。



私が切なげに笑ったら、要くんは黙りと口を閉じてしまった。

間宮 朱里

……そうだ!前も聞いたかも知れないけど、要くんはどうして石川くんの弟子になったの?

雨宮 要

………

間宮 朱里

私はね、彼氏が親友と浮気してる現場に鉢合わせちゃってね…すごく悔しくて。

雨宮 要

……

間宮 朱里

更に暴露しちゃうと、初恋で大恋愛したんだけど、色々あってダメになっちゃって…不感症なんだ。石川くんならなんとかしてくれるかもって泣きついたの。



あははー

と声を出すと、要くんがやっと顔を上げてこちらを見てくれる。

雨宮 要

…お前ただのミーハーじゃないの?

間宮 朱里

ミーハーって…違うよ。私要くんの言う通りブスだし、石川くんなんて遠い存在だったもん。初恋の相手と色々あった後に、やっと信用できると思ってた彼氏が、親友と布団の中で抱き合ってて、ヤケになってたの。

雨宮 要

……可哀想な奴

間宮 朱里

…だよね!石川くんってばそんな私に嫌な顔せず付き合ってくれてるんだよ。ほんと凄いよね…!



やっとこちらを向いてくれたことが嬉しくて、少し話しすぎた…。


だけど良いか。本当のことだし。

雨宮 要

…んでそいつに仕返しするために翔平先輩のこと使ってんの?

間宮 朱里

え、…ち、違う!違う違う!仕返しなんてしないよ!!

雨宮 要

はぁ?

間宮 朱里

だってそんなことしても虚しいだけでしょ?



要くんの目が大きく見開いた。

何かおかしなこと言ってしまったかと、こちらは固まる。


雨宮 要

虚しいって…なんだよ…

間宮 朱里

え、だって……ひどいことした元彼引きずってても仕方ないかなって。なら私は、原因であるこの身体を治して、次に幸せになれたらなって……

雨宮 要

……何それ。悔しくないわけ?んなことされたのに。



悔しいか…
そうだよね。悔しくて悔しくて仕方なかったなぁ。


だけど今はそんな気持ちはどこかに消えた。

間宮 朱里

悔しかったからものすごく幸せなるっていう仕返しをするの!!!



満面の笑みを浮かべれば、目の前にいる彼は、正に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。


雨宮 要

……お前って…底なしのバカだな……



そしてすぐに切ない表情で、何かを思い出したように呟く。


間宮 朱里

……大丈夫?要く

雨宮 要

……俺もすごい馬鹿だ…



ぽつりと聞こえたその言葉に、私は彼が話しをしやすいように黙り込んだ。

雨宮 要

……翔平先輩みたいになれるわけないのに。……あの人超える為に、騒いでる女の子誘ってみたけど、どうしても昔のこと思い出して出来なかった……おかげで今日は噂の的




やっぱり要くんにも何かあったんだ…
女の子ってどうしてもあんなに噂が回るのが早いんだろう……。



間宮 朱里

……要くんも…何かあったの?



ソッと丁寧に言葉を紡げば

雨宮 要

……はぁ


と大きなため息が響いた。



ゆっくり時間を置いた後、意を決した様に彼は話し出す。

雨宮 要

……初恋の相手が…ほんとに真剣に好きだった。この髪とか目とか宝石みたいで綺麗って言ってくれて、優しく触れてくれる先輩だった…。表情豊かな人で、すごく可愛くて…どんどん好きになっていった……

間宮 朱里

うん……

雨宮 要

……笑われるかもしれないけど、結婚のことも真面目に考えてたし…その人のためならなんでもできるって…ずっとずっと一緒にいるもんだと勝手に思ってたのに。




段々険しい表情になっていく要くんに私もつられて険しくなる。



なんて悲しい声なんだろう…
なんて切ない声なんだろう…

雨宮 要

…だけど…二股してたんだ彼女。そして何より…



そこで止まった彼は、顔を手のひらで抑えて悔しそうに震えていた。そして少し時間が空いたと思ったらソッと苦しげに呟かれる。



雨宮 要

…俺の方が…浮気相手だった……

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