サンザシの死について聞いたときに、俺の身体中から溢れだした黒い光を思い出す。

 セイさんが、まだはやいとか、封じないととか、言っていた。


 俺は、手のひらを見た。

 何かが出てくる気配は、ない。

わからない……サンザシだけじゃない、俺は、なんなんだろう

少しずつ、わかっていくと思う。なんとなくだけど

 ミドリは、そう言って首をかしげた。

 どう、それでもいい、とでも言いたげだ。

俺も、そう思う

 俺は、右手を握りしめた。

 思い出したのだ。サンザシの言葉。

いつかの日に備えて、覚悟をしろって、言われたんだ、サンザシに

……そう

 覚悟ね、とミドリは薄く微笑んだ。

何事にも必要ね。

私も、何が起こってもびっくりしないように、覚悟しておかないと

 うん、とひとり頷くのは、自分を納得させるための動作のようだった。


 改めて、巻き込んでしまって申し訳ないなあと思ってしまう。

 でも、そのことを述べたら、きっと彼女は困ってしまうだろうから、黙っておく。



 さあて、とミドリは高い天井を見上げた。

謎解きしますか!

 ミドリが手をさしのべてくれる。

 俺は、彼女の手をとった。 

そうだね……まず、魔王のことは置いておいて、ひとつの確実な情報。

ロジャーさんは王様だったね

王様が出てくる物語なんて、山ほどある。


私たちは幽霊かもしれないし、傍観者かもしれない。まだ自分の役柄もわからない。


とりあえず、この世界の物語を見つけよう。

それがタカシ君の旅には必要不可欠な要素、だよね

 立ち上がる。

 彼女の適応力には感服せざるを得ない。

ありがとう

 いいよと朗らかに笑う彼女の強さは、どこかサンザシに通じる強さがあった。





 サンザシ。サンザシ。

……サンザシは、今何をしているんだろう……まだ、どこかにいるのかな

 俺の呟きに、ミドリはうーんと首をかしげた。

わからない、けれど、まだどこかにいると思う。

いないならいないって、言うと思うの、セイさんは

そうか、確かに。


死ねないっていうのは、いるっていう伏線だって、どこかで会える伏線だって、信じるよ

人生に伏線かあ

 ミドリが無邪気に笑った。俺も、小さく笑う。

セイさんが言っていたんだ。

人生は伏線だらけだとか、なんとか。

すべてが伏線だって

物語の神様らしいね

確かにね

 さあ、どちらの扉に進もうか。

 それとも、この場にいようか。
 しかし、待っているのは非常に心細いものだ。


 どうしよう、こうしようと少しだけ話している間に、新たな登場人物が現れた。



 突然、音もなく。



 豪勢な服を着た三人組だ。

 神々しさもあり、もしかしたら俺たちが見えてしまうのではと、一瞬かまえたほどだ。


 しかしその三人は俺たちに気がつくことはなかった。真ん中にいたひとりが、よく響く声で言う。

誰か、いないか

 すぐに奥の扉が開き、現れたのはシグレだった。

 彼女は三人にむかって頭をさげると、いかがいたしましたかと問うた。

我が名はキサラギ。
時の守り人である。

言伝がある。人間の王はいるか

 俺はふらりとした。次から次へと! 

 ミドリは目を細めて、桃太郎の世界で鬼だった人ね、とキサラギを見つめた。

7 記憶の奥底 君への最愛(5)

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